129.黒く揺れ、儚く消え
「ふぃ~、生き返る~!!」
ルイーサが服をはだけさせ、リビングのソファーにだらしなく腰掛ける。
ファイヤーロード組は、シレイア以外皆あられもない格好で寛いでいた。
……シレイア、モモカの前ではさすがに全裸にはならないか……良かった。
「宝珠、揃ったね」
土、風、水、火の四つの宝珠、第八ステージの隠れNPCを手に入れるためのアイテムが全て手に入った事を、メルシュが証言してくれた。
「それで、次の隠れNPCはどうするんだい?」
「どうするとは?」
シレイアの疑問に、疑問で返す俺。
「誰に隠れNPCと組ませるかって話しさ」
「今度の隠れNPCは魔法使いだから、戦士の人間と組ませるべきだと思う」
「なら、俺はどうだ?」
ジュリーの言葉に、名乗りを上げるザッカル。
「残念だけれど、隠れNPCと契約出来るのは異世界人だけなの」
「なんだ、残念」
メルシュの説明に、すぐに引き下がるザッカル。
「となると、異世界人の戦士は……ルイーサとアオイか、メグミさんか」
異世界人の戦士職、結構少ないな。五人しか居ない。
ただ、獣人は皆戦士で固定されているから、パーティーのバランス的にはちょうど良いんだよな。
「悪いが、私は除外してくれないか。ガラじゃ無い」
メグミさんが辞退してきた。
「今度の隠れNPCは万能型だし、攻守をこなすメグミさんかルイーサが適任だと思う」
ジュリーの言葉に、話し合いに参加していた全員の視線がルイーサに向けられる。
「あへ?」
はしたなく着崩したままソファーの背もたれに脚を掛けているため、色っぽい脚が丸見え!
――暑さで火照ったその表情に、ドキッとしてしまった!!
「コセ……今日は私とって約束でしょ」
軽く耳を引っ張って来たのは、今夜を予約してきたナオ。
氷と炎の属性に特化させることにしたナオは現在、“氷炎の魔道服”という赤い炎の紋様が入った淡い青の服を着ている。
メルシュ以外の魔法使いは、皆ほとんど同じデザインの服を着ていた。
同系統、同性能の衣服装備みたいなので、ほぼ色違いなのだろう。
「ちょっと、聞いてるの?」
「うん、聞いてる」
石階段の町に着いてからはスタンピードラットの駆除を優先していたため、未だにジュリーとナオとはそういうことをしていない。
二十兆匹を包囲殲滅するまでは俺は昼に、二人は夜の町に現れるネズミを退治していたため、時間が合わなかったのだ。
モモカが一緒に寝たいと言えば、その日はお預けになってしまうし。
「もしかして、嫉妬?」
「当たり前でしょ。ライバル多すぎるんだから……不安になっちゃうよ♡」
年上のナオにデレられると、変な気分になってくる!
★
「ん♡ ん♡♡」
夜、ベッドに腰掛けながら、ナオとキスしている。
「ん♡ ……もっと、キスして♡」
「俺は、これからこの世界で生きていく。複数の女性と一緒に。それでも良いんだよな?」
「……正直、コセには私だけを見ていて欲しい。でも、それだとコセは私を選ばないでしょ?」
誰か一人だけと言うのなら、俺はトゥスカを選ぶ。
そこだけは、まったく揺るがない。
「ごめん」
「謝らないで……分かってるの。自分がそんなに良い女じゃないって」
「ナオは……充分綺麗だよ」
本気でそう思ってる。
「分かってるでしょ、私の言いたいこと」
「…………多分」
俺の中で、ナオとトゥスカでは大きな開きがある。
「トゥスカは、私よりずっと貴方を愛してる。あの子と比べたら、私の想いは薄っぺらいって……最近思うようになったの」
ナオの目は、怖いほどに落ち着いていた。
「私はきっと、最後まで一緒には行けない。そんな気がするから……」
アヤナと、似たような事を考えているのか?
「それでもね、貴方に愛されるような女だったって……そう思い続けたいの」
ナオが身を寄せてくる。
「ナオ……」
どこかで、俺とトゥスカが立っている場所と、ナオと他何人かが立っている場所が、根本的に違うと感じていた。
初めて会った頃のユリカにも、血の繋がった家族に対しても、同様の感覚はあった。
でも、最近のユリカに対しては感じなくなってきている。
「諦めるな、ナオ。まだそうなると決まったわけじゃない」
「……うん、そうだよね…………ねえ……シよ♡」
「うん」
再び唇を重ね、彼女の下着を脱がせていく。
どこかに消えてしまいそうなナオをこの世界に縫い止めようと、俺は執拗にナオのぬくもりを求め、ナオもまた、俺をたくさん求めてくれた。
●●●
変な気分だ。
シレイアさんに“波紋龍の太刀”を取り上げられた時に言われた事が、ここ数日頭から離れない。
「ん♡♡ あ♡♡ ん♡♡」
ナオさんの喘ぎ声が、扉越しに僅かに聞こえて来るも……今までみたいに全然ワクワクしない。
夜の雰囲気と私の内心、二人の営みの気配が交じり合い、私の意識をグニャグニャに歪めてくる。
学校の同級生が和気あいあいと話している時によく感じた、歪な孤独感。
私だけが、皆とは別の場所にいるような感覚。
よく変な子扱いされる私の方が、きっと異質なのだろうと、あの頃は思ってた。
……最近、黒い感情が湧き上がってしまう…………気がする。
今まではもっと静かで、青い世界に時折さざ波が起きる程度だったのに。
その原因は多分…………。
私は、そっと自室に戻った。
●●●
「……変な感じ」
夜が明け、私はコセを起こさないように部屋を出た。
バルコニーで風に当たりながら、下腹部を撫でる。
夢のような一時だった。
恋人ごっこが、家族に変わった。ううん。今まさに、私の中でコセが私の夫になろうとしている。
遊びじゃなくて、私を本気で大事にしようって気持ちが伝わってきたから。
「どうしよう……幸せすぎる♡」
幸せすぎて……この世界から私が、光になって消えてしまいそう。
……私はいつまで、皆と一緒に居られるのかな。




