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16 金城 一真


 ワイシャツに袖を通す。

 今回が最後になるだろう。


 一真は戦儀には、スーツを着ることを決めていた。

 最後の一戦である今日も。


 下着と靴こそゼクセリアのものだが、スーツ一式は日本製だ。


 ズボンを履き、ベルトを締める。

 黒いリクルートスーツはそれなりの生地。


 ネクタイを巻き、結んで締める。

 青地に白と紺の斜めストライプ。


 ジャケットを羽織る。

 この世界に来て、二ヶ月と半分。

 この日を最後に、一真はスーツを捨てる。

 そのつもりだ。


 日本に戻れる気はしないし、恩返ししたかった父もいない。

 日本に帰る理由は、思い当たらないのだ。


 ソーラを助け、ゼクセリアで暮らし、そして。


 一真は首を振って考えを振り払う。

 先のこと過ぎる、そう思ったからだ。


 今日は神前戦儀最後の日。最後の決戦。


 勝って、奇跡を願い、ソーラを助ける。

 そのための大事な日だ。


「勝つ。勝ちに行く」


 一真は決意を呟いた。

 ネクタイを締め直し、部屋の入り口に向かう。


 ドアが開けば、そこにはアジャンがいた。


「よう」


 アジャンは軽く手を上げて一真に挨拶する。


「ああ、おはようアジャン」


 一真も和やかに返す。


「調子はどうだ?」

「万全。大丈夫だよ」


 一真の返事に、アジャンは満足そうに頷いた。

 アジャンは一瞬だけ一真の顔を見つめ、右手を差し出してくる。


「そうか。

 いや、長いこと話すと何か言いそうになってしまうな。

 一言だけ。がんばれよ」


 一真は頷き返し、アジャンの手を握った。


「ああ。勝ってくる」

「行ってこい」


 アジャンの手を離すと、一真はアジャンに背を向けて歩き出す。

 その先は、アテルスペスがある場所だ。

 そして、アテルスペスと共に行くのは、神域の戦場である。


 一真は背後で、アジャンも歩き出すのを音で分かった。

 きっと、そのまま談話室で応援してくれるのだろう。

 そう思えるほどに、一真はアジャンに友情を感じているのだ。


 だからか、一真は少しだけ寂しく感じた。

 彼はニーネの男だ。

 勝っても負けても、一真はゼクセリアで暮らすと、決めた。

 誘われた当時は、少し迷いもあった。

 負けたらゼクセリアには居づらいだろうし、生きていくなら働かねばならない。

 ニーネにスカウトされればその心配はないだろう。


 しかし今の一真に、ニーネに行く気はない。

 ヘマのこともあるが、それだけではない。


 助けてくれたソーラを、一真はきっと好きなのだ。

 助けられればそれで良し。

 そうでなくとも、やはりソーラの側にいたい。


 ただの願望だ。

 だが一真はそうしたいと思う。

 だからまず、戦儀に全力を出しに行くのだ。





 アテルスペスに乗り込み、スキャンがなされる。

 10の指全てと体の各部に金の輪がはまりコックピットの中央に固定される。

 アテルスペスと繋がった。


 すると直ぐに転送が始まる。


 光の粒子が多量に出現し、アテルスペスの周囲に殺到し、光の渦が巻き起こった。

 渦にアテルスペスの全てが飲み込まれる。


 一真は息をゆっくりと深く吸い、目を閉じてゆっくりと吐いた。


 目を開ける。

 光の渦が晴れていく。


 戦場だ。


 目の前には同じように、光の渦があった。

 対戦相手の、フィルスタのレイギ。

 そして彼が乗る神機だ。


「なっ!」


 一真は驚愕した。

 レイギの神機に、だ。


 白い神機だった。


 二股の三角帽子を被ったような頭部。

 人と同じ体型バランスの、格闘のための体。

 腰から下はマントを纏っている。

 相手に打撃を与えるであろう手首から先は黒くつるりとしていた。

 2つ並んだ目らしき部位は紫で、瞳のような模様も見える。

 だというのに、鎧のような装甲で全身が構成されたロボット。


 その姿はよく知っているものに似ていた。


 そう。まるでアテルスペスの色を真逆にしたかのような。


 双子のような、白いアテルスペス。


「ふはっ、わはははははは!!」


 突然、笑い声が聞こえた。


「まさか神機までとはな!」


 相手――レイギの声だ。


「な、何で」


 一真は驚きながら、思考をクリアにして構える。

 軽く腰を落とし、両手を軽く握って体の前に、右手を少し相手に突き出す構えだ。


 同時にレイギの神機も構えていた。

 軽く腰を落とし、両手を軽く握って体の前に、右手は少し相手に突き出す構えだ。


 まったく、同じ、同一の構えだった。

 タイミングも、何もかも。

 ただ、アテルスペスは少し拳先が震えている。

 一真の驚愕が震えとなって出ているのだ。


「同型機、ってヤツかな」


 レイギは二日前にあった、あのときのままのようだった。

 神機も落ち着いて、震えはない。


「なんだ。お前は、何だ!? 何を知っている!」


 驚きのあまり、一真は大声で問い質す。


「いや、知らんさ。ただ、お前より気付いているだけだ」

「何を!」

「誕生日は5月10日。血液型A型。父はプロ総合格闘家の金城剛史。母は佐織」

「なっ!」


 合っていた。全て、一真のものだ。


「何で、何故知っている!」

「そりゃ知ってるさ。知ってる知ってる。当然だろう?」


 何が当然なのか、一真には全く分からない。

 混乱する一真を他所に、レイギの神機は構えを解く。


「少し話をしようぜ。このままじゃ、満足に戦えんだろ」


 確かに、と一真は思った。

 頭の中は何故とぐるぐる回っている。

 一真は構えを解いた。


 戦闘開始の合図は、まだ出ない。


「そうだな。何から話せば良いか」


 レイギが少し悩むような声色で言った。


「俺に話が分かるように頼む。何がなんだか」

「ああ、それなら大丈夫。ちょっとした自己紹介で、混乱は落ち着くだろうさ」


 一真はため息を1つする。そして深呼吸を一度だけした。


「はは、俺もよくやるよ。ソレ」

「いいから速く話せ。俺には何がなんだか」


 焦りから、急かすように一真は問い質す。


「前にレイギって名乗ったが、実は偽名なんだよソレ。

 まあ、今もそう名乗ってるし、そっちで呼んで欲しいけどな」


 何でも無いことのような声で、レイギは言う。


「偽名?」

「そうだ」


 一真の聞き返しに、レイギは何でも無いことのように頷く。


「俺の名は一真。金城 一真」


 レイギが言った。


「なっ!? なんだって」


 一真は目を見開き、相手の神機、その顔を見る。

 その先のレイギは見えないのに、見ようとした。


「そしてこいつはアルブスペス。お前のそいつとは兄弟ってやつじゃねぇかな?」

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