114.魔神・鞭蛇
ルイーサ達は案の定手こずったようで、目標地点に到達したのは夕方頃だったそうな。
「ジュリー、大丈夫か?」
「な、なにが?」
夕日が沈み始めた頃、リビングで寛いでいると、ジュリーの態度がおかしくなってきた。
今日、俺はジュリーと……寝ることになっている。
意識しないようにしていたのに、ジュリーがソワソワしだしたから高揚感と緊張感が!
「コセ、今日は一緒に寝よ!」
髪を下ろしたモモカが、無邪気な笑顔でそう言ってきた。
……なんか、いきなり頭に氷水をぶつけられたような感覚に襲われたぞ!!
「ああ……今日は……その……」
俺はどうしたら良いんだ!!
「モモカ、今日は私がコセと寝る日なの」
「そうなの?」
「で、でね……良かったら、三人で一緒に……寝る?」
ジュリー、まさかヘタレたのか?
「……コセと一緒なら」
「よし!!」
力強く拳を引いて喜ぶジュリー。
そう言えば、モモカはジュリーとサキと寝るのは拒んでたな。
大抵は俺とトゥスカか、タマやノーザン、リンピョンとサトミ、メグミとも一緒に寝ていた。
獣人の尻尾や耳が好きらしい。
前世がレプティリアンであるメグミには、なにか近しいものでも感じているのだろうか?
★
夜、予定通り、俺はモモカとジュリーと一緒にベットへ。
俺が左で、右がジュリー、間にモモカだ。
モモカが、俺の胸に蹲るように眠っている。
……昔の妹や弟も、これくらい可愛かったんだけれどな。
今では、憎悪すら湧くのだから恐ろしい。
「モモカ、コセには本当に懐いちゃって。羨ましい」
「ジュリーはガッツキ過ぎなんだ」
モモカは、裏切られたからなのか元々なのかは分からないけれど、警戒心が非常に強い。
多分だけれど、自分をやたら褒める者に程、懐疑的になっている。
姫と呼ばれていたし、レプティリアン達には崇められるように接せられていたのだろう。
そんな中で突然手の平を返された七歳の女の子が、傷付くなという方が無理な話。
俺から見ても、サキとジュリーの可愛いと褒めちぎる態度は気持ち悪いし。
モモカを、可愛い人形かなにかだと思っていそうで。
赤ん坊を見たら、特に意味も無く可愛いねと言って近寄っていく奴等は、正直、上っ面が過ぎて気持ち悪い。
そうするべきと言うプログラム通りに動いている人形のよう。
人が死んだら悲しむべき。
被害者には同情すべし。
飢えたライオンに焦点を当てているときはライオンを応援するくせに、視点が狩られる側に代わると途端に「逃げて!」とか、「可哀想!」とか言う奴等。
自分が矛盾を抱えているという認識が無い人間は、気付かないうちに一貫性のない発言を繰り返す。
人間ていうのは、そもそもが矛盾している生き物なのに、自覚がないと歯止めが効かない。
「ん? どうした?」
ジュリーが、ジッと俺の顔を見ていた。
「なにか考え込んでいる時のコセの顔、格好いいなーって…………あ」
多分、無意識に発してしまった言葉だったのだろう。
「今のは……その」
「別に照れなくても良いじゃないか。正真正銘の夫婦になるんだから」
タマが愛人宣言したとき、ジュリーが言ってくれた言葉は……実を言うと結構嬉しかった。
「俺のこと、一番信用してるんだろう?」
「それは嘘じゃ無いけれど……いざとなると、今まで人前でキスしたりとか、結構恥ずかしいなって」
もしかしたらジュリーは、ユリカやタマに張り合っていたから大胆な行動に出られたのかも。
「なら、今してみようか」
今は、誰も見ていない。
「私より、コセの方が積極的とか……ん♡」
躊躇ったのち、ジュリーは唇を重ねてきた。
「ん♡ チュパ、ん♡♡ んん♡ ん♡♡♡」
責任を取るつもり全快で、何度も唇の逢瀬を繰り返す。
★
ポータルを潜ると、チョイスプレートが展開された。
○おめでとうございます。第六ステージを三人以下のパーティーで踏破しましたので、ランダムにランクアップジュエルを一つ進呈いたします。
目的通り、ランクアップジュエルを手に入れる。
「俺達のパーティーは、”防具ランクアップジュエル”か」
パーティー一つに対して、ランクアップジュエルは一つだけ。
第六ステージはボス部屋前までパーティーを抜けることが出来ない仕様だから、直前にパーティーを抜けて取得数を増やすことは出来ない。
「それは、マスターの鎧に使っちゃって良いんじゃないかな」
「そうですね。手に入れたジュエルは、パーティーそれぞれで使い道を判断して良いって決めましたし」
このパーティー内で継続して使用している防具って、俺の“偉大なる英雄の鎧”くらいだもんな。
「じゃあ、ありがたく使わせて貰うよ」
機会があれば、二人にお返ししないと。
俺は”防具ランクアップジュエル”を使用し、“偉大なる英雄の鎧”のランクをBからAに上げた。
★
「第六ステージボスは、魔神・鞭蛇。蛇のような人型で、素早く、中央の三本の柱を使ったトリッキーな動きをするから、柱を破壊してしまうのが効果的だよ。時間が経つと柱は復活するし、危険攻撃にも使用してくるから注意して」
今までのボスと違って、地形を利用して来るらしい。
「基本攻撃は両手の鞭。追い詰められると雑魚を出現させてくるから、手の空いている人は積極的に駆除して。弱点は竜属性。有効武器は剣だから」
いつものごとく置物扱いの青緑の妖精に軽く頭を下げ、俺とルイーサ達六人が最初にボス部屋に入った。
暗闇に包まれると、奥で妖精と同じ青緑の光が灯る。
『シャァァァァァァァァァァァァ!!』
人型で、頭と両腕が大蛇の魔神・鞭蛇。
……今更だけど、ボスの名前ってまんまだな。
――突然、部屋の中央に三本の柱が生えた。
「これが例の……」
魔神が真ん中の柱に飛び付き、下半身を二足歩行から蛇のそれへと変化!
柱にシュルシュルと巻き付き、流れるように素早く上下を入れ替え、巨大な柱を這うように移動した。
イメージよりも、ずっと面倒そうな動き。
柱を破壊可能って聞いてなかったら、かなり面倒だったかもな。
「マスター、柱を!」
「“竜剣”!」
以前戦ったレプティリアンと同じスキル、空飛ぶ黄金と青緑の大剣を生み出す!
更に左に”シュバルツ・フェー”、右に”グレイトドラゴンキャリバー”を握る。
この十日間で生み出した、俺の新しいバトルスタイル。
トゥスカが居ないときに神代文字を使うと、暴走の可能性がある。
だから、神代文字に頼らない新しい戦い方を模索する必要があった。
「サイクロン!!」
メルシュが、魔法で魔神の動きを牽制。
「“超竜撃”!」
“グレイトドラゴンキャリバー”の効果で、真ん中の柱を破壊。
破壊の感じからして、過剰威力だったか。
柱が倒れるよりも早く、魔神は左の柱に飛び移っている。
「”逢魔転剣術”――オミナススラッシャー!」
トゥスカの闇を纏わせた“古代王の転剣”により左の柱を下から斜めに切り上げると、柱がズレ落ちていく。
チャンスだ!
「メルシュ! ――“黒精霊”!」
「“光線魔法”、アトミックレイ!!」
メルシュの強大な魔法が黒銀の剣に吸い込まれ、強力な光剣となる!
落ち始めた柱から残った柱に魔神が跳んだのに合わせ、最後の柱ごと“シュバルツ・フェー”のエネルギーを解放!!
「――ハイパワースラッシュ!!」
『ギエエェェェェェェェェェェェェェェェェェッッッッ!!!』
柱を跡形も無く消し飛ばすと同時に――魔神・鞭蛇の左半身を吹き飛ばした。
そして、その喉には“竜剣”が迫っている。
「パワーニードル――“竜剣術”、ドラゴンブレイク!!」
防御無視の突きで喉を貫き、竜属性の衝撃を内側から炸裂させた。