121.神代の剣豪
「ベクトルコントロール」
飛んでいるメルシュに掴まりながら、“古代王の転剣”と、“荒野の黄昏の目覚め”の二つを操り、生き残って壁に張り付いているネズミを処断していくトゥスカ。
その後から、大半が足場を探して降りていく。
トゥスカは、降りている間まともに戦えない者達のために、一匹残らずネズミを狩っているのだ。
ザッカルは軽快な足取りであっという間に降りていくが、同じ獣人でもノーザンには出来ないらしい。牛の獣人だからだろうか?
俺とルイーサは“壁歩き”のスキルを持っているため、壁に足を貼り付けて進んでいる。
ユイとシレイアは……ザッカル程じゃないけれど、凸凹した足場を見極めてどんどん降りていく。
……シレイアはともかく、ユイは本当に同じ人間なのか疑いたくなるな。
「ノーザン、遅れてるぞ」
「申し訳ありません……僕が足手纏いになってしまうなんて……」
ノーザンは真面目な上に、意識高い系だから大変だ。
「掴まれ、ノーザン」
この子とも、キスしてしまったんだよな。
俺の子供を産みたいとまで言われているし……ノーザンとの将来もちゃんと考えないと。
ユリカと一線を越えてから、あまり抵抗が無くなってしまっている自分が居た。
「コセ様?」
ノーザンをお姫様抱っこして、壁を垂直に走る!
「キャーーーー!!!?」
皆に追い付けたが、ノーザンの絶叫にネズミが引き付けられたのは言うまでも無い。
●●●
「ハアハア。大丈夫、モモカ?」
コセ達が突入してから、二時間が経とうとしていた。
「まだまだ平気だよ、ジュリー!」
私のお母さんの趣味である可愛いピンクドレス姿で、お父さんのおふざけ武器、“ラブリーハートな脳筋ロッド”を振り回してネズミをブッ飛ばすモモカ。
あの二つの装備、魔法使い専用に見えて職業を問わない。
あの大きなハートが付いたロッドの基本攻撃力は、これといった特殊効果がない分、オリジナルではSランク装備の中でもトップクラス。
モモカの魔法少女っぽくない堂の入った一撃からは、オリジナル通りの威力が発揮されているように見えた。
それにしても……モモカ、可愛い!
適当に杖を振り回してても、揺らめくローツインテールとフリフリのピンクスカート!
更に杖の仕様で、振るう度にハート光がキラキラ煌めいて夜を彩っている!!
「マスター。モモカちゃんが可愛いのは分かりますけど、マスターも戦ってくださいよ! 倒しても倒しても全然減らない!」
サキが指輪で柱を生み出し、スキル“絡め取り”を鞭で使って、柱をネズミの群れに軽々と投下しながらそう口にした。
「私も、二人に負けていられないね!」
柱を掴んでいた“怪物強化の鞭”とは別の、蛇の頭が付いた緑の鞭、“鞭蛇の蛇鞭”も振るって、休むことなくネズミを減らし続けてくれているサキと。
隠れNPCだから体力が無尽蔵なのだろうか?
サタちゃんも、休むことなくネズミを撃退していた。
私もだけれど、皆戦いっぱなしで攻撃の手が緩んでいる。
MP・TPの配分もあるだろうけれど、体力と精神的にキツいのだろう。
この状況でも、手を休めずに戦い続けるNPC。
一人一人違う特異な能力を持つ、隠れNPCの有用性の一端が垣間見えた。
この先、隠れNPCと敵対するのは避けたいと、強く思わずにはいられない。
●●●
次々現れるネズミを始末しながら、縦長の空洞の底にようやく辿り着く。
「どっちだ、メルシュ!」
空洞の底には三つの横穴があり、それぞれからネズミが絶えず飛び出してくる!
「あっち!」
メルシュが指し示した方向は、もっともネズミが飛び出して居る穴。
種を守るためには、唯一の雄を守らなければならない。
一番厄介そうなルートの先に居るのは道理か。
「コセさん、先に行ってください。私が殿になります」
ユイが、ネズミを一太刀で葬りながら提案してきた。
「マスターが残るなら、アタシもだね」
褐色美人の隠れNPC、アマゾネスのシレイアまで残ると言いだす。
「判った、無理はするなよ!」
この二人ほど頼りになるコンビも居ないか。
確かな実力を持つ二人に任せて、先頭で戦うトゥスカとザッカルに駆け寄る。
●●●
「ハイパワーウィップブレイド!!」
迫るネズミ共を、鞭のようにしなる大刀でまとめて切り裂く。
コセ達を先に行かせて数分。
皆が入っていった穴の前で、アタシとマスターは奮戦していた。
「――ハッ!!」
気合いの発露か、マスターが発した気が異質な空気を生み出すと同時に、二振りの太刀でネズミ共を綺麗に両断していく。
一刀で確実に一匹は仕留め、止まることなく穴に侵入しようとするネズミ共を両断し続ける。
その舞うように繰り出されていく剣閃に見蕩れながら、マスターの背後、コセ達が向かった方から現れるネズミをアタシが始末していく。
流石だよ、このマスターは。
初めて会ったときから、マスターの神との親和性の高さは分かっていた。
現に今も、神代文字に対応した“波紋龍の太刀”から、青い燐光が迸り始めている。
――ネズミの波が収まってくると、地鳴りが迫ってきているのに気付く!!
「……マスター! ネズミが一気に押し寄せてくる!!」
「そう――」
左手の“妖刀ムラマサ”を地面に突き刺し、”波紋龍の太刀”を鞘に納めた!?
そこに、二つの穴からネズミが奔流となって――雪崩れ込んできた!!
「“抜刀術”――――――波断」
青白い斬撃が部屋全体に広がり――二つの穴ごと、全てのネズミを斬った!!!?
「……疲れた」
およそ数千万、もしかしたらか億かそれ以上のネズミを切り裂いたマスターは、十二の神代文字を刀身から消し、こちらへと歩いてくる。
「リアルハーレムの人と……合流しよう」
「本当に凄いね……アタシのマスターは」
想像以上の逸材だった。
場合によっては、コセよりもアタシのマスターがあの場所へ辿り着くべきじゃないかね、メルシュ。
「シレイアさん? ……案内して」
「へ? 無理よ」
「……なんで?」
「アタシには、メルシュみたいに地形を把握する能力なんて無いからね」
「へ?」
このマスター……隠れNPCなら誰でも案内出来るとでも思ってたのかい?
「……どうしよう?」
「ハー……コセ達が別れ道に出る前に追い付ければ、もしかしたら合流出来るかもね」
「よし、急ごう! リアルハーレムライフを見逃さないために!!」
このマスター……やっぱりダメかもしれない。
駆け出したマスターの背を見ながら、思い出す。
私達が必要としている人間が、ただ純粋なだけではダメだと言うことを。