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109.蒼穹と極寒と煉獄

「……朝か」


 カズマさんの所からコセの家に移って、もう五日。


 なのに、幼い頃に繰り返し見た夢を、ここ数日……毎日見ていた。


 白い空間にぼやけた影。


 私は、その影にもう一人の女性と一緒に乗り込む。



 ――次の瞬間、何故か浮かぶのは……コセの唇の感触。



 “ヴリルの聖剣”に触れたからなのか、コセと……キスしたからなのかは分からないけれど、まるで……幼い頃の、世界が光で満ちていると信じていた、あの頃の自分に戻ったみたいだ。


 凄く希薄で、純粋で……簡単に壊れそうな自分に。



●●●



「昨日も言ったけれど、次の第六ステージは三人一組で行動ね。四人以上だと、ボーナスアイテムが手に入らないから」


 競馬村の端、第六ステージ入り口にて、メルシュが最後のレクチャーをしてくれる。


「コセ、一緒じゃダメ?」

「ごめんな、モモカ」


 俺はトゥスカとメルシュとのパーティーを解除出来ないため、もう面子が決まっている。


「大丈夫だよ、モモカちゃん! 私達が守るからね!」

「そうだ、モモカには傷一つ付けさせない!」

「……」


 モモカが嫌がっているのは、多分お前達が原因だぞ、サキ、ジュリー。


「ほら、私のサタちゃんも一緒なんだよ~」

『クアー』


 サタンドレイクのサタちゃんはモモカにとても懐いており、モモカもサタちゃんを気に入っている。


「うぅ……サタちゃんが居るなら……」


 俺としても、サタちゃんによって頭数の多いジュリー達のパーティーの方が安心できるというもの。


 ゲームに詳しいジュリーに隠れNPCのサキが揃っているから、他のパーティーよりも信頼してモモカを預けられる。


 ノーザンはユリカとタマのパーティーに、ナオはユイとシレイアのパーティーに入ってもらった。戦士と魔法使いのバランスを取ろうとした結果だ。


 サトミさんとルイーサのパーティーはそのまま。


「ッ!」


 ルイーサと目が合った瞬間、また逸らされた。


 カズマさん家のパーティーから一週間が経つのに、未だに変わらぬこの距離感。


 ていうか……ルイーサの色気が凄いんだけれど。


 最初会ったときにはまったく感じなかった乙女な空気から放たれる恥じらいに、正直俺まで意識せずにはいられなくなっていた。


「第六ステージは別れ道とか無くて、ボス部屋前まで一本道で、他パーティーとは接触出来ないからね。出て来るモンスターはちょっと強いけれど、皆の装備とLvなら問題無いから、落ち着いて対処するように!」


 メルシュのレクチャーが終わると、見送りに来てくれていたカズマさん一家が挨拶してくれる。


「元気でな、ルイーサ、アヤナ、アオイ。本当に、お前達が居てくれて良かった」

「こちらこそです、カズマさん」


 カズマさんとルイーサ達が。


「身体に気を付けてね、トゥスカ」

「ラテゥラお姉ちゃんも、元気でね」


 トゥスカが実の姉と別れを済ませる。


「も、モモカちゃん! き、気を付けて……」

「うん! バイバイ……へと…………バイバイ!」


 カズマさんの所の長男が玉砕したモモカに声を掛けていた……モモカ、名前くらい覚えてやれよ…………俺も覚えてないや。


「サトミ、メグミ……ごめん」

「良いのよ、アヤちゃん。その代わり、ラテゥラさん達を守ってあげてね」

「……うん」


 サトミさん達も、ショートボブの子と別れの挨拶を済ませる。


「コセ、女は程々にな」

「あの……俺、別に不誠実じゃないので。女垂らしみたいに言わないで貰えます?」


 カズマさんに不本意な事を言われつつ、俺は第六ステージへと足を踏み入れた。



             ★



「一緒に入ったのに、皆居なくなりましたね」

「パーティーごとに、見た目は同じ別の空間に送られただけだから大丈夫」


 トゥスカに説明をするメルシュ。


「行こう」


 三人で、広い洞窟内を進んでいく。


 現れた猿みたいな悪魔が高度な連携を取ってくるも、それ以上のコンビネーションで難なく蹴散らす。


「よく考えたら、この三人でダンジョンに挑むのは初めてだな」

「そう言えばそうですね」


 メルシュと出会った後は、ダンジョンに入る前にジュリー達と行動を共にしていた。


「三人で長いこと、一緒に行動していた気がするのにな」


 俺がこの世界に来て、まだ一ヶ月くらいしか経っていないんだ。


「ご主人様」


 トゥスカの鋭い声に、前方に意識を集中する。


 赤い顔に黄色い皮膚を持った白髪の巨人が、起き上がるのが見えた!


「あれがギガント。手脚でしか攻撃してこないけれど、異様に耐久力が高いから、光に変わるまで気をぬいちゃダメだよ」


 この第六ステージ序盤、洞窟エリアに出て来る強力なモンスター。


「メルシュ、トゥスカ、援護してくれ!」


挿絵(By みてみん)


 “強者のグレートソード”を握り、八メートルを超える巨人に向かって駆け出す!



●●●




「“竜技”、ドラゴンブレス!」



 ――ギガントの上半身を、一撃で吹き飛ばしてしまうモモカ。


「早く行こう、ジュリー、サキ」

「「う、うん」」


 モモカがサタちゃんに跨がりなおすと、楽しそうに進み始める。


「モモカ、実は私達よりも強い?」

「マスター、これを」


 サキが見せてくれたチョイスプレートには、モモカに関するデータが表示され……。


「Lv……45」


 もしかして……あの赤黒いドラゴンにトドメを差したから?


「私達の中で、一番Lvが高いんじゃないでしょうか?」

「……最強の幼女じゃん」


 

●●●



「”煉獄魔法”――インフェルノ!!」


 紫の炎が、巨人の左腕を燃やす。


「やっぱり、”煉獄魔法”の威力がかなり上がっている」


 “煉獄王の指輪”を装備しているのとしていないのとでは、全然威力が違う。


 指輪を再び装備し、再度インフェルノを放つ!


 指輪無しだと肉の一部を炭化させただけだったけれど、今度は直撃した右腕を数秒で焼き尽くした。


「ユリカさん、もう良いですか?」

「ええ、大丈夫」

「なら、今度は僕が!」


 ノーザンが、クエスト報酬で手に入れた斧を手にギガントに肉迫する!


「”深淵斧術”――アビススラッシュ!!」


 青昏い光が斧の刃を二回り大きくしたように形成され、片腕を失っていたギガントを真横に両断した!


「ランクBらしいけれど、これ良いな~♪」


 ノーザン、暇さえあればあの斧で素振りしている。


 “極寒の忍耐魂”なんて変な名前なのに。


「うん! ”武器ランクアップジュエル”、この子に使っちゃえ!」


 Lvアップ報酬らしいアイテムを、藍色の獣の顔が刻まれた不気味な斧に使ってしまうノーザン。


 そう言えば、今の私ってノーザンよりLvが9も低いんだった。


 コセに至っては10以上。


 この前の突発クエストで、私達のパーティーだけレプティリアンを倒していないから。


「どうにかして、Lv差を縮められないかなー」


「ユリカさん、ノーザン、この先にギガントが三体密集してました」


 槍を掴んで飛んでいったタマが、戻ってきた。


 槍の刃の柄側に十字状の突起物があり、その部分にそれぞれ着いている球体から噴射されることで飛び、噴射向きを変えることで方向転換も出来るらしい。


 戦闘機みたいなランスなのよね。


 なんだかんだで、メルシュが選んだ“蒼穹を駆けろ”を気に入っているみたい。


 ていうか、タマの武器の名前も変。


 なんか、私だけ仲間はずれみたいじゃない。


「私、ひとっ走りして一体おびき出して来ましょうか?」

「タマ……あんた、飛びたいだけでしょう?」


「行ってきます!」

「話し聞いてない!?」

 

 走って勢いをつけ、タマは槍のジェット噴射で再び飛んでいった。



●●●



「――紫電一閃」


 私が魔法で援護する暇も無く、“抜刀術”の一撃で巨人を上下に両断してしまうユイ。


「うん……この子、良い感じ」


 クエスト報酬の“波紋龍の太刀”に、ウットリとした視線を向けるユイ。


「凄い……私は魔法使いを選んだけれど、戦士の人って皆あんな風に戦えるものなの?」


 ギガントの攻撃を紙一重で躱して、一瞬で胴を薙ぎ払うなんて。


「アタシのマスターは、さすがに特別だと思うけれどね」

「そう? うちの家族なら……多分皆出来る」

「本当に!?」


 いったいどんな一家よ!


「でも、ナオだって良いパンチしてたじゃないか」


 シレイアさんには、この数日間ちょっと戦い方を教えてもらっていた。


 皆程凄くない私は、人一倍頑張らないといけないから。


「うん……ナオさんは、時々凄いパンチを繰り出す」

「そ、そ~う?」


 コセをぶん殴った時の感覚を意識すると、自分でも良いのが打てる感じはする。


 それに、褒められるのはちょっと嬉しいな~。


「あれ? これ、女の子的には全然褒められてなくない?」


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