14 時には待つしかないこともある
今週も遅れましたが何とか日曜じゅうにまにあいました。
一真の服を掴んで話さない女性は、フィベズの奏者だという。
名前はブラフト谷のリリィ。
食堂まで歩く間に一真は聞いた。
フィベズといえば、決戦本儀、つまり決勝トーナメントでレイギと当たった国だ。
つまり、既に敗退している。
食堂について、一真は二人分の暖かいお茶を入れた。
一真は日本の緑茶とは風味が違う気がしている。
だがお茶の風味など銘柄によっても違うし、まして世界が違うのだ。
これがこの世界のお茶なんだと、一真は理解している。
元々、一真はお茶にそこまで拘りはない。
安価な茶葉か、水出し用か、ペットボトル。
銘柄もメーカーもその時々だ。
一真は昔を思い出し、お茶の事をいろいろと考えた。
考えるより、他に出来ないのだ。
リリィは何故か一真の隣に座り、お茶にも手を付けない。
一真が顔を見ようとしても俯くばかりで表情は覗えない。
ただ良く手入れされた金色の髪が左肩から前に流れているのが分かるだけだ。
身長は一真の目の高さと同じ位で、座った今では、横顔すら覗えないほど。
背を曲げているため、余計に頭しか見えない。
様子をうかがってもリリィは話を始めなかった。
一真に女性の服がどうのこうのは分からないが、質素な造りの服装をしている。
シャツの白さを見るに、それなりには裕福だろうか。
装飾の類いは一切しておらず、ただ本人だけで美しい。
そんな女性だなと、一真は思った。
暖かいお茶が温くなり、すっかり冷めたなと、一真はコップの中身を口にする。
渋みを強く感じ、一真は顔をしかめた。
何度か口にしたが、暖かい内、温い内よりは俄然に強い。
一真は渋さを我慢して飲み干し、立ち上がる。
「あっ」
リリィが服の裾を掴む力が強くなった。
「お茶、入れ直してくる」
一真がそう言うと、リリィは裾を離す。
ため息を一度吐いて、一真はドリンクバーに向かった。
夜も遅い。
まだ長くなるかもしれないと考えて、一真は同じお茶は辞めることにした。
選んだのは気分が落ち着くハーブティーだ。
じっと見ることで浮かび上がる説明にはそう書いてあった。
地球の物とは違う可能性はあるが、ハーブはハーブだろう。
2杯入れて、一真はリリィの隣に戻り、座った。
片方をリリィに差し出し、自分の分を一口含む。
独特だけど、きらいではない香りが鼻腔をくすぐった。
味もすっきりとしてて、かすかな甘みがある。
「その」
一真がお茶を飲み込んだ時、リリィが口を開いた。
「すま、ない。付き合って、もら、って」
所々掠れた声だ。
どれほど長い間かは分からないが、しばらくなにも口にしていなかったのだろう。
何と答えようか、一真は少し悩んだ。
弱気になった女性の頼みを断れないのは、亡き父の影響もあるだろう。
両親が離婚したのは、格闘技の試合に出れなくなり、しばらく立った頃だ。
収入が減る事への不安を母は毎日口に出していたのを一真は覚えている。
そんな時に、父から離婚を切り出したのだ。
それは父の優しさか、嫌気か、はたまた女性に良いかっこしいだったのか。
一真には分からない。
ただ、一真に女性には優しくしようという気持ちを多くしたのは間違いないだろう。
今も、そうだ。
ああ、そうだと一真は思い至る。
「いや、泣きそうな女の子を放っておくことなんて出来ないからね」
思っていたよりも、スムーズに一真は言った。
「それは、いや、ありがとう」
リリィが顔を上げ一真を見る。
一真はようやくリリィの微笑みを見れた。
それは、ここに来た初日に見た顔だ。
一真達より先に談話室にいた5人の内一人。
冷たそうな笑顔だったのを一真は覚えている。
だが今は。
悲しげに眉尻が下がり、弱々しい。
切れ長の目の端は潤み、今にも涙が流れ落ちそうだ。
「なぁ、なぁ。聞いて、くれるか?」
リリィは再び俯いて、視線を机に戻す。
「分かった。分かったけどその前に少しお茶を飲もう」
掠れた声は聞きづらく、また今にも喉を悪くしそうで、聞いてられない。
一真はそんな女性を放置しておくことは出来ないのだ。
「あぁ」
頷いてリリィはお茶を口に含む。
そして口の中を潤すようにゆっくりと飲み込んだ。
「心配を掛けて、すまない」
喉が潤ったのだろう。
声が掠れなくなっていた。
代わりにでたのは、見た目の印象とは裏腹な、透った滑らかな声だ。
「その、気持ちも少し落ち着いた」
リリィはもう一度お茶を飲む。
「ふぅ、これは落ち着くな」
幾分か柔らかい声だ。
張り詰めた糸のような緊張が、緩んだようだと一真は感じた。
「レイギ、君が勝ったことを責める気はないが」
「レイギ?」
跳ねるようにリリィは一真に振り向く。
「あ、いや、君は、だれだ?」
目を見開き顔を近づけ、一真の顔や体を観察するようにリリィは見てきた。
一真は困惑しながら答える。
「え、ゼクセリアの奏者で、金城 一真」
顔を遠ざけてリリィは姿勢を正した。
「そうか、希人か。よく似た雰囲気だから。すまない。ずっと間違えていた」
「別にいいよ。構わないさ」
一真は気にせず微笑んだ。
一真にとっても外国人の顔は判別しずらいし、一真とレイギは同じ日本人だ。
流石にソーラと他の人の顔は見分けが付く。
そうでなくてもゼクセリア人なら既に判別付くようになっているのだ。
要は慣れだと、一真はそう思っている。
「彼とは故郷が同じだし、君が似ていると感じるのも不思議じゃないさ」
「そうか、いやしかし、すまないな」
狼狽するリリィが一真にはなぜだか可愛く見えてしまう。
その感じ方が失礼に繋がらないように、一真は話を進めることにした。
「いいさ。それより、話を聞かせて欲しい。それで楽になるなら、幸いだよ」




