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執事が有能な話/砂場の竜/ピアニスト
うちの執事は有能だ。
「ご所望の、異世界への入口です」
と俺を放り込んだ先、襲いくる巨大な魔獣を次々と倒した。素手で。
「ご無事ですか?」
「勿論」
「何よりです」
「……俺、冒険ってのがしたいんだけど」
「えぇご案内します。夕食までに魔王を倒しましょう」
うちの執事は有能で、俺は暇だ。
***
遊ぼうと声をかけられて、砂場にいた少年は困った顔をした。
「人に擬態してるけど竜なんだ。人のことは分からない。だから一緒には遊べない」
なにその設定、と一人が笑ってその手を引いた。泣きそうな笑顔で駆けだす少年。
砂山に刺さった忘れ物のスコップに、青い鱗が一枚、かつんと落ちた。
***
国内有数のコンクール。神童はピアノをよじのぼり音叉を突き立てた。狂うには早いと嘆き、世間は彼を忘れた。
変わらず鍵盤を弾く彼に、唯一の観客、世話係のおちこぼれが問う。
「何であんなことを?」
「……あいだのおとをだしたかった」
世話係は世間知らずの天才を笑い、後日、弦楽器を贈る。