128.魔精霊と宝珠
「第七ステージは短いけれど、油断しないようにね」
突発クエストをクリアしてから二日後の早朝、俺達は第七ステージのダンジョン前でメルシュから最後の説明を受けている。
昨日一日は、ここでしか手に入らないアイテム、レシピを買ったり、頑張って討伐していた組は休息に当てていた。
「よし、行くぞ」
俺はトゥスカ、メルシュ、ザッカル、モモカと一緒に洞窟の中に入り、四つの別れ道のうちの一番右、黄色い宝石が壁に無数に埋め込まれている道に進む。
「早速来ました」
トゥスカとザッカルが武器を構えると、黄色いオーラを纏ったゴーレムや、黄色く発光する土のスライムみたいなのが近付いてくる。
「“暴風魔法”、サイクロンカノン!」
メルシュの魔法によって生み出された風の砲弾が、ゴーレム達を呑み込んで押し流していく。
「モモカも頑張る!」
「このステージは戦士に不利だから、ボス前までモモカ達は休んでいて良いよ」
メルシュの強気な発言。
「ええー」
「ああ、頼んだ」
俺達が選んだのはアースロード。
土や石を模した、土耐性が高いモンスターが出る道。
そのため、強力な魔法使いであるメルシュが居る俺のパーティーには戦士が集中させられていた。
●●●
「”煉獄魔法”、インフェルノ!!」
紫の炎により、緑光を発するゴーレムや小さな竜巻のモンスターを蹴散らす。
「風系モンスターは炎が弱点か。炎特化のユリカの独壇場ね」
ナオが褒めてくれる。
「ですね」
メルシュに言われ、私をパーティーリーダーにナオとタマ、ノーザンの四人で、緑光を発する石が生えた洞窟、ストームロードを進んでいた。
「あ、別れ道です」
タマが声を上げた時、チョイスプレートが出現。
○右:風の宝珠への道
左:風の宝物庫
「左に行くと、敵が多い分色んなアイテムが手に入るんでしたよね?」
「メルシュは、強力な風属性の武器が手に入る場合があると言ってたな」
タマとノーザンが、打ち合わせ通りの会話を始める。
「面倒くさいし、右に行きましょうよ」
「そうね。ネズミ退治で飽きたし」
ナオの心底嫌そうな演技に私の拙い演技が引っ張られ、それっぽくなってくれた。
「じゃ、右に行きましょう」
ナオの先導により、私達は右へ。
そうしないと、新しい隠れNPCを入手出来ないから。
このステージは他のパーティーと一緒に進めないタイプだから、パーティーを途中で二つに分けることは出来ない。そのため、どちらかしか選べないのだ。
●●●
「「“万雷魔法”、サンダラススプランター!!」」
サトミさんと共に、ウォーターロードのウォーターゴーレムとウォーターエレメントを雷属性の魔法で消し飛ばす。
「大きい杖も悪くないわね。ザッカルちゃんに感謝だわ♪」
サトミさんが手にしているのは、ナオと同じ“栄光の杖”。
ザッカルが、第五ステージで偶然手に入れていたAランクの大杖だ。
杖には魔法の威力を上げる効果があるため、近接戦闘をしないサトミさんが使うことになった。
「ジュリー、あれ」
兎獣人のリンピョンが指し示すその先には、青い玉が祀られた祭壇が。
「あれが”水の宝珠”? 綺麗ね~♡ ジュリーちゃんも、そう思わない?」
「そうですね……とっても綺麗です」
サトミさんの言葉に、心から同意する。
それにしても、この宝珠四つ全てをそれぞれの道で集めないと、第八ステージの隠れNPCが手に入らないとは。
本来ここに配置されている宝珠は、全て“高値の宝珠”というアイテムで、1500000Gで買い取って貰えるだけのアイテムだったのに。
まあ、この宝珠も同じ額で売れるらしいが。
これだけ隠れNPCの入手条件が厳しければ、第八ステージの隠れNPCが取られている可能性は低そう。
四種の宝珠を一人の人間が所有していなければ、隠れNPCに会うことすら出来ないのだから。
石階段の町には宝珠が1500000Gで売れるって教えるNPCも居るから、気付かずに売り払いそうだし。
「じゃあ、取ります。気を付けてください」
私がサトミさんとメグミさん、リンピョンとサキ、サタちゃんに合図して“水の宝珠”をチョイスプレートにしまうと……激しい揺れが起こった。
地響きと共に宙に青い水が出現し、脚のない人型に姿を変えていく!
『ウォーーーターーーーーーッ!!』
”水の魔精霊”。
強くは無いが、雷属性の攻撃以外ほとんど効かない厄介なモンスター。
雷属性による攻撃手段が無ければ、ゲームオーバーほぼ確定の敵だ。
ここ以外の道にも、それぞれ土、風、火の魔精霊が配置されている。
「“万雷魔法”、サンダラススプランター!」
サトミさんが放った魔法を、避けてしまう精霊!
「“避雷針”!」
“避雷針の魔光剣”にサトミさんの魔法を吸わせ――跳躍!!
『ウォーーターーーーーッ!!』
――雷を纏った剣で、水の魔精霊を両断した。
「助かったわ、ジュリーちゃん!」
「いえ」
対処法さえ分かっていれば、大した敵じゃ無い。
「さて」
チョイスプレートを確認し、ウォーターエレメントのドロップアイテム、“水の精霊石”の入手数を確認。
数は24。もう少し手に入れておきたい。
このペースなら、ボス部屋前に目標の30に届くとは思うけれど。
”水の魔精霊”が倒された事で、辺りが安全地帯に変化。
「悪いな、サトミ、ジュリー。疲れてないか?」
心配して声を掛けてくれるメグミさん。
雷属性の魔法に弱い敵ばかりだから、ここまでの数時間、私とサトミさんの二人でほとんどの敵に対処していた。
「少し休みましょうか、ジュリーちゃん」
「そうですね」
一番しんどいであろうユイ達は、大丈夫かな?
●●●
ファイヤーエレメントというモンスターから、巨大な火の玉が近付いてくる!
「“水属性付与”」
水を刀剣に纏わせたユイが、瞬く間に火の玉や炎を纏ったゴーレムを斬り伏せていく!
「「“氾濫魔法”、リバーバイパー!!」」
アオイとアヤナの二人が水属性の魔法を行使。水の大蛇によってあっという間にモンスター達が光に変わっていった。
「あづい~!」
辺りが赤い石だらけのファイヤーロードは、気温が半端ない。
「軽く三十度は越えてそうだ」
炎のモンスターのせいで、気温が高い中を何時間も進んでいた。
重い鎧を装備している私が、一番キツいかもしれない。
小まめな水分補給を繰り返し、ようやく宝珠付近までやって来る。
「ルイーサ、どうする? 宝珠を取ってさっさと精霊を倒しちまえば、ここに安全地帯が出来るけど」
そう尋ねてきたのはシレイア。
「ここで休んでも暑さで体力を持っていかれる。さっさと魔精霊を倒して、一旦屋敷に避難しよう」
「オッケー」
「うん、同意」
アヤナとアオイは、辛そうだが返事をしてくれた。
ユイは涼しそうだな。顔に出てないだけだろうけれど。
「シレイアは、まったく問題無さそうですね」
「隠れNPCだからね。基本的に、疲れという概念が無いのさ。暑いことは暑いけれど」
シレイア、私には人間となんら変わらないように見えるのだが。
疲れ知らずというのなら、むしろ頼りになる。
「よし、”火の宝珠”を取るぞ!」
宝珠を回収すると、火の魔精霊が姿を現した。
もしかしたら、どんな隠れNPCが手に入るか予想できた人も居るかも!




