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123.遭遇

「パワーネイル!」


 右腕で発動したスキルでネズミを切り裂き、左腕の“闇狩の鉤爪”で別個体の喉を突き刺す。


 この狭い空間だと、両手に鉤爪の方が圧倒的に戦いやすいな!


「フッ!!」


 コセの奴は、短剣を青く光らせてネズミを容易く葬っていやがる。


 Lvによる身体能力の差って言うより、武器の性能差だな、これは。


 無論、武器の扱いがそれなりなのは認めるがよ。


「ハアハア。結構進んだが、あとどれぐらいだ?」


 俺が今までに足を踏み入れた場所より、遥かに奥まで来ている。


「もうすぐ、現在の一番奥に着くよ。でも、残り一時間を切った」


 もう、時間がねえ!


「先に行くぜ!」


 向かって来たネズミを蹴り飛ばし、奥へと駆ける!


 道の奥が、赤黒く照らされているのが見えてきた。


「……マジかよ」


 今までで一番広い空間に出たと思ったら、数えるのもバカらしくなるくらいのネズミ共!


『『キキキチュ!! キキキチュ!!』』


 俺に気付いて、騒ぎだしやがった!!


「武器交換、“滅剣ハルマゲドン”!!」


 コセが禍々しい大剣を振りかぶって――ネズミ共の群れの中に飛び込んだ!?



「――”終末の一撃”!!」



 黒い光の球体が生まれ――弾けた!!?


「伏せて、ザッカル!」


 メルシュの言葉に従うと、ダイヤモンドの腕が俺に覆い被さる!


 遅れて、ビリビリという大気の震えが、俺の肌を震わせた。


「――はあああああッ!!」


 大気の震えが収まり、周りを確認すると……ネズミ共がポッカリと消えた一角に無事だったネズミ共が雪崩れ込み、それを三振りの大剣でバッタバッタと斬り続けるコセの姿が!!


「メルシュ! ザッカル! 後は頼む!!」


 コセが進もうとする先、ネズミの群れの中に埋もれるように――――赤いネズミが居た!!


 赤黒い光のせいで全部赤く見えるが、明らかに一体だけ色が濃い!


「アトミックレイ!!」


 メルシュの魔法が、さっきの奴が居た辺りを撃ち抜く!


「……見えた!!」


 ネズミの大半が吹き飛んだおかげで、その姿が顕わになった!


 他のネズミよりも二回りは大きい!


「俺がやる!!」


 ネズミ共を踏み台にし、雄ネズミに近付く!


「あの野郎、逃げんのかよ!」


 俺の接近に気付き、真っ先に逃げようとするネズミ野郎!!


 ――この二ヶ月、何度も挫けて、ネズミ狩りを諦めようと思った。


 だけれどよ、その度になにもしねー方が辛いと思って、俺は一人になっても――討伐を続けたんだ!


 食糧を奪われ、味方は一人もおらず、自分の意思ではどうにもならない理不尽。


 でもよ、諦めたら死が待ってるって分かってて、諦められるわけがねぇんだよ! 少なくとも俺はな!!


 異世界の軟弱な奴等が嫌いだった。


 でも、コセとその仲間達は違った!


 アイツらが繋いでくれたこのチャンス、俺が

物にしてやる!!



「――“暗黒爪術”、ダークスラッシュ!!」



 右腕を振るい、黒の斬撃三つを放つ!!


「いっけぇぇぇぇぇぇッッ!!!」


 このクソみてーな日常を、ここで終わらせてやる!!


『キキェェェッッッ!!!!』



「……クソ」



 俺の攻撃はネズミを捉え、背を深々と切り裂いたが……致命傷には至らない!


 次の攻撃に移る間もなく――雄ネズミは雌共の中に隠れやがった。


「クソがーーー!!!」


 攻撃を休むことなく繰り返し、ネズミ共を始末していくも……あの雄ネズミは……見付からなかった。



「う……ぁぁああああああああッッッ!!!!」



 ようやく掴んだチャンスを――俺はあアアアアアアアアアアアアアッッッ!!!!



●●●



 その絶叫から、ザッカルの悔しさが伝わってくる。


 彼女の悔しさの十分の一でも、俺が感じ取れているのかは分からないけれど。


 ただ、今彼女を諦めさせるわけにはいかない!


「メルシュ! ザッカルと一緒に追え!」


 今にも泣きそうな顔で、俺を見るザッカル。


「コセ……お前」

「まだ時間はある。それに、今日が無理なら明日も挑めば良い!」


 これだけの数だ。全員、数Lvは上がっているはず。


「零時まで、俺はここでネズミを減らし続ける! 後は任せた!!」


 さすがに、誰かが引き付けないとこの場を脱出するのは難しい。


「まったく、マスターは。行くよ、ザッカル!」

「恩に着る! コセ!! 突発クエストクリアしたら、俺の初めてをくれてやる!」


「いらん!!」


 急になにを言い出すんだ!


 ていうか、ザッカルって処女だったの!?


 ……結構遊んでるイメージがあった。


「持ってけ、ザッカル!!」


 “滅剣ハルマゲドン”をマントから抜いて投げ、ザッカルが受け取る前に装備を解除。


「お前、最高にイカすぜ!!」

「アトミックレイ!!」


 メルシュが回復してきたMPを用い、雄ネズミが消えた方向に群がるネズミ共を吹き飛ばす。


 すると、奴が逃げたであろう通路が現れた。


「早く行け!」

「おう!」


 二人が通路に飛び込むとネズミ共が追おうとしたため、“竜剣”で牽制。


 その間に通路前に陣取り、“拒絶領域”で吹き飛ばした。


 唯一の雄が狙われているからか、雌共は随分殺気立っているな。


「来い」


 “竜剣”、“シュバルツ・フェー”、“グレイトドラゴンキャリバー”の三振りの大剣を振るい、襲い来るネズミを斬り続ける!!



●●●



「大丈夫かい、マスター?」


 シレイアさんが、剣を地面に突き刺し、息を整える私に声を掛けてきた。


 あのもの凄い奔流を感じたとき、途轍もない力を引き出せたけれど、その後正面から向かってきたネズミ達に対しては上手く発動出来なかった。


 そのため、数十秒もの間文字を使っていたからか、体力以上に精神力を持っていかれた。


 リアルハーレムの人は、こんな力を長時間コントロールしてたのか。


「ハアハア……私って…………誰だっけ?」


 落ち着け! 落ち着け落ち着け落ち着け落ち着け落ち着け!!


 私は古武術の家に生まれた……次女。


 父は師範で、二人の兄と弟が一人、母が三人の八人家族!


 それで……私の名前は…………名前は……。


「マスター……ユイ、大丈夫?」


 ――シレイアさんが名前を呼んでくれた瞬間、薄れ消えようとしていた自分の個を強く認識する!!


「ユイ……そう……私はユイ」


 昔、漠然と海を見詰めていた時に感じた虚無感……それに抗おうとする事で生まれる、自分が消える事への恐怖。そして、それ故の狂気。


「あ……ぁあ」


 生きるってなに? 戦うってなに? なんで私、こんなに頑張ってるの? こんなにキツいのに? こんなに苦しいのに?


「どうやら、まだ早かったみたいだね」


 シレイアさんが乱暴に、“波紋龍の太刀”を私から取り上げてしまう!?


「スティール」

「シレイア……さん?」


 武具の所有権を……奪われた。


「これは、アタシが預かる」


 取られたくないという反面、手にしている事への恐怖が遠ざかり……安堵する自分がいる。


「マスター。返して欲しけりゃ、コセと本気で愛し合いな」

「リアルハーレムの……お方と?」


 彼の女になれば、リアルハーレムを覗きたい放題。


 そう思って、彼の女になると決めたけれど……私、あれからなにもしてない。


「本気で愛し合う……か」


 どうしたら良いのか、私には全然解らないよ。


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