表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
17/115

 幕間 ゼクセリアにて

「それで、本当に辞めてしまうの?」


 ソーラはテーブルの対面に座るエルミスに問うた。


 ゼクセリアでは一般的ではない、茶葉を使った紅いお茶を、エルミスはカップに注ぐ。

 ソーラと自分の分で、二杯。


 高級なティーセットを左手だけで、それも慣れた様子でエルミスは扱う。


「ええ。

 この手では満足に仕事ができませんから」

 ポットを置いて言うエルミスの右手は、ミトンに覆われていない。

 腐りかけた指も、すっかり石になって歪な形で固定されている。

 薬指も、あのときから欠けたまま。


 石化は、手首を超え、前腕半ばまで進行していた。


「あなたこそ。

 最近は部屋に引きこもりがちと聞きました」

「私は良いの。

 元々、歩き回るのは好きじゃないもの」

「そう、でしたね」


 エルミスはソーラに茶の入ったカップを差し出す。


「ですが、ソーラ、あなたは言っていましたね」


 エルミスは丁寧だが、気安い口調でソーラに言った。


「私は大丈夫だと、皆に言わないと、って。

 だから、痛むのに歩き回っていたのでしょう」


 王族だからと、強がって。

 エルミスはその言葉を飲み込んだ。


「私は良いの」


 ソーラは短くそう言った。


「そう」


 エルミスも短く返した。


 エルミスには、頑なになったソーラはそう簡単には解れないと知っている。

 よほどの事が無ければ、こうと決めたソーラは曲がらない。


「でも」


 エルミスは、カップを手に取り、口元に持ち上げながら、


「今の理由は、違うでしょう?」


 そう言って熱い茶で唇を湿らせた。


 ソーラはエルミスの言葉に、持ち上げかけていたカップを止める。

 一拍だけ止めて、再び口元に上げ、


「なにを」

「カズマさん」


 エルミスが上げた名に、その手を止めた。


「顔を合わせたくないのは分かります。

 ですが、あまりにも不義理では?」


 言って、エルミスは茶を一口。


「わたしは、私は」


 ソーラは目線を反らしながら、迷いがちに言う。


「そう、私は、ただ」

「そんなに兄さ、いえ、セレン様の時のようになるのが嫌ですか?」


 エルミスが挙げた名に、ソーラはカップを降ろした。


 それはソーラの兄の名だ。

 今はこの国にいない王子で、前回の神機繰手の名だ。


「やはり、そうなのですね。ですが」


 エルミスは続けようとして、ノックの音で遮られた。


「お入りなさい」


 ソーラの言葉に、ノックの主が躊躇いがちにドアを開ける。


「失礼します!

 カズマ殿が、勝利いたしました!」


 従者の報告にソーラとエルミスは顔を見合わせた。


 ソーラは表情を暗くし、目を伏せる。


「ありがとう。下がっても良いですよ」


 従者は頭を下げて退室した。


 扉が閉じるのを音で聞き、ソーラは小さな声でささやく。


「私は、期待しません」


 聞いたのはエルミスだけだ。


「ソーラ、あなたの気持ちは分かります。ですが」

「なら、辞めるなんて言わないで」


 ソーラはエルミスの言葉を遮る。


「ソーラ」


 名を呼ぶだけで、エルミスはカップを置いた。


「分かってます。だけど、あなたまで私を置いていくなんて、嫌」


 エルミスはため息を一つして、


「仕方ないですね。

 あまり、お役に立てるとは思いませんが」

「それでもいいの。

 だから、あなただけは……」


 ソーラもエルミスも、互いに目線を反らして、目を閉じた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ