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 幕間 去る者と残る者


「アジャン」


 少年の容姿を持つ老境にさしかかった男、ゼラン・ヴェルート。


 彼は控え施設の中央談話室にてソファに座る男、アジャンに背から声を掛けた。


「将軍」


 アジャンは後ろをちらり見て、ゼランを確認すると立ち上がって振り返る。


「今回は、その」

「ああ、今回も負けた。アンペールXなら行けると思ったんだけど」


 どういう表情をしたらいいのか、アジャンは分からない。

 ゼランに気落ちした様子はないが、年を経た英雄だ。

 悟られない方策の1つぐらい、する。


「まったく、あれには騙された」

「その、今し方勝負が付きまして」

「ああ、もうすぐ来るのか」

「そうなるかと」


 ため息を1つして、ゼランは自嘲げに口を歪めた。


「まあいい。僕はもう帰る。姪によろしく言っといてくれ」

「会って行かれないのですか?」

「恨めしげな顔を見せられては彼も困るだろう。

 それに。もう僕は歳だけど、次回まで生きられないと決まったわけじゃない。

 次は勝つさ」


 老少年英雄ゼラン・ヴェルート。

 当年とって68歳。

 ウェルプトの民は60を過ぎたあたりで、見た目の若さとは裏腹に老衰で死に始める。

 長生きしても70は超えられない者が多い。


 だから、次はない。

 その覚悟だった。


「大叔父さん」

「ふふ、そう呼ばれるのは初めてか。だが、悪くない、な」


 ゼランは背を向けて妹の孫に言う。


「父さんだとかおじさんなんて呼ばれたことはなかったから」

「貴方は僕の憧れだ」

「だったら醜態をさらせないな。

 喚くのは柄じゃないし、恨み言を呟くほど陰険じゃない。

 僕の代わりに彼を祝っといてくれ」

「わかりました」

「ああ、ついでに彼女にも待っていると伝えておいてくれると助かる」


 こうして、一人の奏者が神域を去った。


 奇跡を賜ることが出来るのは一国のみ。

 敗退者が去らない理由は少ない。

 ただ屈辱と後悔を抱えても、戦儀の行く末が見たいがために。

 応援したい者がいるために。

 ただ心を通わせた者がいるために。

 国に帰りたくないがために。


 そういった理由が無ければ、ただ去るだけだ。


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