107.ヴリルの聖剣
左腕に装備した”轟雷龍の剣甲手”、肘部分の球体を”思念操作”で動かし、球体部分から生えた片刃の刀身を様々な方向へ向ける。
「確かに、扱いが難しい」
でも、使いこなせれば近接戦闘でも有利になる。
「アヤは競馬村に残る事になったから、この屋敷に来るのは私とリンピョン、サトミの三人だけになる」
「そっか」
ダイニングの隅で練習していたら、コセとメグミさんのそんな会話が聞こえてきた。
巨大テーブルの上には、レプティリアンを倒して手に入れた装備やスキルカード、消耗アイテムがドッサリ置かれている。
「サトミ達三人とルイーサ達三人は仲間に加わる事になったから、これからはここに居るメンバーで、手に入れたアイテムを適した者に融通する」
「外部に漏らされると困る情報もあるから、もし抜ける場合はそれ相応のペナルティーを覚悟しておいてね」
コセに続き、メルシュが釘を刺す。
漏らされると困るのは、主にデルタに関する情報と、隠れNPCの入手条件。
それと、私がダンジョン・ザ・チョイスのゲーム制作者の娘だということも。
「ナオやノーザンにも話してなかった事を、今から話すね」
明かしていなかった情報を、モモカ以外の十七人全員に共有する。
●●●
「メルシュの奴、人使いが荒いね」
メグミから聞いたレプティリアンのアジトに、アタシとサキの二人で探索に来ていた。
「う~、もっとモモカちゃんと一緒に居たかったのに~」
サキは、動物と小さい子が好きって設定があるからね。
アタシは戦闘センスのある情婦、メルシュは賢く腹黒。
思考が設定に引っ張られている部分は、少なからずある。
「特には……なにも無いか」
コセ達に見られるとマズい物、世界の理に関する物があるかもと危惧して来たが、それらしい物どころか使えそうなアイテムも無い。
「サタちゃん、そこになにかあるの?」
ドラゴンの幼体が瓦礫をどけると、そこには床下収納が。
開けてみると、中には色んな道具が無造作に置かれていた。
「低位の武器や防具、お金にサブ職業。あれ……これって」
「多分だけれど、金策用に置いといたんじゃないかね。殺されて持っている物全部丸ごと奪われるよりは、要らない物を集めて置いておけばいざという時に役に立つし」
突発クエストによっては、失敗すると有り金全部持ってかれたりするしね。
「シレイアさん。これ、今の段階じゃ手に入らないはずなのに」
「へー。アイツら、これの価値に気付いてなかったのかね?」
おそらく、なんらかの突発クエストで手に入れたんだろうさ。
まあ、この”万能プランター”の使い道が分からないと、ちょっと高く売れる物くらいにしか思わないか。
●●●
メルシュの長い話が終わった後、ルイーサと俺は新しい装備を試していた。
「ハアッ!!」
「フッ!!」
互いに、新装備のみでの単純な斬り合い。
慣らしが終わってはから全力で斬り合っているのに、押し切れない!
Lvは、俺の方が上のはずなのに。
一際大きな剣戟ののち、鍔迫り合いになる。
「くっ!」
やはり、膂力は俺の方が上のようだ。
「この辺にしておこうか、ルイーサ……ルイーサ?」
目が虚ろで、聞こえていないかのよう?
「か、かjbf3hwt3hc3!!」
ルイーサがなにか呟いた瞬間――”ヴリルの聖剣”に神代文字が刻まれた!?
「嘘だろ!」
動きが、急に早く!
「コセ!」
見学していたメグミさんが、”ドラゴンの顎”でルイーサの剣を受け止めてくれた。
「メグミさん、助かりました!」
「構わない! それより!」
ルイーサの今の状態は、俺が暴走したときと同じはず!
「武器交換、”強者のグレートソード”!」
すぐに意識を研ぎ澄ませ、神代文字を三文字刻む!
「がぁぁ3いvr3kh」
メグミさんを無視して、俺に斬り掛かってくるルイーサ。
ガッ――ガガガガガガガッガガガガ!! という激しい剣戟が、止めどなく響き渡る!!
強い! 殺す気でやらないと、俺が殺される!
「うぉぉぉぉぉぉぉ333いvr33333!!」
グレートソードに思いっ切り剣を打ち付けられた瞬間、”ヴリルの聖剣”に――六文字刻まれるのが見えた!!
「があああ3うっsfあお3あ!!」
「ハイパワーブレイク!!」
スキルを発動して、なんとか弾き返す!
「俺も……ダメか!」
神代文字を、六文字刻めない!
それに、トゥスカが居ないと俺まで暴走しかねないか!
「ああぅ3jg3けstv!!?」
隙を突いて、メグミさんがルイーサを羽交い締めにした!!
「なんて力だ……ぐぅ! コセ、早くルイーサを止めてくれ!!」
「はい!」
武器を手放させようとするも、一体化しているように手が柄から離れようとしない!
「ダメだ……クソ!」
こんなの、どうやって止め…………あ。
「コセ、早くッ!!」
――俗的な刺激を、瞬間的に想起させる!
「ごめん、ルイーサ!」
鎧を着ているから、身体に触ることも出来なくて、他の方法が無いんだ!!
俺はルイーサの唇を――奪った。
「…………ん?」
ノーザンが、俺を正気に戻してくれた方法。
ルイーサの暴れる気配が無くなった事で、俺は唇を離した。
涙で濡れた瞳が、俺を見詰めている。
「へ? な、なんでコセが、私と…………――イヤアアアアアアアアアアッッッ!!!」
「おわっ!!」
正気に戻ったルイーサに突き飛ばされ、派手に地面を転がることに!
「こ、コセのアホうううううウウウウウウウ!!!」
館の中に急いで入っていくルイーサ。
「コセ……なにしてるんだよ」
メグミさんの、ちょっと冷たい声が耳に届いた。
……理不尽だ。
★
「大丈夫か?」
俺とルイーサが試合をしていた頃、ナオが熱を出してしまったらしく、ベッドで横になっていた。
「ちょっと色々あったから……一日寝てれば大丈夫よ」
人を手に掛けたこと、俺達が抱えていた秘密の打ち明け……ナオを精神的に追い詰めてしまったのかもしれない。
「無理はするなよ」
オデコを撫でる。
「うん♡」
ナオの部屋を出ると、メルシュが立っていた。
「ナオの様子は?」
「大したことは無さそうだ」
「そっか、良かった」
「メルシュ、何日かこの村でゆっくりしないか?」
今まで、大して休みらしい休みを設けていなかったし。
「この村のペナルティーは三日に一回競馬に参加すれば良いわけだから、別に構わないけれど……私としては、あんまり競馬に参加して欲しくないんだよね」
「なんでだ?」
「賭け事は……素質を腐らせるから」
「素質?」
「マスターはさ、賭け事嫌いでしょ?」
「そうだな」
確かに、忌避感はある。
「マスターが嫌だと思う物のほとんどは、きっと素質を腐らせる物だから、よく覚えておいて」
そういって、去って行くメルシュ。
「素質か……」
神に強く干渉できる素質って奴のことか。
「俺は、神なんて嫌いだけれどな」
人間が、人をコントロールするために生み出した神は。