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陽当たりの良いところ/電子世界/人工降雨システム
#猫deSF 参加作品
月面を自走する太陽光パネル群を指して、責任者が怒鳴る。「あれで最大効率?なんだあの真ん中のは!」
パネルの中央、自動計算される『この星で一番陽当たりの良いところ』に、数匹の毛玉が丸まっている。
「ご覧の通り。あれを認める条件で私は協力したはずだが?」胸を張る技術者。部下のため息。
***
家族の制止を無視して教授は電子世界に移住した。
悲愴な顔の妻と息子が、画面越しに彼を呼ぶ。返答は、簡素なテクストが黒い画面を流れるのみ。
にゃおん。窓辺の飼い猫が鳴く。
教授の、抜け殻の体が急に飛び上がった。猫の腹部にいそいそと顔を埋めて呟く。「感覚伝達が不十分。やり直しだ」
***
「ああそれは失敗作だから捨てていい」
「いえでも教授、私にはこれが完璧な人工降雨システムに見えるのですが」
「試してみたが、酷い欠陥があってね」
「どのような?」
「我が家には、白い靴下をはいた別嬪さんがいるんだが」
「は?」
「彼女が顔を洗う仕草がめっきり減ってしまうんだ」
「…は?」