幕間 焚き火を囲んで
キャリウス車がゼクセリアの王都を出て二日後。
「煮えたかな」
「もう少し待とう。要心に越したことはない」
一真の問いに、同じ鍋を囲むセレンが言った。
一行は猪の魔物に襲われた。
馬より大きく、固い体毛が密集し鎧のようになった猪の魔物である。
時折街道に現れて被害を出していた魔物だ。
アーマード・ボアと呼ばれている魔物で、常に闘争を求めて走り回っていると言う。
装甲のような堅い外皮を貫かねば傷を与えられないため、討伐難易度が高いのだ。
そのため小さな村や街では討伐報奨金が出せない。
国や領主に兵の派遣してもらうのにも時間が掛かる。
そのため放置されることも多い、厄介な魔物だ。
被害はない。
一真が障壁の魔法で突進を止め、頭部を破裂させて討伐したからだ。
日も暮れかけた時間帯のことである。
キャリウス車は夜を徹して走らせることは出来ない。
キャリウスの変わりは簡単には用意できないのだ。
そして魔物の死体を放置するのも良くない。
他の魔物や獣が寄ってきて、折角平穏になった街道の安全を脅かす恐れがある。
ちょうど良いとばかりに、車と止めて魔物の死体を処理することにしたのだ。
だが王子であるセレンは解体など、血に穢れる仕事をするのは問題である。
一真も今回の旅では重要な要因で、セレンの近くにいなければならない。
だから二人は毛皮や牙・骨の処理や残った肉の用途を従者達に任せることにした。
そして、他の者達が動いている間、セレンと一真は先に食事を作ることにしたのだ。
アーマード・ボアは巨大だ。
それに食料にするには外皮を取り除かねばならない。
つまりとにかく処理にも時間が掛かるのだ。
先に二人が食べ終えてもまだ温かさが保っている物が良いだろう。
だからと、セレンは鍋を提案した。
一真もそれがいいと頷いた。
大きめの鍋で作る鍋だ。
二人が食べ終わってから肉や野菜を追加すれば、従者達の分も賄える。
取れたて新鮮な猪の肉を使った牡丹鍋である。
猪肉は寄生虫を警戒して薄切りだ。
他には近くで採れた山菜と、持ってきた野菜が入っている。
味付けはスパイスとハーブ、そして塩。
醤油も味噌もない。
出汁もだ。
ゼクセリアには出汁文化がないからだ。
だが出汁はなくても匂いは良い。
野趣溢れる肉の匂いだ。
焚き木が弾ける音と合わさり、一真の食欲を実に刺激している。
「そろそろ良いか」
セレンが箸で肉をつまんだ。
セレン自作の箸である。
同じく一真も箸で肉をつまむ。
こちらも一真自作の箸だ。
形は悪いが中々に愛着が湧いてきている。
二人は同時にお椀に肉を入れ、交互に鍋の汁を入れた。
そして互いを見合わせ――
「「いただきます」」
同時に宣言して薄切り肉を口に含んだ。
湯に流れなお肉に残った脂の甘み。
ともすればしつこすぎるだろう脂の味が、まず最初にした。
それが直ぐにスパイスの刺激で緩和され、塩っ気と共に肉の旨みが溢れでる。
だがしっかりと締まった肉は噛み切れない。
何度も噛み、筋をほぐして柔らかくし、一真は飲み込んだ。
「うん」
「ああ」
二人は目を合わせて頷き合った。
そしてお椀から汁を啜る。
硬い肉はしかし、マズいと言うことではない。
歯ごたえと、噛めば噛むほど肉の深いところ、筋繊維の奥に潜んだ味がでるのだ。
猪ということで、一真は食べる前は豚肉の味を想像していた。
だがそれは勘違いで、全く違う物だと、最初の一切れで一真は思い知らされたのだ。
もちろん、生臭さと脂臭さはある。
スパイスによる尖った刺激とハーブのスッとした押さえつける刺激。
それらを超えて主張してくる獣臭さ。
が、それはつまり肉だ、と沈黙にて雄弁に語りかけてくるということだ。
一真は野菜と肉を取ってお椀に取り、少量の汁を入れた。
セレンにお玉を渡すと、セレンもお椀に汁を少し入れる。
その様子を視界の端に収めながら、一真は自分のお椀に集中した。
「出汁がないのは不安だったけど、なんてことはない。肉と野菜で十分に出汁になるね」
野菜を食べる。
鍋に合わせて葉物と少しの根菜だ。
葉物は具と味の要因として十分に活躍している。
そこに肉とはまた違った歯ごたえの根菜だ。
「ああ。良い出汁が出る奴を探すのに苦労した」
ゼクセリアの食事は美味しかった。
美味しかったが、どことなく物足りない気が、一真はしていた。
一真はその物足りない何かは出汁だったんだなと、再認識した。
「しまったな」
「どうした?」
顔をしかめ、悔しそうに言うセレンに一真は何事かと聞く。
「いや、味付けを濃くしすぎた。コメが欲しくなる」
「ああ、確かに」
「スクスはあるが」
「シメのスクス雑炊か。いいな」
「そうするか」
「そうしよう」
二人は食事を続けた。
書けちゃったのでアップしました。
あ、感想ありがとうございます。とても嬉しかったです。




