131.黒昼の村
視界が開けると、いつもの祭壇の上だった。
「“黒昼の村”って、こういう事か」
空は黒く、夜空と違って星も月も見えない。
暗雲に覆われているわけでもなく、ただ青味を帯びた黒がどこまでも広がっていた。
「メルシュ、ここはこういう空の村ということですか?」
「そうだよ、トゥスカ。一日中夜のように暗いのがこの”黒昼の村”の特徴だよ。ああ、でも夜になると月や星は見えるからね。むしろ、今より明るいくらいだよ」
村のアチコチから、篝火と思われる火が見える。
……右側の外れに、青い火も見えるけれど。
「先に下りて待ってようか」
大人数の時に、変なのに絡まれても困るし。
「今まで二回に一回くらいの割合で、転移直後にトラブルに巻き込まれてますからね」
英知の街と競馬村、そして石階段の町。
トゥスカの言う通りの確立なら、ここでもあり得る。
「じゃ、お先! ヒャッホーイ!!」
ザッカルがなぜかはしゃぎながら、階段を警戒に跳ね下りていく。
「……トゥスカ、メルシュ、ザッカルを追ってくれ」
一人で行動するなよ、アイツ!
俺とモモカじゃ、あのザッカルの身軽な動きに付いていけそうにない。
「ザッカル、子供みたい」
ほら、モモカにまで言われちゃったよ!
●●●
俺は、夜が好きだ。
まだ昼頃のはずなのに、この村はこんなにも暗い! おもしれー!!
最近まで夜はネズミ退治しねーと生き残れなかったから、普通に出歩ける事にめっちゃテンション上がる!!
日を跨いでから眠って、起きたら昼過ぎまでネズミを狩って、夕刻に備えて身体を休める。
そんな日々を二ヶ月近く繰り返した。
挫けそうになって、ネズミ狩りをしなかった日もあったけどよ。
「お、もう終わりか」
祭壇の下まで、あっという間だったな。
「さて、さすがに待つか」
今まで一人だったから、つい勝手な事しちまった。
もっと団体行動を心掛けねぇとな。
「た、助けて!!」
質素な木造の家の角から、情けない男の声が聞こえてきた。
「って、ケンジ!?」
ち、アイツ、まだ生きてたのか!
「ンげふッ!!」
「な!?」
何者かがケンジの背に覆い被さり――二本の短剣を突き刺した!!?
「た、助け……ザッカ……ル……」
地べたに這いつくばり、口からドバドバと血を吐きながら……絶命するケンジ。
「……チ! 持っていたのは”風の宝珠”か」
チョイスプレートを確認し、舌打ちする黒ローブの女。
背は低く、フードが真ん中でへこみ、背中の辺りが異様に盛り上がっている。
「お前……獣人か?」
「そう言うお前は、さっきのクズの仲間か? 全員殺したと思っていたのに」
「違ーよ。ソイツの仲間になんて、死んでもなるもんか」
「そうなんだ、むしろ好都合――手に入れた宝珠を出しなさい。そしたら見逃してあげる」
コイツの狙いは宝珠。それも風以外の。
俺達以外にも、宝珠を集めようとしている奴等が居るのは分からんでもない。高く売れるらしいからな。
だが、なんでわざわざ特定の種類を欲しがる?
――まさか、俺達と同じ目的なのか?
「この二カ月、他のプレーヤーが現れないから諦めようと思ってたけれど……ようやく目的が達成出来そう!」
「悪いな、俺は宝珠を持ってねぇよ」
四つ全部、ルイーサが持ってるからな。
「武器を見るに、宝珠側を選んだはずだけれど……仲間が居るんだ」
少ない情報から、どんどん読み取って行きやがる!
「ザッカル!」
トゥスカとメルシュが追い付いてきた。
「三人か……まあ、問題無いかな」
黒づくめの女、三対一でもやる気かよ。
「やめておけ、リリル」
「アシェリー?」
同じく黒づくめの、私よりデカい女が現れた。
「あのイヌ科の獣人、Sランクの武器を持っている。我々と同じく突発クエストをクリアしたのだろう。それに……」
あのデカ女、メルシュを見てる?
「ワイズマンを手に入れているとは」
「お前、第七ステージのタイタンか」
メルシュが低い声で尋ねた。
石階段の町で仲間に出来るはずだったっていう、隠れNPCか!!
「今はアシェリーだ。よろしくな」
口元の布を取り、褐色肌の顔が顕わに。
「私は、今はメルシュよ……もしかして、ギルマンも居るの?」
「ん? いや、知らんな」
なんの話だ?
「“火の宝珠”、持っていたらくれないか? 他の宝珠を二つくれてやるから」
「……どういうつもり? 宝珠一つに二つ差し出すなんて、そっちが損するだけでしょ」
普通はそうだ。コイツらが宝珠を欲しがっている理由が、俺達と同じで無いのならな!
「第八ステージの隠れNPC、マクスウェルが欲しいのです。ワイズマン、メルシュ」
今度は、ぞろぞろ同じローブの奴等が出て来た!
●●●
私を呼んだ女が、フードを外す。
「白人……」
青い瞳、白い肌、金髪の髪。
「私は、元デルタのデボラ。そう言えば、おおよその察しはつきますよね?」
デルタの人間が、このゲームに直接乗り込んでいる!?
「貴方の契約者はどこです? 少しお話をしませんか?
「どうやら来たようだ」
デボラの横にいた黒尽くめが、男の声を発する。
「無事か!」
マスターとモモカが追い付いてきた。
「ワイズマンのマスター。大義です。今から隠れNPCの交換をしませんか? こちらは、パワーと耐久力に優れたタイタンを差し出します」
デボラ、私達隠れNPCを物として見ているか。
協力は期待しない方が良さそうね。
「デボラ、僕は……」
「すみません。ですが、我々の悲願にはワイズマンが必要なのです」
デボラ……デルタの人間が、男に気を遣っている?
「我々は、このゲームを終わらせるために動いている。ハッキリ言いましょう。普通のプレーヤーでは、第九十ステージより先に進むことは出来ない」
「この力を使えなければね」
デボラの言葉の意味を補足するように、男は黒石の大剣を掲げて――神代文字を三つ刻んだ!!
「なっ!?」
男だけじゃない! この十三人の集団のうち、六人が神代の輝きを武器に刻んで見せた!!
「この力なくば、我々には勝てない」
「それがどうした」
コセとトゥスカが、同時に武器に神代文字を刻む!
それも六文字!
「これは驚いたな……けれど、むしろ喜ぶべき事か」
黒ローブの男が、フードを外して前に出る。
「僕の名前は、日高 アテル。君達、僕等の仲間にならないか?」
この作品は、書いているというより書かされているという感覚が強いです。
アテルという新キャラも、数日前まで存在しないはずでした。