108.パーティーでの思わぬ再会
ナオが倒れた二日後、俺達はカズマさん達の家に招待された。
「ささやかだが、たくさん食ってってくれ!」
庭には椅子や大きなテーブルが並べられ、その上には色んな料理が。
「これ、全部カズマさんと奥さんが?」
「まさか。半分以上ルイーサとサトミだ。そこの刺身は俺が捌いたがな!」
「煮物もカズマさんでしょう」
俺とカズマさんが会話していると、ルイーサが入ってきた。
目があった瞬間、ルイーサが瞳を逸らす。
「お前ら……なんかあったな~!」
年上のこういう絡み、本当に嫌だ。
「えせ外国人みたいだったアイツが、一昨日くらいから妙に乙女チックなんだよ。お前、もらってやれや」
この人、言動が実家の近所のおじさんと同じだ! まだ二十六なのに。
「いや、俺は……」
カズマさんの左手薬指についている物と、同じ指輪を見せようとした時だった。
「お姉ちゃん!?」
トゥスカの驚く声が!
「もしかして……トゥスカ?」
ドアから出て来た身重の獣人女性、ラテゥラさんが、トゥスカに驚いた顔を向けていた。
●●●
「そうなんだ~。トゥスカも、良い人に巡り会えたのね~」
家の中、マイという名前の赤ん坊を抱っこしながら、幸せそうな顔をしているお姉ちゃん。
家族の中で、一番暖かい感情を抱いていた相手。
お姉ちゃんが居なくなったときの両親の「仕方がない」って言葉が、何年も酷く耳にこびり付いていた。
「お姉ちゃん、無事だったんだね」
デルタによって連れ去られた、ラテゥラお姉ちゃん。
やっぱり、私と同じようにゲームに参加させられてたんだ。
「旦那様に買われてね。最初はどんな酷い目に会うんだろうって身構えてたんだけれど、必死に守ってくれて……二人での冒険に限界を感じてきた時に妊娠が発覚して、この村に定住することにしたの」
避妊してなかったの!?
「お姉ちゃん、ずっとここで暮らすの?」
「……そうね。色々問題はあるけれど、私達家族には、他の選択肢は無いかな」
達観しているように見えた。
きっと、悩んで決めたことなんだ。
「トゥスカは、彼と一緒に行くんでしょ?」
「うん」
ご主人様無しの人生なんて、もう考えられない。
「抱いてみる?」
「良いの?」
「うん、優しくね」
お姉ちゃんからマイちゃんを受け取る。
「マイちゃん。お母さんの妹、トゥスカ叔母さんですよ~」
「……可愛い」
凄くあったかくて、愛おしくなる。
「あ、今笑ってくれた」
私に微笑んでくれた!
「無理……しないでね」
ラテゥラお姉ちゃんの、寂しげな視線。
この村を出たらきっと、ラテゥラお姉ちゃんとは二度と会えなくなる。
私の甥と姪の四人……今、お姉ちゃんのお腹の中にいる子にも。
「うん……私も、彼との子供が欲しいもん」
このゲームをメルシュ達のやり方で終わらせれば、またお姉ちゃん達に会えるかもしれない。
私の中から、このゲームを途中で諦めるという選択肢が無くなった。
●●●
「お前……俺の義弟だったのか」
「ええ……まあ」
庭の片隅、お茶入りのコップ片手に、二人で椅子に座っていた。
自分に義兄が出来るなんて、考えた事も無かったな。
「お前の仲間、みんな女だよな? それに、半数が左手薬指に……お前、女にだらしないのか?」
「違う……とは言い切れないです」
指輪の効果で生存率を上げるために結婚した相手が何人も居る。
ナオ、ジュリー、ユリカ、ノーザンの四人とは、今後について真剣に考えていくつもりだし。
「まあ……なんだ……泣かせないようにな」
「はい、勿論です」
同性とこんなにしんみり話すの、初めてだな。
「モモカちゃん! ……将来、僕と結婚してください!!」
突然聞こえてきた言葉に驚く!!
「アイツ、あの年で告白かい! ぶったまげたよい」
モモカに告白したのは、獣人の長男である……誰だっけ?
「ご、ごめん」
モモカが頭を下げて、こっちに走ってきた。
「コセ!」
モモカが膝の上に飛び乗って来る。
長男の方を見ると、呆然とした顔をしていた。
やがて、落ち込んだ様子で家の中へ。
「あちゃー、苦い初恋になっちまったな」
モモカのこと……頼みづらくなってしまった。
ダンジョンは危険なため、モモカをカズマさんの所に預けるつもりだったのに。
「へと……カズマさん、この子を……預かって貰えません?」
「お前、アレの後に頼むのかよ」
そんなこと言われても、他に選択肢が……。
「コセ、私を置いていくの? ――いや!!」
モモカ……本気で怒ってる?
「モモカ。これから俺達は、とっても危険な所に行くんだ……戦えない者は連れて行けない」
「もう置いてかれるの嫌! それに、お母さんとお父さんに会いたい!」
まだ七歳の子供。
危険だけれど、親に会わせるのが一番安全だろうか?
「……分かった。一緒にモモカのお母さんとお父さんを探そう」
「ありがとう、コセ!」
どこに居るのか分からないし、大変な事になっちゃったな。
まあ、こうなることも一応覚悟はしてたけれど。
「……コセ……お前、女に振り回されやすい質なのかもな」
「ははは……はは……」
ナオの事とか、最近だけでも心当たりがあり過ぎる!
そんなこんなで、思わぬ再会と事実が発覚したパーティーはお開きとなった。
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「よし! またサタちゃんが勝ったわ!!」
競馬場で、私のお姉ちゃん、アヤナがはしゃいでいる。
コセっちの所の幼竜はレースに参加させることが出来るらしくて、幼竜を出すと必ず一位を取っていた。
四頭の馬と一緒にレースをし、五頭の順位全てを当てると、購入した馬券が十倍になって返ってくる。
お姉ちゃんの場合、一位だけを当てることでお金を確実に二倍にし続けていた。
一位が確実だからって、有り金を全部掛けて……堅実なのか軽率なのか分からんちーなアヤナ。
やれやれ。まったく、困った姉だよ。
「アヤナさん、そろそろ帰りたいんですけれど……」
「サキが居ないと、サタちゃんを参加させられないでしょう! もう一回! もう一回だけだから!」
そのもう一回だけだからが既に三度目なんだよ、お姉ちゃん。