18 嵐の後に
光の渦が晴れたとき、一真の眼下にはほの光る床があった。
「勝った?」一呼吸「のか」
ハルファスを組み敷き、攻撃を叩き込んだ。
そのあとすぐ、光の渦に包まれた。
右足のないアテルスペスは立ち上がれない。
だが完全に動けないほど、損傷しているわけではない。
頭部も無事だ。
既に控え施設のある場所に来ていたことに、一真は気付く。
床も、モニター越しに周囲を見ても、清浄な光に満ちていた。
「開けろ、アテルスペス」
一真が口を開くと、一真の正面が開く。
同時に体の向きが変わって、正面に脚を向けるようになった。
コックピットの中に居る間、一真は内部中央に浮遊した状態で位置が固定される。
原理は一真にも分からない。
一真の体各所に着いていた金色のリングが消えると、一真は重力に囚われ落下した。
そのままアテルスペスの外に出て、着地する。
後ろを振り返れば、アテルスペスが失った右足の付け根に、光が集まっていた。
直接見るのは初めてだが、修復されているのだろうと、一真は推測した。
前回、アンペールXとの戦闘後も、同じような修復のされ方をしたのだろう。
神の力によるものか、修理も補給も、この光が自動でやってくれている。
そうでなければ、こうも全力で戦えるはずがない。
喜びと共に、少しの罪悪感が沸き上がってくる。
自身は勝たねば行けなかった。それは間違いない。
だからといって、幼い少女を怖がらせてしまったのは、良くないのではないか。
声の調子から言って、泣いていたかも知れない。
そんな思いが、一真の胸に去来した。
慰めるのは良くはないと思うが、望むなら側に居ることぐらいは、した方が良い。
一真はそう決めると、空間中央の施設に目を向けた。
いや、直ぐに動けず、神機の元にいるかも知れないと、頭を振った。
ティルドの神機があるだろう光の柱は、控え施設に向かって左方向。
光の柱にして3番目がティルドの神機スペース、のはずだ。
一真は目当てを付け、その光の柱に向かって歩みを進めた。
近づくにつれ、光の柱の前に人影を見つける。
服の色には覚えがあった。ヘマが着ていたドレスの色。
人影はうずくまり、小さく微かに泣くような声も聞こえてくる。
一真は急ぎ駆け寄った。
「ひっく、うぅ……」
少女は脚を抱えて座り込み、顔を伏せている。
背を震わせ、声を押し殺し、ヘマは一人耐えていた。
「ヘマ」
一真は名を呼んだ。
「カズマ……?」
ヘマが顔を上げる。
化粧が涙で滲み、汚れていた。
それでもなお、整った美しさがあることに一真は少し驚きながら、ハンカチを出す。
「ほら、顔を拭いて」
「うん……」
頷くように言いながらヘマは再び顔を膝に伏せた。
一真は無理矢理にするわけにも行かず、ヘマの隣に腰を下ろす。
せめて、ここに居る時ぐらいは守ってやりたい。そう思ったのだ。
ふと視線を左に向けると、誰かが控え施設から出て光の柱に向かって入っていた。
フオルの奏者が戦いに赴くのだろう。
「うぅ、ぐすっ。カズマ……」
「なんだい?」
ヘマの声に、一真は直ぐに返事を返した。
「あだしは……、その、強かった?」
「あぁ。負けるかと思った」
「そか」
一真はヘマに視線を向ける。
ヘマはドレスの袖で顔を拭い、笑顔を作った。
ヘマのぎこちない笑顔に、一真の口もほころんだ。
「な、な。カズマ。あだし、負けちが、帰らん」
「そう」
戦儀に敗退しても帰るかどうかは奏者が決めることができる。
戦儀期間中は滞在する物も多いと、一真は王から聞いていた。
「あだし、に、教えンちくれるんな?」
「できる限りは、教えるよ。何が良い?
算数とか、魔法とか。教えられることならなんでも」
「そか。そか。迷うきにな」
二人はそのまま、話を続けた。
家族の事やこれからのこと、やりたいことの話。
言葉も少なく、あまり笑い合わなかった。
二人の心に秘めた想いも、交換し合う、ゆっくりとした時間だった。
一真はヘマを背負い、施設の廊下を歩く。
ヘマは相当に疲れていたのだろう。
一真の背に身を預けると、そのまま寝てしまった。
ティルドの光の柱から一番近い控え施設のドアから入り、中央へ向かう。
まさかヘマの個室に無断で入るわけにもいかない。
中央の部屋はソファが多いから、そこに寝かせようと思ったのだ。
ドアが開く。
「おっ、来たか。遅かったな」
部屋の中程、ソファの向こう側からアジャンが声を掛けてきた。
「勝利おめでとう」
アジャン意外にも、何人かその場にはいた。
ゼランも居るし、レイギも一真の顔を見てすぐに顔を背けられる。
それ以外にも見知った顔、知らない顔、何人もその場にはいた。
「ああ、ありがとう」
一真はとりあえずとアジャンに返答をし、室内に入る。
「これはどういうこと?」
「見りゃ分かる。お前ら以外みぃんなコレを見に集まってたんだぞ?」
アジャンがそう言って床を示した。
控え施設中央の、共同談話室、その床にはいつも通り、戦儀の結果表があった。
いや、違う。
表が1つ、増えている。
「これは……」
「決戦本儀」
一真が漏らした言葉に、アジャンが短く言った。
床には下端の6点と上の1点を繋ぐ枝分かれした線、トーナメント表が描かれている。
「その組み合わせ表さ」
一角にはゼクセリアの国名も、確かにあった。
ここでようやく、一真は勝ち上がったことに確信を持ったのだ。
やっぱ反応がないとモチベーションがズタズタです。
それでも、書き続けようとは想っています。
次回も概ね土日に更新します




