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04 フィーア~良い魚は焼いただけでも美味いよね


「ま、歓迎するって言っても、水にこれないんじゃあ、あまりもてなせないけどな」


 サマクが照れたように頭をかく。


「や、お構いなく。気持ちだけでうれしいよ」


 はにかむサマクに一真は笑って返した。


「すまんね」

「そうでもない」


 なおも謝るサマクに、セレンはいつもの地位の高そうな口調で言う。


「予定ではもとより素通りの予定だったのだ」

「ああ! そうだ」


 しかしサマクはセレンの弁を無視して、左手の平に右拳を打ち付けた。


「ちょっと待っててくれよ。アレ持ってくるから」


 そう言ってサマクは穴に落ちるように消える。

 同時にざぶんと水の音。


 一真が水の下を見ると、水中から泡が大量に浮き上がってきて、弾けて消える。

 水中の見通しが良くなり、改めて一真はサマクを探した。

 だが、サマクは既に水中に並ぶドームのうち一つに入っていくところだった。

 その早さに、一真は驚く。


「は、はっや。魚より速いんじゃ?」

「魔法を使っているかもしれん」


 一真の横で同じように水中を除いていたセレンが呟いた。

 二人が驚嘆し、二人ともが賞賛するほどに見事な速度だったのだ。


「ああ、水の上に立つのと同じぐらい自然に魔法を使ってると思う」

「あれほどの使い手はおそらく少ないとは思うがな」

「戦儀での戦い方は彼、どうだったの?」


 一真はふと気になってセレンに尋ねた。


「あまり詳しくは見てないが、どうだったか」


 水中を伺いながらセレンは言う。


 一真とセレンが会話を交わしていると、サマクがドームから出た。

 両手に抱えるように何かを持っている。


 サマクはあっという間に浮上し、水上に浮き立った。


「お待たせ!」


 抱えた壺をサマクは一真に差し出す。


「やるよ、王様にもらったフィアキッパって保存食だ」


 壺は口のところが何か布のような物で覆われ、堅く紐でぐるぐると閉められていた。

 形や水中で保存するための封印には妙なところは何もない。

 ただその大きさが、両手で抱えなければ持てない程度なことを除けば、だ。

 赤子なら二人くらい入りそうなほどの大きさがある。

 軽い口調でやるよ、といわれて受け取れるような大きさではない。


 一真は顔を引きつらせながら、受け取るかどうか迷いつつ言ってしまった。

 「ありがとう」と。


 サマクは一真の声に、満面の笑みを浮かべた


「いやあ、喜んでくれたみたいでうれしいさ」


 一真に近づき、サマクは壺を差し出す。


 受け取らざるを得ない空気を感じ、Noと言い辛い日本人である一真は壺を受け取った。


「重ぅい!!」


 両腕にずしりと来た重量に、慌てて一真は全身に魔力を行き渡らせて耐える。


 基本的な魔力による身体能力強化法だ。

 つまり使わなければならないほどの重量がある。


「な、なにこれ!」


 注意深く力を込めて、一真はセレンに目で合図して横にどいてもらった。

 一真は御者席の空いたスペースに受け取った壺をどっかりと置く。


「魚を身だけにして塩漬け燻製した物を壺に入れて空気と水分を抜いたんだって」


 日持ちしそうな食料だ。

 壺にみっしりと詰まっているだろう。

 重さからも相当な量が入っていることがうかがえる。


「良いのか貰って? こんな沢山」


 一真はセレンと顔を見合わせ、サマクに訊いた。


「一つ開けたけど、やったらしょっぱいし堅いしでみんなに不評だったんだ」


 この男マジかと、一真は呆れ笑顔を引きつらせる。


「え、要らないもんを押しつけれらたの」

「いやいやいや!

 押しつけたつもりはないんだ。俺にはいらないもんだけどな。

 そんなデカい車で旅してんなら食い物はいくらあってもたりないだろ?

 人も中にいっぱいいるみたいだし」


 サマクなりに考えて適切な物をプレゼントしたのだろうと一真は察する。

 いくら死蔵品とはいえ、一真は贈答に対して失礼だったと反省する。


「確かにこの国での食料補充は悩みどころだった。この大きさならかなりの量だな。

 助かるが、本当にいいのか?」


 セレンが濡れた壺を軽くコンコンと手の甲で叩き、サマクに訊いた。


「いいよいいよ。火があればおいしく食べれるって王様に聞いたよ。

 おいらたち火ぃ使わねえし。必要そうな君らに食べてもらった方が良いと思って」


 気持ちの良い笑顔の男だ。一真はサマクに対する印象を変えた。


 目玉が飛び出てるのかと思うくらいに見開いた目。

 顎がでて大きく開く口。鼻は低く目と目の間は若干離れ気味。

 それらが十分に収まる大きな顔面。

 魚に似ていると思った自分を一真は恥じる。


「うん、ありがとう。大事にいただくよ」


 頷き、改めて一真は礼を言った。


 水の中では火が使えない。当然のことだ。


 壺の中の物は火を使えばおいしくいただけると言う。

 サマクが王様に貰った物を、おいしく食べられないのは残念だったはずだ。


「セレン、これ今開けて、焼いて良いか?」

「うん? ああ、そうか。いいぞ」


 一真がセレンに聞くと、セレンはすぐに察したようで許可を出す。


「サマク、ちょっと待っててくれ」

「お? いいぞ」


 壺に巻かれた紐の結び目を見つけると、一真は紐を引っ張った。

 きつく巻かれてはいるが、ほどきやすい結び方だ。

 紐は簡単にほどけ、一真は巻きを解く。


「驚いた。この布、焼いてある」


 壺の口を覆う布は泥に浸され、焼いて陶器のように固まっていた。

 ぴったりと壺に張り付いていて、隙間もなく空気も水も通さない。

 恐ろしく厳重で、中に水を通さないという強い意志が込められているようだ。


「《はばむかべ》」


 一真は握りこぶしを作り、魔法の障壁で覆う。

 思い切り振りかぶり、拳を蓋になった布に叩きつけた。


 蓋になった布に割れが出来る。

 と同時に、周囲に強い匂いが漏れ出した。


「うぉ」「うわ」

「な、なんだ!?」


 一真とセレンは同時に、少し遅れて御者席にいたルキアノが声を上げる。

 凄まじい臭気だ。

 だが一真はくさやよりはマシだな、と思いつつ蓋の残骸を取り除いた。


 中には骨と頭を取り除かれた魚の半身がぎっしりと詰まっていた。

 口から見える上っ面の部分だけでも大きいも小さいのもある。


 一真はぱっと見でちょうど良い大きさの物を選んで、尾を掴んで取り出した。

 反対側の手を海の上に伸ばし、手のひらを上に向けて魔法を使う。


「《もえるほのお》」


 手のひらに炎が発生した。

 一真は火の上に保存食の魚をかざす。


「うおお、火だ」


 ワンテンポ遅れてサマクが驚き、身を引いた。


「さっそく食べるんだな。うれしいよ」


 サマクが再び笑顔になる。

 その笑顔を見て、この親切な男に返礼をすべきだ、と強く思った。


 魚に火が通る。

 ぱち、ぱち、と塩漬けにされ燻製にされなお残った脂が弾けた。


「あち、あちち」


 垂れた油が手のひらに落ち、一真は熱さを我慢する。

 火力はありすぎても表面が焦げるだけだ。

 ほどほどの火力を維持して、すぐに焦げない熱量を維持する。


 制御の練習を重ねた一真には、難しくない作業だった。

 維持しながら、難しくはないけど串を刺すとか金ばさみを使うんだったと後悔する。


「バカめ」


 セレンが短く罵倒し、ため息をついて、キャリウス車の中に引っ込んだ。


 それから後悔の時間が過ぎ、じゅうじゅうと音を立てて魚が焼き上がった。

 元々の強い臭みが収まり、脂と身の焼ける良い匂いが辺りに漂う。

 塩漬け燻製だ。塩味は十分過ぎるほどに付いている。


 匂いと音に、一真はつばを飲み込んだ。


 一真がサマクの方をみると、サマクは焼き上がった魚を凝視している。


「サマク」

「な、なんだ?」


 名前を呼ばれたサマクは慌てて一真の顔をみて背を伸ばした。


「お礼にあげる。食べなよ」


 あつい。お皿持ってきて欲しい。


「い、いいのか?」


 サマクは前のめりになって一真に訊いた。

 食欲が強くなっているのだろうことが姿勢で一真にも分かる。


「ああ、元々サマクのだろ? 熱いから気をつけろよ」

「あ、ありがとう。あ、あちち」


 一真から受け取り、熱そうに二、三回その魚を手の中で跳ねさせた。

 我慢出来なくなったのか、サマクはわしづかみにしてかぶりつく。


「あふっ、あふぅ、うまっ!」


 顔を上に向け口の中の空気を出し入れするサマクに、一真は顔をほころばせた。


「気に入ってくれてうれしいよ」

「バカめ」


 短く罵倒しながらセレンがキャリウス車から御者席に出てくる。

 セレンは一真に濡れた布を差し出した。


「拭いておけ。手が汚れているし、やけどになりかけているだろう?」

「あ、ありがとう」


 セレンの心遣いに、一真は照れながら礼を言う。


「うまっ、カズマっ、これっ、うまっ!」


 はほはほさせながらサマク。


 セレンに続いて出てきた侍女が手際良く魚に串を打ち込み始める。




 その日、バハル村で行われた宴の始まりは、そんな感じだった。

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