白銀の獣/お嬢様と獣/清流の神
白む空。朝靄を割って進む白銀のSUV。黄色い霧灯が線状に走る。鳥のさえずり。エンジン音は次第に、しなやかな四足の足音へと変わる。朝露に濡れて艶めくボンネットが、雫を散らす白銀の毛並みへ。なだらかなカーブを曲がり、黄色い瞳を光らせた白銀の獣は、白い霧の向こうに人知れず消える。
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部屋の窓を破って侵入してきた獣がお嬢様を連れ去ろうとした。護衛がそれを阻む。泣いて逃げるお嬢様を追おうとした獣が、ふと脚を止める。小さく唸ると、身を翻して割れた窓から飛び出す。
屋外から、激しい破壊音のあと、長い静寂。
翌朝、護衛が見たのは、巨大な歯型の付いた獣の亡骸。崖下には巨大な怪物の亡骸。
獣の首にはボロボロになった細い青色の革。かつてお嬢様が逃してしまった飼い犬の首輪と、よく似ていた。
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清流の神の感情が高ぶると小川は激流になる。魚に扮して他の魚と遊んでも、あははと笑うとみんな下流へと押し流されていなくなる。いつもこうだ。激流の中、ひとりぼっちの神は泣いた。
涙も川も枯らした神は、蕎麦屋の女将に拾われた。
数日後、店内のこたつで神が笑う。とたんに盛大な飛沫をあげる絶景を眺め、常連たちは美味そうに麺をすする。