98.レプティリアンネガティブとの抗争
「ご主人様!」
メグミさん達と別れ、屋敷がある異空間から出た後、あのタイルが敷かれた場所で鍵を使用。”神秘の館”へと帰ってきた。
「心配掛けて悪かった」
「無事に戻ってきてくださって良かったです」
「ごめん、私が勝手な事したから……」
ナオに対して、少なからず皆から憎悪の目が向けられる。
「皆に聞いて欲しいことが二つある!」
庇うように、前に出た。
「まず、ナオとは生涯のパートナーの一人として、今後の関係を築いていくことにした!」
俺の言葉に、ジュリーとユリカがもっとも驚いているようだ。
「まさか、ナオが食い込んでくるなんて……」
「コセが宣言したって事は、本気なんだ……」
ナオの件を逸らすためにも、そろそろ本題に入ろう。
「二つ目なんだけれど、始めに謝らなければならない」
頭を深々と下げると、皆の息を呑む気配が伝わってきた。
「明日の朝一番に、戦争をする」
●●●
「アイツってさ……良い奴よね」
「どうしたんだ? アヤナが誰かを褒めるなんて、珍しいじゃないか」
あまりの珍しさに、思わず指摘してしまう。
「だって、こんなレア装備をくれるなんてさぁ!」
”レッドストーンのテクニカルロッド”を手に、混乱しているアヤナ。
「私達の装備が乏しいから、仕方なく貸してくれたんだろう?」
私には”パラディンストーンの剣盾”と”パラディンストーンアーマー”を貸してくれた。
現在は、夕刻の庭で使い勝手を確認しているところ。
「気前良すぎるんじゃない? Bランクとかで、結構レア度が高いアイテムなんでしょう?」
「だから、取り敢えず貸すだけだと言っていたじゃないか」
私達の生存率を上げてくれるために、わざわざな。
私達が持っていた武具よりも性能が上だったため、正直ありがたい。
「ルイーサ……只より高い物は無いって言葉、知らないの?」
「大丈夫だよ、コセならば」
不思議と彼を信頼出来るんだ、私は。
「二人とも、良いなー」
特に装備を貸して貰えなかったアオイが、不満が無さそうな声で羨ましがる。
「アンタに合うのが無かったんだから、仕方ないでしょう! ていうか、借り物なんだからね。いずれ返さなきゃいけないんだから」
「ぶー!」
可愛らしく頬を膨らませ、両手グーを突き出すアオイ。
「明日、朝一番でレプティリアンと抗争だ。覚悟は出来てるな?」
「当たり前でしょう。アイツら、絶対に許さない!」
「モチ!」
力が入りすぎているアヤナがちょっと心配だが、まあ、この二人なら問題無いだろう。
私達は第二ステージの時に悪漢共に襲われて、死を持って返り討ちにしている。
その際、奴隷として買った子を死なせてしまった。
ダンジョンの仕掛けやモンスターよりも、人間の方が余程恐ろしいと知っている。
「ルイーサ、大丈夫?」
「ああ、問題無いとも!」
私はパーティーリーダー。
本当は、あの子も私が守らなきゃいけなかったんだ。
――殺す覚悟は、とっくに出来てる!
●●●
「レプティリアンにノルディック、それにネガティブ系にポジティブ系という単語。メグミって奴は、ちょっと面倒な立ち位置の人間だね」
深夜、同じ隠れNPCであるシレイアと話をしていた。
「ネガティブ系のレプティリアン……狡猾な彼等が、随分愚かな真似をしているね」
「アクァッホ製の地球人と交わっただけでなく、現在の地球のカルマに引っ張られた影響だろうさ。ネガティブ系の者が、堕ちるところまで堕ちたって事だろう」
ネガティブ系が魂の在り方を拗らせると、支配と権力に取り憑かれてしまうからね。
「このゲーム、レプティリアンが一枚噛んでいると思ってたのに、関係なかったのかな?」
他次元への干渉方法、レプティリアン辺りが奴等に接触してもたらした可能性が一番高いと踏んでいたのに。
「どっちにせよ、第六ステージのレプティリアンについてはさして気にする必要も無いだろうさ。それより、メグミって女の方が問題だろ?」
「そうね。世界に対して、私達と違った認識を持っている可能性もあるし」
「魂の次元をこの次元に落とし込んでいる時点で、アタシらは全員本質を見失っている可能性があるしね」
「それでも……」
私達は、自分が信じた道を行くしかない。
●●●
俺とナオ、サトミさん、メグミさん、リンピョン、ルイーサ達三人と共に競馬村の地表に出て、小屋から離れた場所で息を潜めていた。
時間は、朝の四時前。
「俺の仲間がボス戦直後に襲われないよう、今から陽動を掛ける」
俺達と合流するため、トゥスカ達は四時ちょうどにボス戦を始める手筈となっていた。
「ルイーサ達は、俺とナオと一緒に祭壇の前へ。仲間たちと顔合わせをしてくれ」
本当は今朝にでも顔合わせをするべきだったけれど、さっきまで思いつかなかった!
トゥスカ達が第六ステージに来るのは不可能だけれど、ルイーサ達が神秘の館に来ることは出来たのだから。
「そろそろ別れよう、気をつけてな」
「そっちも」
「後でゆっくり話しましょうね、コセさん♡」
「絶対だからね!」
メグミさんの言葉を皮切りに、サトミさんとリンピョンが言葉を掛けて去っていく。
今回一番危険な役回りなのは、あの三人になるのか。
「ナオ、大丈夫か?」
「……」
「ナオ?」
「へ!? なに?」
酷く緊張しているようだ。
現在、ナオはリーダーとしてルイーサ達三人とパーティーを組んでいる。
俺はトゥスカとメルシュの二人とパーティーを解消することが出来ないため、ナオを外してもルイーサ達と組むことが出来ないからだ。
そして、ルイーサ達は全員がLv1。
ナオが誰かを殺さない限り、三人は完全に戦力外のままだということ。
「ナオ」
彼女の震える手を取り、彼女の頭を抱えるように抱き締める。
俺の覚悟が、少しでも彼女に伝わることを祈って。
「コセ……」
「ナオの業は俺の業でもある。だから――一緒に背負うよ」
俺達は、今から人殺しをする。
生きるために、命を奪おうとするレプティリアン選民主義者共を討ち倒す!
「ありがとう、コセ……もう大丈夫!」
「行こう! 案内してくれ」
「こっち」
アオイの案内の元、五人で祭壇へと向かう。
暫く進んでいくと、灰色のローブを着た巨軀の男が居た。
デカい鈍器を手に、見回りをしているようだ。
「チャンスじゃない?」
「いや、一人で見回りなんておかしい。危険すぎる」
「うん。奴等は、最低でも二人一組で行動する」
アオイが情報をくれる。
「ツーマンセル以上じゃないと、各個に撃破しやすいから――」
「行くわ。”氷塊魔法”――アイシクルバレット!」
ナオが魔法を放ち、男に直撃した!?
……辺りを警戒するも、誰も近くに居ないようだ。
「おのれ、ノルディックがー――かはう……」
怒り心頭といった雰囲気で無事だった男だったけれど、まるで暗殺者のごとく忍び寄ったアオイによって、背後から喉を切られて絶命した。
「こんなもんよ」
無表情でナイフをクルクルしているアオイ。
この人、怖い。
「お! Lvが一気に11まで上がったわ!」
アヤナが嬉しそうに報告してきた。
「アイツ、酒臭かった。ただの酔っ払い」
アホだ。
自分から命を狙われるような状況を作って置いて、どれだけ無警戒なんだ。
まあ、この男だけだろうけれど。
人間は、よく必要以上に恐れを抱くと言うけれど……レプティリアンは、当初思っていたような大した敵ではないのかもしれない。