110.それぞれの不安
「ハイパワーブーメラン!」
リンピョンちゃんが放った丸鋸が、ギガントの胴体を半分ほど切り裂く!
「“竜光砲”!」
メグミちゃんが、左手に持つ盾の先、竜の顎から光線を放つ!
総TPを半分消費して放つという、クエストの討伐報酬で手に入れたスキル。
竜属性が含まれている、“魔力砲”のTP版らしい。スキルランクはS。
メグミちゃんの盾、”ドラゴンの顎”から放つと竜属性の攻撃が強化される効果があるそうだから、そのせいかしら? ――一撃でギガントの胸から上が消滅し、膝を着かせた。
「サトミ!」
――いつの間にか、頭が吹き飛んだギガントの腕が私に向かって伸びてきている!?
光になるまで油断するなって、こういう事ね!
「”暴虐の風”!!」
メルシュちゃんが選んでくれた“ルドラの装身具”の効果を、左腕から発動する!
一日三回だけ発動出来る強力な風で、ギガントの左腕を削り弾くように消し飛ばした!
リンピョンちゃんがギガントの胴を円鋸で切り裂くと、ようやく光に代わっていく。
「……フー」
「大丈夫か、サトミ?」
「無事ですか、サトミ様!?」
「うん……大丈夫」
アヤちゃんが居ない事に、こんなにも動揺している自分が居る。
どっかで私は、アヤちゃんの存在に甘えていたのかもしれないわね。
●●●
ルイーサがおかしい。
「はあああああッ!!」
手に入れた美しい大剣を右手だけで振るい、コセから借りた剣盾でギガントの攻撃を去なし、一人でギガントと激しい攻防を繰り返すルイーサ。
私達が出会ったのは、第一ステージのボス部屋前。
私とアオイは皆で苦しむ方を選び、ルイーサは一人を選んだらしい。
だから、私達がボス部屋より前に出会うことはあり得なかった。
「“闘気剣”!」
ルイーサが聖剣に青白い光を纏わせ、ギガントを斬り付ける。
武術スキル程の威力は無いけれど、合わせて使えば威力が底上げされる便利なスキル。
使用中はTPが減り続けるらしいから、長期戦には向かないらしいけど。
「ハイパワースラッシュ!!」
飛び上がり、首を切り落とすルイーサ。
あの時……ルイーサが、魔神・四本腕の胴体を切り裂いた時と同じ光景。
最初のボス部屋前で、推奨Lvに達していても頭数が足りないことに悩んでいた私達姉妹は、たまたまそこで出会ったルイーサとパーティーを組み、そのまま今日までやって来た。
いつもは泰然としていて、おかしな事を口にして私の緊張をほぐそうとするくせに……あんな風になったのは、あの子が死んだ時以来。
第二ステージに挑むとき、色んなパーティーと一緒に進める方と自分達だけで進む二種類を選べた。
その時、ルイーサは自分達だけの方を選択したのに、私はいざという時助け合えるかもしれないと言って、色んなパーティーと一緒に進める方を選ばせた。
私の不安が、そうさせた。
結果、他パーティーに襲われて……奴隷として買った少女、リスの獣人の子を死なせた。
「フー……先へ進もう。アオイ、アヤナ」
でも、ルイーサは私を責めず、自分を責めた。
時間と共に傷は癒えていったけれど、まだ……傷跡は残ってる。
多分、一生消えない傷跡が。
●●●
ギガントを倒し続けること十数回、ようやく洞窟エリアの終わりが見えてきた。
洞窟の向こうには、紫、ピンク、青が混じった空と、常に右側から下へと水が僅かに流れ落ちていっている石の坂が。
洞窟の前、坂の半ばには幅の狭い平たい道が湾曲状態で続いており、ここを真っ直ぐ進まなければならない。
安全エリアは、洞窟出口手前に用意されていた。
「予定どおり、今日はここまでにしよう」
見送りの兼ね合いもあり、出発が昼過ぎになったから、もうすぐ夕方だ。
この先は足を滑らせやすいから、集中力が途切れると危険。
まあ、俺は“壁歩き”があるし、メルシュは魔法で飛べるから、この中で一番危ないのはトゥスカだな。
「皆はどこまで進みましたかね?」
「無理をしていなければ良いけれど」
「館に戻って確認しよ」
メルシュの提案どおり、俺達は”神秘の館”へと
戻った。
●●●
「いよいよ明日ね、ユリカ」
「お、おう……」
明日、私のパーティーは隠れNPCの入手条件を満たさねばならない。
そのために夕食後、リビングでジュリーが隠れNPCの入手法のおさらいをしてくれていた。
「川地帯を抜けると林道に入るから、わざと踏みならされた道から外れて、右に進んで。そこに現れるタイラントというモンスターを倒して、“天地の大力の腰帯”を手に入れる。それで入手条件を満たせるから」
その条件を満たして、次のステージに進んだら隠れNPCを入手。そしたら私は、隠れNPCを持つ者とはパーティーを組めなくなるから、コセ、ジュリー、ユイとはパーティーを組めなくなるということ。
実質、パーティーリーダーをやらないといけなくなる。
私がリーダーとか……不安だ。
「ルイーサは……ダメ?」
パーティーリーダーを長くやってるみたいだし、私よりも隠れNPCを仲間にした方が良いと思うんだけれど……。
「第六ステージの隠れNPCはバリバリの戦士系だから、ルイーサには魔法使い系か万能タイプの隠れNPCを組ませたいんだ」
「そういう計算もしてるんだ」
色々考えてんだね、ジュリーは。
「まあ……単純に、まだ信用しきれないって言うのもあるんだけれど」
「アオイはなに考えてるか分からないし、ルイーサはちょっと変な奴だけれど、三人ともいい人だと思うわよ?」
この世界に来る前の私の友達に比べれば、かなりマシだ。
ナオとアヤナは……まあ。
「二人共、ちょっと良いか?」
そこに、コセが割り込んできた。
●●●
ユリカとジュリーを、三階のエントランスに連れて来た。
「俺……二人との事、真剣に考えようと思ってる」
ナオを受け入れると決めたとき、真っ先に思い浮かんだ二人。
ノーザンやタマにも明確に好意を示されたけれど、二人に対して程……こう、家族云々のイメージが湧かない。
「このゲームを終わらせた後にって話をしてたけれど……二人が本当に望むなら、今からでも……妻として接したい」
レプティリアンの件とか、モモカの存在により忘れていたけれど、ナオを妻にするって決めた以上、疎かにしたままじゃいけないと思った。
別れ際のカズマさんの言葉に、触発されたのもある。
「でも……ナオとはシてないよね?」
ユリカの言葉が予想外だったため、動揺してしまう!
「ああ……うん。そういうのは、さすがにゲームを終わらせた後で良いんじゃないかな?」
どっちにしろ、今の状況下で子供を作るわけにはいかないし。
「でも、トゥスカとは毎晩のようにシてるよね?」
ジュリーの言葉が耳に痛い。
「別に毎日じゃ……その日の体調とか、最近はモモカが一緒に寝たがるからあんまりシないし」
なんでこんな話に……。
「時々さ……怖くなるんだよね。あの槍男みたいな奴に……コセ以外の男に、無理矢理初めてを奪われたらって思うとさ……」
ユリカの深刻そうな告白に驚く。
「だからさ……私の処女、もらってよ」