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20 決戦③


 一真の戦い方は変わらない。

 爆炎拳の一撃を叩き込むチャンスを作る、これに尽きる。

 待つ、という選択肢は捨てた。

 大一番で単純なミスはしない。

 一真は自分の事をそう思っている。

 レイギもそうだろう。


 とはいえ、無策で突っ込んで小技の応酬をしては負けるのは確実だ。


「《はばむかべ》」


 だから一真は自分と相手の間に壁を作る。

 一真がいま狙っているのはカウンターだ。

 移動を伴う格闘攻撃はどうしても隙が出来る。

 壁によって移動を強制させる作戦だ。


「ふんっ!」


 だがアルブスペスは障壁を避けようとしない。

 構えを少し変えた。

 肘を下げ全体の重心を下げた構えだ。


「こんな壁なんぞ」


 左足で踏み込みながらレイギが言う。


「砕く!」


 右足を寄せその勢いを利用した崩拳。

 短く力強い拳が一真の作り出した障壁に突き刺さる。


「なっ!」


 砕かれた障壁は霧散した。

 アルブスペスは止まらず前に出した右腕に左拳を添える。


「ダっ!」


 左足を前に出しながらアルブスペスの左掌をアテルスペスの顔に向け突き出した。


 一真は慌てて姿勢を低くし、左掌による攻撃を避ける。

 眼前に敵の右拳。

 咄嗟に右拳を突き出してアルブスペスの腹を狙う。

 退かれて拳が空ぶる。

 裏拳に繋げて振る。

 右手で止められた。


 一真は右腕に力を入れて押しのけようとした。

 動かない。

 レイギも右腕で押し下げて崩そうとしているのだ。


 互いの右腕がクロスして拮抗する。

 ここだ。


「《雷震拳》!」


 右前腕を《ちらすかべ》で纏い、雷を行き渡らせる魔法拳だ。

 雷がアルブスペスの右腕から全身を走る。


「がっ!」

「《爆炎拳》」


 一真は右拳先に赤い光球を作った。


 痺れ動きを止めたアルブスペスの胸に向けて拳を放つ。

 当たる直前、アルブスペスが後ろに倒れながら左足で蹴り上げた。

 アテルスペスの右腕が蹴り弾かれる。


 倒れるアルブスペス。

 それをにらみ、一真は左手に意識を集中する。


「まだ、《爆炎拳》」


 左拳先に爆炎拳を作り、左膝を曲げて落とすように左拳を突き出した。


 アルブスペスが地面を横に転がる。

 地面に爆炎拳が突き刺さった。


 一真は後ろに倒れ込むように転がって爆発を避ける。


「破空拳」


 先ほどの再現か。

 爆煙の中から気弾が飛び出す。

 一真は低い姿勢のままやり過ごし落ち着いて立ち上がった。


「《はばむかべ》」


 さらに先んじて障壁を作る。

 そして同じ手を二度続けて使うだろうか、と考えた。

 自分なら、しない。


「しまった!」


 正面、爆煙が収まる。

 そこにアルブスペスはいない。


 右下、視界の隅に白い何か。


「炮迅掌」

「が、はっ」


 アテルスペスの腹部右側面にアルブスペスの掌が打ち付けられた。

 衝撃にアテルスペスが浮き上がり、突き飛ばされる。


 アテルスペスが地面を転がり、倒れた。


「これで、どうだ」


 レイギが構え直しながら言った。


「まだ、だっ!」


 痛む右脇腹を押さえながら、一真は起き上がる。

 痛いが、まだ戦える、はずだ。


 構える。痛むが、構えには支障が無い。

 ここから激しく動くには、辛いか、と一真は考える。

 なら、方針は変わらない。

 カウンター狙い。


 考えろ。

 相手の動きを。

 隙を。攻撃を。

 考えて、状況を打開して、勝つ。


「俺には、出来るはずだ」

「やってみろ!」


 レイギが叫び、アルブスペスが動く。

 激しい動きでは無い。

 構えを保ったまま、足をゆっくり動かして少しずつ進む。

 隙の少ない歩方だ。


 一真はまっすぐアルブスペスを見据えたまま、ゆっくりと息を吸い、吐いた。


「《はばむかべ》」


 一真はアルブスペスの眼前に壁を作る。

 距離があるからか、アルブスペスは壁を避けて横に動いた。


 距離が近ければ、壁を破ってそのまま攻撃に移る。

 遠ければ焦らず近づく。


「やりずらい」

「そっちこそ」


 短い応酬。先に行ったのはどっちか、刹那の後に一真には分からなくなっていた。

 ただ敵の動きを見て、考える。


 アルブスペスの構えは変わらない。

 左腕を前に出し、右腕を寄せる。

 一真、つまりアテルスペスと同じ、金城流の構えだ。


 ふと、一真は気付く。


 幼少の頃、一真がテレビの中で見た父と、目の前のアルブスペス。

 歩き方が、違う。


 リングの中、父は常にステップを踏むように動いていた。

 移動しない間でも。

 そしてそのステップから前後左右自在に動いたのだ。


「そうか」


 一真は一言、呟いた。

 誰にも届かない、一真の中にだけ響く呟きだ。


 レイギは金城流だが、アルブスペスは違う。

 そう、一真は気付いた。

 金城流のは動と攻撃で違う立ち方歩き方をする。

 アルブスペスの技は恐らく中国拳法の比重が高い。

 だから、体勢ごとに違う重心バランスが必要になってくる。

 つまりステップで動き回れないのだ。


 一真/アテルスペスは開いた足を少し閉じ、つま先に体重を掛ける。

 脇腹が痛む。

 一真は痛みを無視した。


 いける。

 一真は確信する。

 まだレイギは金城流とアルブスペスの技を完全には融合出来ていない。

 金城流の素早い動きをすれば、敵の動きを上回れる。


 右足を軽く上げ、下ろす。

 左足を軽く上げ、下ろす。

 右、左、右、左。


「お前」


 レイギが声を漏らす。

 アルブスペスの動きは止まっていた。


 一真は応えず、体を揺するように上下する。

 そうだ。

 これが、金城流の歩方だ。

 足を広げ重心を下げ大地を蹴りながら殴るのは、攻撃の時だけ。

 動く時は、足と重力、双方を使う。

 体を上下にゆらしながらも、どのタイミングでもどの方向にも直ぐに動く。


「思い出した」

「はっ、そんな軽い動き、きっちり蹴り飛ばしてやる」


 一真はレイギに言い返さない。

 格闘技の練度はレイギが上だ。


 動く。

 動いて、避ける。

 避けて、爆炎拳で殴る。


 一真に出来る事はそれだけなのだ。

 ならば、拙いこの歩方でも、動くだけならいい。

 爆炎拳は重力や勁に寄らない火力を持つ。


 動いて、当てれば良いのだ。


「これからだ。これから、俺は、勝つ」

「構わず蹴り飛ばすだけだ。いくぞ」


 決着は、近い。

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