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02 フィーア~これがキャリウス車だ


「水没してるって、それもう滅んでないか?」


 セレンの言葉から数呼吸後、一真はぽつりと言葉を漏らした。


 フィーアは水に沈んだ国だという。

 そして目の前に広がるのは水面だ。

 一真の疑問は至極まっとうなモノといえる。


「滅んでない。大丈夫だ」


 セレンが呆れたように言った。


「滅んでたら次に行くのはフィーアじゃなくてセコンダリアと言う。

 目的地はフィーアで間違いない」

「セコンダリア?」


 セレンの回答に、一真は引っかかりを感じる。

 前に見た地図を思い浮かべると、フィーアの北にある国はセコンダリアではない。


「フィーアの次はティルドじゃないか。国の並びから言って」


 セコンダリアはティルドのさらに北にある。


「ああ、そうか。言ってなかったか。ティルドにはいかない。

 あそことは事前に協力関係を結べなかったのだ。

 神機も奏者もゼクセリアにいるし、問題はない」


 セレンの回答に、一真は少し残念に思った。

 フィベズでは妙な目に遭ったが、一真には楽しいことや良いこともあったのだ。


「次のことより! フィーアだ」

「ああ、そうだった」


 セレンが強く言ったことに、一真は頷く。


 これから行くのはフィーアなのだから。


「って、フィーアに行く? この先に!?」


 キャリウス車が進んでいるのはフィーア、つまり湖だか海だかが広がっている方だ。


 一真は再度身を乗り出して下を見た。

 牽引ドラゴンであるキャリウス車はまっすぐフィーアに向かっている。


「ふぁあああ」

「安心しろ」


 妙な声を出す一真にセレンが呆れたように言った。


「キャリウスは泳ぎが得意で、キャリウス車も水に浮く。


 眼下ではキャリウスがざばざばと水に入っていった。


「うぉお、そ、そうか。浮くんだキャリウス……」


 見れば岸からの傾斜は強く、水深が深くなる距離も短い。

 少しキャリウスが歩くと、すぐにキャリウスの足がつかなくなった。


 するとずんぐりとした巨大なトカゲに見えるキャリウスはふわりと水面に浮かぶ。

 そして六本ある足を器用に動かして泳ぎだした。


「おお、うお」


 揺れを感じ、一真は慌てて身を乗り出すのをやめて室内に引っ込む。


「水に浮いたようだな」


 セレンが落ち着いて言った。

 一真が振り向くと、セレンは既に窓から離れ、壁際にあるテーブルの席に座っている。


「これからしばらく窓から身を乗り出さない方が良い。

 強い波があれば揺れは大きくなる」

「わ、分かった。いや、もういい」


 一真は胸を押さえ、強く速く打つ心臓の鼓動を感じながら頷いた。

 ちょっと落ちるかと思って怖かったことは、内緒だ。


「このキャリウス車は特注でね。結構なコストを掛けてわざわざ水陸両用に作らせたんだ。浮きやすいように魔法による加工。構造にも工夫をしてある。もちろん揺れを抑える方向での調整もした。建造に一年以上かかったよ」

「そんなに」


 セレンはキャリウス車の自慢をする。

 一真からすれば、ものすごく唐突に。

 あまりの唐突さに、一真は気の抜けた返事しかできない。


 セレンがこのように誇るのは、一真が記憶する限り初めてだった。


「外観を思い出せ。一階部分のそこそこ高い位置まで赤い塗料が塗ってあったろう?」

 自分が今乗っている客車を思い出し、一真は頷く。セレンの言うとおり、窓があるあたりまで赤い塗料が塗ってあった。

「塗ってあった」

「あれは水棲生物がくっつかないようにするための塗料だよ。アレの選定にも悩んだモノだ。だがおかげでフジツボがついて陸に上がったときに外見が醜くなる心配はない」

「そうなのか」


 船の赤い部分もそういうことだったのかと、一真は納得する。

 今まで知らなかったことを知り、一真の頬が緩んだ。


「ああ、これまで通り快適な旅を約束しよう。

 それに前に国々を巡ったとき、このキャリウス車で巡ったのだ。

 沈む心配はしなくていい」

「あ、ああ!」


 一真は力強く、大きく頷く。


 セレンが最後に言った言葉で、ようやく一真は理解した。

 セレンは自分を安心させようとしてくれていたのだ。


 顔に出ていたのだろう。

 一真はキャリウス車が水に浮かび始めたとき、確かに不安が大きかった。

 だから、セレンの説明に一真は笑顔になる。


「心配はなくなったよ。ありがとう」


 一真はゆっくりと立ち上がった。

 揺れは確かに感じるが、立って歩くのには問題ない程度だ。


「それで、水に沈んでるのに滅んでないって、どういうことなんだ?」


 一真はセレンが座るテーブルの反対側に行き、座る。


「いや、まあ、信じられないと思うが……」


 セレンは言うのをためらうように顔を背けた。


「いいよ、言ってくれよ。どんなに変な状況でも、納得できなくても信じはするから」


 ため息交じりに一真は言う。


 一真は事前に各国がどのような状況か知らされていない。

 自分の目で『歪み』を見て欲しい、とセレンには言われている。


 一真は教えておいてくれてもいいんじゃないか、と少し前までは思っていた。

 だが事前にある程度知っていたフィベズでは予想以上に事態は深刻だった。

 中途半端に知ったまま偏見がつくよりはいいかと、今では納得している。


 だが、この状況では聞かずにはいられない。


 水に沈んでいる。

 一真の常識ではもう滅んだか離散したかのどちらかだ。

 ダムに沈んだ村のすごい版だろうと。

 だが滅んでいない。

 何が起きているのか、気になって仕方がないのだ。


「分かった。分かった言おう。結論から言ってしまえば――」

『おーい!』


 窓の向こうから男の声が聞こえてきて、セレンと一真の二人は窓の方を見る。


『久々の外人さんかーい?』


 大声での呼びかけの後、御者の声も聞こえてきた。

 何やら話をし始めたのだろう。


「誰と?」


 一真の思考が漏れてでた。


「誰って、フィーアの住人だろう」

「家あった? というか陸ないよね? どこにいたの?」


 セレンの回答に、更に一真は問いを重ねる。


「それは、まぁ」


 セレンは短く言うと立ち上がり、窓の方に歩く。


「見てみろ」


 窓の外を指差して、セレンは一真の目をまっすぐ見た。


 釈然としないものを感じながら、一真は立ち上がり、窓に近づく。


「見てみろって、船かなんかに誰かが乗ってるだけだ、ろ?」


 船はなかった。

 一真の想像ではキャリウスに小舟か何かが横付けしている、はずだった。


 そこには立っている男だけだ。

 腰に軽く布を巻いているだけの男だった。

 体が濡れているのか体の所々が光を反射し、足下にはブーツのようなものを履いている。

 ブーツの足下が水面ということ以外は、なんら変哲もない男だ。


「……水の上に立ってる」


 たっぷりと思考したあと、一真はそう結論付けた。


「ああ、立っているな、水の上に」


 周囲にはない。


 水はやけに綺麗で、底が見えるほどだ。

 無論、男の足下に岩があるとかはない。


「あ、歩いた。歩いてる」


 よくよく見れば、男は歩いている。

 キャリウス車の進行に合わせて歩いているのだ。水の上を。


「なにあれ……!?」


 一真はびっくりして男を指さしながらセレンに聞いた。


「落ち着け。おまえ、空中走ったことがあるだろう」

「あ、そうだった」


 神前戦儀の最中、一真は砲撃を避けるために空中を走ったことがある。

 足場となる障壁の魔法を次々に発動させて走ったのだ。


 それを踏まえれば、特に変な状況でもないか、と一真は思った。


「御者席に行ってみるか?」


 そとをチラリと見て、セレンが言う。


「ああ、いこう」


 一真はすぐさま頷いた。


何卒なにか感想とかの反応欲しい……

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