135.Sランクスキルの試練
「アイツら、今朝ダンジョンに大人数で入って行ったよ」
シレイアが、食堂で皆に話し始める。
アテル達との邂逅から、一夜が明けていた。
今は朝だけれど、この黒昼の村には日がほとんど差さないらしく、窓の向こうは月明かりもないため、下手をすると夜より暗い。
「アイツらが持っていた武具はSランク、Aランクがほとんどで、一人最低一つはAランク武器、防具を所持していた」
メルシュは伏せているが、十三人中六人はSランク武器を持っている事を確認したとか。
ここに居る面子が持つSランク装備は、俺の”滅剣ハルマゲドン”、ユイの”波紋龍の太刀”、トゥスカの“古代王の転剣”と“古生代の戦斧”、タマの“魔術師殺しの槍”のみ。
指輪や隠れNPCの専用装備、ランクアップジュエルによりSになっている物もあるけれど、そっちはノーカウント。
指輪のSランクは比較的手に入るし、ランクアップした武器ではメルシュにも分からない。
そもそも、ランクアップでSになった物と違い、元々がSランクの場合強力な特殊能力が備わっている事が多いらしい。
モモカの二つのSランク装備は比較的簡単に入手出来るためか、ランク相応の性能はあるけれどこれといった特殊能力は無い。
「そこで、もし次に奴等と戦闘になっても負けないように、この町で戦力アップを計ろうと思う」
一応、俺は昨日のうちにその方法をメルシュから聞いていた。
「アイツら、人間をみんな殺すつもりなんだろう? 早く追い掛けなくても良いのか?」
尋ねるザッカル。
「隠れNPCを取られる可能性もあるし、ゆっくりしているわけにはいかないけれど、奴等の目的には私が必要だから、遅かれ早かれいずれ接触してくる。この村で出来ることも多いから、ここに留まってジックリ準備しようと思うの」
「俺も賛同したんだ、ザッカル」
「お前が言うなら、まあ良いか」
その信頼がちょっと怖い。
「今持ってる素材でランクの高い装備の作製、四源霊の洞窟という場所での経験値稼ぎとかあるけれど、本来この辺じゃSやAランクの武器なんて作れない」
俺の“シュバルツ・フェー”は、突発クエストで手に入った物を分解して素材を揃えたしな。
「じゃあ、意味ないじゃない」
そう言ったのはアヤナ。
「実はこの村、Sランクスキルを手に入れる方法があるんだよ」
メルシュがイヤラシい顔をしている。
「ノーザン、ナオ、リンピョン、ルイーサ、アヤナ、アオイ、ザッカルの七人には、これから試練を受けてもらうよ」
●●●
「なんで、俺達七人だけなんだ?」
メルシュに案内されて、村はずれにある大きな割れた岩の前まで連れて来られた。
「この試練を受けられるのは、Sランクスキルを持っていない者だけだからだよ。隠れNPCの固有スキルはほとんどSだし、他のメンバーは突発クエストで手に入れちゃったらしいからね。モモカは最初から、“竜化”を持ってたみたいだし」
つまり、この七人だけがSランクスキルを一つも持ってねぇと。
「ちなみに、受けられるのは一人一回だけだから。死ぬ危険も大きいし、気を付けてね」
物騒な事言いながら、俺達になにかを配るメルシュ。
「これ、石階段の町で、NPCが500000Gで売ってた“墓石の欠片”って奴だろう!?」
名前からして祟られそうだったから、よく覚えてるぜ。
「それが無いと、ここでSランクスキルの試練が受けられないんだよ」
まさか、目の前の割れた岩の欠片なのか?
「試練の内容だけれど、パターンが結構複雑だから頑張ってね。あと、始まったらすぐに“無名のスキルカード”を使うように」
「うお!?」
「へ?」
「なに!?」
石の欠片が輝いて浮かびだしたと思ったら、身体に光りがまとわり付いてきやがる!
●●●
七人の姿が、光りにグルグル巻きにされて消えた。
試練の内容は大きく三パターンなんだけれど、細かいところのパターンが多すぎて、下手に教えない方が良いんだよね。
「さて、どんなスキル、アイテムを持ち帰ってくれるかな」
さすがに誰も死なないとは思うけれど、まあ、死んだらそれまでか。
●●●
○オーラソルジャーを倒せ!
○倒すまで出られません。
真っ暗闇が晴れていくと、朱色の木造の橋の上に居た。
チョイスプレートの表示を確認後、橋の上に赤い光が立ち昇り、光の波を常に振り撒く二メートル程の人型モンスターが現れる。
「アイツを倒せば良いのか」
私は“ヴリルの聖剣”と“パラディンストーンの剣盾”を構え、敵を注視。
『……』
白いのっぺらとした仮面を着けており、同じく白い長めの胴着に身を包んでいた。
男にも女にも見えるような背格好。
「……ッ!!?」
集中力の切れ目を狙ったかのように、いきなり飛び掛かってきた!
「く!」
その手にはいつの間にか白い直刀が握られており、私はソレを盾で受け止める。
「シールドバッシュ!」
盾からの衝撃波で体勢を崩そうとするも、その前に後退されてしまう。
どういう能力があるのか分からない敵と戦うのは……怖いな。
光の波によって常に身体がぶれて見える。
橋がアーチ状になっているのも、地味に戦いづらい。
『“不知火”』
奴の直刀に白炎が灯る!
剣を振るうと、奴の白炎が飛び掛かってきた!?
「“闘気剣”――“瞬足“跳躍”!」
聖剣に白い気を纏わせ、”瞬足”と”跳躍”を組み合わせて長距離を真っ直ぐに跳び――一気に詰める!
「ハイパワーブレイク!!」
『“濃霧”』
白の炎を躱しながら斬り込むも、煙となって消えた!?
いや、匂わないところを見るに、煙ではなく霧か。
私がさっきまで立っていた側に現れる、オーラソルジャー。
「はぁぁああッ!!」
今度は、ただ走って斬りつける!
逃げずに、剣で受けたか!
「ハイパワーブレイク!」
『”濃霧”』
またか!!
「まさか、武術スキルに反応している?」
また反対側に現れるオーラソルジャー。
「面倒だな」
私が距離を置いていると、また白い炎を飛ばして来た。
「大体パターンは読めた」
炎を闘気の剣で切り払いながら接近し、連続で斬り込む!
向こうは防戦に撤するか!
何度目かの切り払いののち、腹に盾をぶつけ、シールドバッシュを発動!
『”濃霧”ッ!』
「“瞬足”跳躍”!」
どこに現れるか分かっていれば、問題ない!
予想通りの位置に霧が集まっていく!
「“光輝剣術”」
Lv37で選択したサブ職業、”光輝剣使い”のスキルを発動!
「――シャイニングブレイク!!」
実体化途中のオーラソルジャーに直刀で受け止められるも――光輝の衝撃波はモロに浴びせた!
『ぐぅぅ……』
服はズタズタとなり、剣を持っていた腕は出血するも……まだ倒れない!
“ヴリルの聖剣”の“聖威”の効果で、光属性の攻撃力が上がっているはずなのに。
『“白骨火葬”』
剣を持つのとは反対の手に紫の光が収束し、そこから煙のような白の炎が放たれた!?
「シールドバッシュ!!」
衝撃波で炎に抗うも、防ぎきれずに炎が纏わり付く!!
「き、消えない!」
どれだけ身体を振り払っても、皮膚に灯った炎が全然消えない!
異常な熱を、身体の至る所から感じる!
熱がこの場所の静謐とした空気感を呑み込み、私の感覚を炎で染め上げていく!
――血と火薬と、鉄の匂い。
ズキリと走ったのは、リリルに突き付けられた昨日の痛み。
外と内の痛みが混ざり合って――――急に全てが、どうでも良くなってきた……。
……“ヴリルの聖剣”から、力を感じる。
この身を蝕んだまま消えぬ白炎の熱さが、とても遠い。
まるで他人事。
遠いどこかで起きた、些末な出来事のよう。
「……行くぞ」
聖剣に刻まれた六文字から青い燐光を強く振り撒かせ、飛んで来る白炎を無視して駆ける!
――自分が薄れて、心が大いなる存在と溶け合っていくかのよう。
「”光輝剣術”」
『”不知火”』
直撃するであろう炎に向かって、盾に納められた石剣を抜きながら白石の盾を投げ飛ばし――防ぐ。
『“白骨火葬”!』
「――シャイニングストライク」
白の炎を光輝の突き技で貫き、オーラソルジャーの胸をも突き刺す。
それでもオーラソルジャーは止まらず、直刀で上段から斬り掛かろうとする握り手を、聖剣を手離した右手で受け止め――顎下から白石の剣を突き入れた。
『が!! ……ぐ……ぅ』
仮面の下から紫の血を撒き散らし、倒れるオーラソルジャー。
「……もっと……殺さなきゃ」
じゃないと私が――――人柱にされてしまう。
左手に持っていた石の剣に付いていた紫の血が光に変わっていく様を見ていると――急に胸が苦しくなって!!!?
「……コセ?」
気付いたら、右手の指で唇をなぞっていた。
思い出したのは、忘れかけていた唇の想い出。
「私は……なにを……」
我に返り、さっきまで抱いていた心情に恐怖を抱く!!
「……コセ……お前は、こんな想いに耐えてあの力を使っていたって言うのか」
膝が折れ、震える身体を落ち着かせようとしたのか……自分で自分を強く抱きしめる。
世界の全てが、塵芥程の価値も無いと思えてしまうようなこんな冷たい感覚に耐えて、お前はあれだけの力を振るっていたのか。
気付けば、この身を焼いていた白炎も、その痛みも消えていた。
○クリア報酬を一つ選択してください。
★“濃霧のスキルカード”
★“白骨火葬のスキルカード”
★“光波衣のスキルカード”




