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12 同じ故郷の懐かしき


 戦儀の後は腹が減る。

 アジャンにも聞いたところ、彼もそうだったらしい。

 ではバルドと食べようかと思ったが、彼はお酒だけ注いで部屋に戻った。

 誘えそうにないからと、一人で飲むそうだ。


 一真は温め終わった異世界の牛丼再現料理であるスカイドの袋を開けた。

 独特の匂いが一真の食欲を誘う。


 一真が知る牛丼とは違う。

 安い牛丼は父と共に何度もお世話になった。

 だからか、材料が違うスカイドでも、懐かしさで嬉しくなる。

 寂しさも、少しはあったが。


「いただきます」


 手を合わせて、言った。


 箸にしては妙に長い棒2本を箸のように持ったところで、食堂の入り口が開く。


「お、先客かって、あんたか」


 入ってきたのはフィルスタの奏者、レイギだ。

 つまり次の、決勝での対戦相手である。


「レイギ、決勝進出おめでとう」

「あんたもな、一真。ん?」


 一真の顔をみて笑みを浮かべたレイギ。

 だがすぐに表情を落とし、声を漏らした。


「あの……」


 レイギも日本の食事が懐かしいのだろうと、一真は察する。

 同時に、自分も同じ反応だったのを思い出した。


「ふふ、だよね。気になるよね」


 レイギはこくんと頷くと、スカイドに向け指を差し、言う。


「その料理は」

「ああ、牛丼みたいだろ? スカイドっていうらしい」


 一真の言葉を聞くや否や、レイギはダッシュで食料棚に向かった。


「右から二番目の戸の、そうそれ。一番上の右から二つ目にあるやつ」


 レイギが探して見つけるのを一真は言葉で手伝う。

 ディマオに感謝しながら、レイギが見つけたことを喜んだ。

 レイギはさっそくとばかりに温める機械にスカイドのパッケージを入れた。


「さって」


 一真はスカイドに向き直る。

 薄切り肉をよけてコメを露出させ、肉を一枚取った。

 摘まんだ肉をコメの上に乗せ、肉をコメごと巻き込むようにすくい上げる。

 それを口に含んだ。


 舌に甘辛い味が広がり、噛みしめる度にコメの甘味と交わって――

「美味い」

 のだ。

 一真はため息を吐くように、言った。


 こうしてゆっくり噛みしめるのも、良い、と一真は思う。

 先日食べたときはゆっくり食べるつもりで急いでしまった。

 久々の故郷の味でつい箸の動きが早くなってしまったのだ。


 無論、細部は違う。

 肉も味付けも近いものを何とか選んで作ったものだからだ。

 先人が努力をし、この控え施設の料理になるまで広めた。

 一真はそのことに感謝をする。


 一真がスカイドを三分ほど食べたところで、向かい側にレイギが座った。


 レイギは袋を開ける。

 そして一真と同じように二本の棒を箸のように持ち、器を抱え、一口かっ込んだ。


 じっ、と一真は失礼かなとは思いながらも、レイギの様子を見る。


 早い口の動きが次第にゆっくりとなり、飲み込んだ。レイギの頬を涙が一筋伝った。


 そのままレイギは器の端の紅ショウガ、らしき漬物を一つ取った。

 そして同じように肉とコメと一緒にかっ込む。


 一真はそれをみて口元をゆるみそうになりながらも、食事を再開した。


「うまい……」


 ゆっくりと食べる一真の耳に、しみじみとしたレイギの声が届く。


「だろう?」


 一真は短く聞いた。

 レイギは頷き、器の中を見つめ、もう一度頷いて言う。


「ああ。懐かしい味だ。

 ちょっと、いや肉とかコメとかだいぶ違う味だけど、牛丼だ」


 感想は一真とほぼ同じだった。

 故郷が同じだからか、同じ料理で喜んでいることに一真は無性に嬉しくなる。


「棚の位置からして、セコンダリアの料理か?

 近い国に牛丼があったなんて」


 フィルスタはセコンダリアの隣国だったかと、一真は思った。

 そういえば、一真はこの世界の地理を知らない。

 国同士の位置関係やどういう気候なのか、一真は知らないのだ。


 終わったらヘマと一緒に勉強しようかなと思う。


「いやあ、終わったら食べに旅行しようかな」


 レイギの言葉に一真は急いで口の中のものを飲み込み、レイギを止めた。


「いや、まて」

「うん? なにさ」


 引き続きかっ込もうとしていたレイギは、そのままの姿勢で止まって聞いてくる。


「セコンダリアじゃ、スカイドはもう食べられてないらしいんだ」

「は? それは、どういう」


 スカイドの器を下げ、レイギは困惑したような顔で聞き返してきた。

 レイギの困惑は一真にもよく分かる。

 一真にも経験があるからだ。

 あの時はディマオの調子のいい舌回しにずいぶん困惑を重ねたものだ。


 一真はディマオの言葉を思い出しながら、レイギに説明する。


「なんでも田んぼが今ないらしい。

 全部麦畑らしくて。醤油も材料作ってないらしい」


 伝聞系でずいぶん短くなってしまった。


「はあ?

 コメ作るのに最適な気候じゃないのかあそこ。

 醤油だって豆なんかどこだって作れるだろうに」

「俺にもよく分らんよ。

 教えてくれたディマオってのがセコンダリアの奏者で学者でね。

 そいつも研究中らしい」

「んわー、そうか。残念だ」


 心底残念そうに、レイギはスカイドの器をのぞき込む。

 一真はレイギに全くの同感であった。


「こっちの料理も慣れれば美味しいよ」

「そらわかるさ」


 レイギはため息を一つして、続ける。


「半年こっちにいるんだ。こっちでの好物だって、好きな料理だってあるさ」


 レイギの眉尻は残念そうに下がっているが、口元は笑みの形だ。

 何かと、思うところがあるのだろう。

 自分にもそうだからと、一真は感じた。


「そっちは長いんだな。こっちはまだ二か月くらい」

「そりゃ急な話だったな。ほとんどすぐじゃないか。よく神機に乗れたな」


 この世界に来てからのことを一真は軽く思い返した。

 幸運、そう、運が良かったのだ。

 そのお陰で、あの人を助けることができる。


「それが、奏者指定でね。半ば仕方なくだけど、叶えたい奇跡があるんだ」


 まっすぐレイギの眼を見て一真は言った。


「奇遇だな。俺もさ」


 レイギも、まっすぐに視線を返してくる。


「レイギも指定か?」

「そう」


 二人は同時にスカイドの器に視線を送った。

 冷めないうちに食べようかと目で言い合い、食事を再開した。

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