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11.始まりの村

「……のどかだな」


 ボス部屋から始まりの村に転送されたらしいけれど、視界にはとてものどかな村と青空が広がっていた。


 村は、見渡す限りの草原の中に開いた穴の中に、スッポリ収まっているらしい。


 俺達が居るのは、その光景を一望できるほど高く積み上げられた、石の祭壇のような物の上だった。


「行ってみましょう」

「ああ」


 長い石階段を降りていく……いったい何百段あるんだ?


 やがて階段が終わり、土の地面が広がる。


「ここでお別れだな」

「へ?」


 彼女が不思議そうに俺を見る。


「そういう約束だったろ?」

「そう……だったわね」


 ふぅ、これで清々する!


 チョイスプレートを操作し、パーティーを外れた。


「じゃあな、気を付けろよ」

「ええ……そっちも」


 あの槍の男は気になるけれど、気にしてわざわざ一緒に行動してやる義理も無い。


「まだ昼前だし、村を見て回るか」


 髭を生やしたモブキャラ感があるおじさんが、同じ場所を行ったり来たりしている。


「おじさん」

「おお、冒険者よ! ここはほとんどモンスターが出ない安全な村。ゆっくり休まれよ。ただし、外から来た者は五日以上留まらぬ方が良い。反対側に第二ステージのダンジョンの入り口があるから、そこでLvを上げなされ。そうすれば、また五日は安全だ」


 やっぱりNPCか。


「五日経つと、なにが起きるんですか?」


「おお、冒険者よ! ここは――」


 ……同じ事を言い始めたため、無視して村を見て回ることにした。


「ここは鍛冶屋だ。なにか用か?」


 店の前にいかついオッサンが立っていた。


「ここでは壊れた物、損壊状態の物の修復が出来る。直してほしけりゃ、中に居る店主に頼みな」


 なら、“鉄の短剣”を直してもらおうかな?


「いや、まずは武器屋を覗いてみよう」


 鍛冶屋には鎚のマークの看板がぶら下げられている。武器の看板を探せば良いはず。


 暫く村を見て回っていた。


「結構広いな……お、ここか?」


 看板には、騎士と魔法使いのようなマークが描かれている。


「いらっしゃい。ここではサブ職業を買えるよ」


 太ったオッサンが、にこやかに話し掛けてきた。


 店主に近付くと、チョイスプレートが強制的に出現する。



○以下の物を購入する事が出来ます。


★剣使い 10000G ★槍使い 10000G

★斧使い 10000G ★弓使い 10000G

★拳闘士 10000G ★棒使い 10000G

★盾使い 10000G ★初級魔法使い 10000G

★僧侶 10000G 



「……高い」


 俺は買えるけど、眼鏡女は無理なんじゃないか?


「おっと、アンタ見たところ冒険者だな? なら、まずは奴隷を購入した方が良い」


 NPC店主から、いきなり予想外の言葉が出て来た。


「奴隷?」


 NPCをお金で買って、連れて行けるって事かな?


「この先のダンジョンには、奴隷が一人は居ないと進めない仕掛けがあるらしくてよ。四本腕を倒したなら、買える金はあるはずだぜ」


 チョイスプレートを開いて確認する。


 今朝確認したときより15000Gも増えていた。


「お金の管理が出来ない奴は、このゲームをクリアできないだろうな」


 つまり、奴隷を購入せずにこのお金を使ってしまったら、その時点で先に進められなくなり、最初のオッサンが言っていた五日間が過ぎて……おそらくゲームオーバー。


「最初にするべきは奴隷の購入か」


 ……口にした瞬間、心臓が冷たくなった。



●●●



「いらっしゃいませ。一泊、お一人様20Gになります」


 細身の女の子が、不自然なくらいにこやかに話し掛けてきた。


 ノンプレイヤーキャラだっていうのは分かっているんだけれど、こういう妙に明るい子って苦手なのよね。


「205号室になります」


 お金を払うと、番号が入った鍵を渡された。


「鍵を無くされた場合は宿泊を取り消しますので。荷物を部屋に置いていた場合は、15Gお支払い頂ければお返しします」


 悪徳商売に聞こえてくる!


 ……さっさと休もう。


「ハァー……最悪なことばっか」


 おじいちゃんの研究が原因なのか、私の両親は急に仕事を辞めさせられた。


 メディア嫌いのおじいちゃんは研究を公表していなかったけれど、研究所の上層部が一定の成功を嗅ぎつけて、おじいちゃんではなく研究所全体の成果にしようしたらしい。


 私達家族が社会から虐げられるようになったのは、それが原因ではないかと、母がことあるごとに恨みがましく口にしていた。


「ようやくあの家から出る目処が立ったのに、気付いたら変な世界に……」


 生き残るためにパーティーを組んだ二人の男は、にこやかに話し掛けながら私の胸ばかり見ていた。


 異様に優しかったから、完全に下心故の行動だったと断言出来る。


 生き残る目処が立ったら、パーティーを抜けるつもりだった。


 女付き合いが苦手じゃなかったら、男とパーティーなんて組まなかったのに。


 そんな二人でも、さすがに目の前で殺されたら悲しくはなる。


 目の前で、いきなり頭をぶち抜かれたのを見れば。


 部屋の鍵を開け、入るとすぐに扉の鍵とカーテンを閉め、服を脱ぎ、ベッドに飛び込んだ。


「もう……嫌」


 生きるのに疲れた。


 このまま、なにもしたくない。


「そう言えばアイツ……変な奴だったな」


 良い人オーラをあんな自然体で出せる奴、初めて見た。


 まるで着ぐるみのように、良い人オーラを纏っている気持ちの悪い人種は幾らでもいたけれど。


「私の胸……一度しか見なかったし」


 あんなに見てこなかった奴、初めてだ。



●●●



「ここか」


 四つん這いの人間の首に、紐を繋いで散歩しているかのようなマークの看板。


「悪趣味だな」


 さっさと済ませよう。


「いらっしゃい、冒険者様。おや、貴方は一見さんですね」


 店主は、また太り気味のおっさんか。


「一度も奴隷を購入した事が無い人には、アッチは売れねーな」


 店主が、左側のドアに親指を差してそう言った。


「アッチは反対側と比べて高いしね。初めての人には向こうがお薦めだよ」


 本当に、ただ物を扱うかのような気安さ。


「中に詳しい婆さんが居るから、分からない事はそいつに聞いてくれ」


 言われた通り、右側の扉を潜る。


「いらっしゃいませ、冒険者様。本日はどのような奴隷をお求めでしょう?」


 年老いたおばあさんが尋ねてくる。


「ここに居るのは男だけだけれど、奥には女も居るよ」


 周りを見渡すと……部屋の中は檻だらけになっていて、檻一つに一人ずつ入れられていた。


「頼む! あんた、ここから俺を出してくれ!」

「俺を買ってくれ! いつまでも売れなかったら、俺達は!!」


 積極的に自分を売り込んでくる者が半数。


 残りは怯えるように、諦めているように(うずく)っている。


「本当に……NPCなのか?」


 目の前のおばあさんと比べると……より人間らしさが伝わってくる。


「男の子だものね、奥の雌の方が良いでしょう」


 おばあさんがにこやかにそう言い、奥への扉を開ける。


 居心地の悪さに任せ、急ぎ足で扉を潜った。


「待ってくれ! 頼むよッ!」

「なんでもする! ()()()()()()()()()()!」


 必死の声が、耳にこびり付く。


「どの子も一律10000Gだからね。好みの子を選ぶと良い」


 おばあさんは、まるで男達の声など聞こえていないかのように説明する。


「お、お兄さん! わ、私を買ってよ!」

「お願いです、助けてください!」


 ここも同じ……獣耳に尻尾? そう言えば、さっきの奴等も……。


「獣人は身体能力が高いのが特徴さね。ただし、魔法使いにはなれないから、全員職業は戦士になる」


「彼女達は……NPCだよな?」


 感情が、彼女達の感情が俺の中に入ってきて……NPCだと思わないと耐えられない!


「全員Lvは1だから、あんたの好きにカスタマイズ出来るよ。元々持っているスキルには個人差があるが、そこは買ってみてのお楽しみさね」


 俺の質問には、一切答えてくれないNPCババア。


 獣人……現実じゃあり得ない存在。


 頭を抱えながら、よく見渡す。


 声、呼吸、目の動き。それらから感情が(ほとばし)っている。


 躍動感を持っていたモンスターからも、感じなかった感覚。



「NPCじゃない。彼女達は本当に…………生きてる」


奴隷が登場する事そのものに批判する人が居るようですが、人類は長く奴隷文化と共にありました。


私はそこに、人の本質の一端があると考えます。


そして、奴隷文化が現代にも存在する事から、目を背けないで欲しいです。



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