105.レプティリアン抗争終息
巨大なドラゴン同士の激しいぶつかり合いに混乱しながらも、私達はその戦いを目撃していた。
エネルギーの余波が消えるとドラゴンが倒れ、その鼻先へと近付いていくコセの姿が。
「あれは……本当にコセなのか?」
纏う空気が、人間のそれとはまるで別物に見える。
遠い記憶の中の老婆。
私のご先祖様らしい人の空気感に、どことなく似ている気がする。
コセが剣を振り上げ、九つの文字から発せられる青い燐光を超大な刃とし――振り下ろした。
瀕死のドラゴンが真っ二つとなって、光に還っていく。
「生ハーレムの人、凄い」
「や、やるじゃない……」
「凄ーい」
女剣豪とアヤナ、アオイが感嘆の声を漏らす。
「確かに……凄いな」
自然と笑みが浮かんでしまう。
「ねー、あれ、私の彼氏! 私の彼氏なのよ! どう、凄くない!」
ナオが、トゲ付きマントを着た褐色美女に自慢している。
「分かった分かった。それよりも、突発クエストはまだ終わっていないんだ。気を抜いてる場合じゃないよ!」
私とした事が、失念していた。
「見て! 竜人が!」
仲間割れしたと思われる竜の巨人が輝き――光が小さくなっていく?
光は、ブラウンの髪をローツインテールにしている少女に!?
気を失った女の子は……コセとトゥスカに保護される。
「正気か?」
『ハーイ、突発クエストしゅうーりょうー! いやー、とっても良かった! 感動した! 皆、お疲れ! 村の中央塔、レースの観客席がある階に今回の報酬を用意しておいたから、好きなの一つだけ持ってってねー。二つ欲しい人は~、報酬受け取った相手を殺せば横取り出来るよー。じゃあね~! ご苦労様~ー!』
胸糞悪くなる女の声が消えると、チョイスプレートが開く。
○突発クエストクリア、おめでとうございます。
○報酬2000000Gと、”クエスト報酬限定交換チケット”一枚をプレゼント。
○倒したレプティリアン一体につき、ランダム報酬プレゼント。プレゼント内容は以下の通り。
★”竜技使い”のサブ職業
★”竜爪術のスキルカード”
★”竜腕のスキルカード”
★”竜脚のスキルカード”
★”竜翼のスキルカード”
★”竜気のスキルカード”
★”竜剣のスキルカード”
★”竜光砲のスキルカード”
「本当に……終わったのか?」
だがクエストのクリア条件は、ノルディックかレプティリアン、どちらか一方の全滅だったはず。
でも、あの少女は生きている。
「いったい、どうなってる……」
◇◇◇
一瞬だけだったけれど、確かに見た。
『神代文字九つかー。面倒だから報告はしないであげるよ、アルバート。なんちって』
実際、面倒だし。
『それにしても、盲点だったわ。あの子がこの世界で産まれた事で、レプティリアンの枠から外れてたなんてさ』
軟禁状態だったあの子の目の前に、わざと宝珠を沢山出現させたのに。
『でも、クエストクリア条件がどちらかしか生き残れないって内容なのに、まさか協力しちゃうなんてねー』
予想外過ぎて――超面白かった!
『これからの君達に、マジで期待!』
だから、報酬に良い物、紛れさせたからね~。
●●●
『クワー』
「元の姿に戻っちゃいましたね~」
サキが、サタちゃんの頭を撫でながら呟く。
「憐れだな」
「へ?」
「サキ達に言ったわけじゃないよ。戦ったドラゴンの事さ」
サタちゃんが元の姿に戻ったということは、奴が仲間を殺してまで独占しようとした力は、突発クエスト限定のパワーアップだったのだろう。
知らなかったとはいえ、一時の力のために仲間を手に掛ける。
レプティリアン。人間と交配した宇宙人だって話だったけれど……人は、時にああまで残虐になれるという事か。
コセに対して私がしたことも、充分残虐か。
●●●
「お、お帰り」
「ただいま、アヤちゃん」
カズマさんの家に、私のパーティーとルイーサちゃんのパーティーメンバー六人で戻ってきた。
宛がわれていた部屋に戻ると、アヤちゃんが申し訳無さそうに出迎える。
「……勝ったの?」
「うん、勝ったわよ!」
凄く大変な戦いだったけれど、凄く得るものが大きい戦いでもあったと思う。
「これからも……三人はダンジョン攻略を進めるの?」
「アヤちゃん?」
「だったらさ、私……もうやめるわ」
●●●
「挨拶して」
「は、初めまして……モモカです」
竜巨人の正体である少女、モモカが、神秘の館のリビングで、俺の仲間達に挨拶する。
「「可愛い!」」
黄色い声を上げたのは、新しく仲間になった隠れNPCであるテイマーのサキ。
そして、イギリス人と日本人のハーフであるジュリー。
「なんだろう……今なら、ママの気持ちが分かるかも!」
「可愛い! 可愛いよー♡」
なんなんだ、この二人。
「コセ」
モモカが俺の左手に手を伸ばし、指をそっと絡めてきた。
「「キャー!!」」
二人の歓声に、身体をビクリと震わせるモモカ。
「二人共、静かにしろ」
この二人は子供好きなのかもしれないけれど、子供の側に立つという事がまるで出来ていない。
モモカはまだ七歳なんだぞ!
「モモカちゃんの服、あまりランクが高くないんじゃないですか?」
サキが鋭い視線を向ける。
「なら、ぴったりの服があるわ!」
テンションが高いジュリー……なんか怖い。
★
○戦士.Lv29になりました。スキルセット機能がプラス1されます。
○戦士.Lv30になりました。スキル、”激情の一撃”を修得しました。
○スキル欄が埋まっているため、予備スキル欄に配置します。
○戦士.Lv31になりました。パーティー最大数プラス1(リーダーの時のみ適用)
○戦士.Lv32になりました。サブ職業プラス1
○戦士.Lv33になりました。スキル”武術強化”を修得しました。スキル欄が埋まっているため、予備スキル欄に配置します。
○戦士.Lv34になりました。サブ装備数4へ。
○戦士.Lv35になりました。最大スキル数プラス10になります。
○戦士.Lv36になりました。ランクアップジュエル選択。
★武器ランクアップジュエル
★防具ランクアップジュエル
★指輪ランクアップジュエル
★その他ランクアップジュエル
「……黒鬼以来だな、こんなにLvが上がったの」
「どうかした、マスター?」
メルシュが声を掛けてくれる。
「丁度良かった。ランクアップジュエルってなんだ?」
「以前、武器にランクがあるのは教えたよね? その本来のランクを一段階上げるんだよ。最大がSだから、A以下にしか使えないよ」
そういうのもあるんだ。
「ランクの中でも、高位の装備に使った方が得だね。私としては、神代文字を刻める武器のランクを上げてほしいんだけれど」
「そうだな」
グレートソードが使ってて一番しっくり来るし、落ち着く。
俺は、武器ランクアップジュエルを選択した。
○戦士.Lv37になりました。サブ職業を一つ選択出来ます。
★竜剣使い ★暗黒剣使い ★光輝剣使い
★古代剣使い
まだ上がるのかよ! いや、その方が良いんだけれどさ!
レプティリアンの元々のLvが俺と同程度だったとすると、宝珠十個で30差。
「分かっていたことだけれど、あのクエストがどれだけ理不尽な条件で行われていたのかがよく分かる……」
どれを選ぶべきか分からないため、取り敢えず保留。
○戦士.Lv38になりました。属性強化スキルを一つ選択出来ます。
★竜属性強化 ★古代属性強化
「順当に考えれば、”竜属性強化”だね」
「……そうだな」
竜に関する物が沢山手に入っているし。
”竜属性強化”を選択すると同時に、さっき保留にしたサブ職業に”竜剣使い”を選択。
更に、以前保留にしていた属性付与スキルに”竜属性付与”を選択した。
ランクアップジュエルも、さっさと”強者のグレートソード”に使用。
「コセー!」
ジュリーとサキと一緒に居なくなっていたモモカが、リビングの扉を開け、俺に向かって走ってくる。
「見てみて、コセ! これ、凄く可愛いよ♪」
上機嫌な様子のモモカが、濃いピンクのドレス姿で抱き付いてきた!
「よく似合ってるな」
「えへへ~♪」
これで杖を持ってたら、まるで魔法少女だ。
「ママ……私も、ママと同罪だったよ♡」
「とってもキュートですね~♡」
ジュリーとサキが、ウットリとした目でモモカを見詰めていた。
やっぱりあの二人、ちょっと怖い。
あまりモモカに近付けないようにしよう。