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10 セコンダリア~海から現れるもの


 膝を着いたアテルスペスのハッチにしがみつきながら、一真はゆっくりと息を整える。

 地面はぬかるみ、アテルスペスも膝に泥が跳ねてしまっていた。

 腰のところが乾いて塩の結晶がこびりついてるのも見える。

 ここまで水は多かったのだ。


「あぁ……しんどかった」


 水がすっかり引くまでかなりの時間が経っている。

 一真の体感で2時間といったところか。

 ゆっくり呼吸しながら一真がハッチから下を見ると、ディマオがいる。


 ディマオは屈んで地面に手を付けて何かをしているところだ。


「どうだー!?」


 一真は下に向けて大声で聞いてみた。


 下にいるディマオは声に気付くと立ち上がり、振り返って一真を見上げる。


「大丈夫だ! 除塩出来ている!」


 一真は安堵のため息をして、「よかったな!」と返した。


「ああ!!」


 嬉しそうにディマオは一真に向けて腕を大きく広げる。


 ディマオの声に、一真は周囲を見渡した。

 一面の茶色い大地が広がっていてる。

 地平線まで、には遠いが、人が一人で行うよりは遙かに広いのだろう。


「流れる方向を調整するよう、言っておかないとな」


 一真は小声で呟いた。

 独り言だ。

 今はディマオを喜ばせるままにしておきたい。


 ただ流され掛けたグランサビオを掴んでいたアテルスペスが膝を着いている。

 なのにグランサビオは直立して汚れ一つない。

 一真はそこが少し腑に落ちないのだ。


 複雑な気分を抱えながらも、一真は口を閉じた。

 今はディマオの喜びように水を差したくない。


 一真はアテルスペスのハッチに手を掛けら飛び降りる。

 泥が跳ねなかった。

 既に水がはけかけて、湿った土があるだけだ。

 踏みしめる度に柔らかく形を変えるが、沈むことはなかった。

 日も照っているし、しばらくすれば乾くだろう。


 塩のなくなった大地を眺めるディマオに一真は後ろから近づいた。


「お疲れ。土の様子はどうだ?」


 気付いたディマオは振り返り、両腕を広げて一真に示す。


「想定以上に広い範囲の除塩ができた!」


 喜色満面の笑みのディマオは腕を降ろすと、腕を組んで一真に背を向けた。 


「無論、これだけでは植物は戻らん。畑にもならん。少しずつ土を改良していかなくては。それでももう、塩はない!」

「そうだな」


 一真は軽く簡単に返し、少しだけ憂鬱になった。

 水に流されそうになったこともそうだが、魔力を無理矢理吸われるのが辛い。


「次やるときはもうちょっと加減してくれよ」

「ああ、分かってる。流されないよう位置と流す方向はしっかりと選定するさ。

 だが見てくれカズマ、この大地を!」

「ああ。塩っぽいのはなくなっているな」


 もうここは白銀の砂漠ではないのだ。


「魔法で調べたさ。かなり深いところまで塩分はなくなっている。

 次はもっと広くできるんだろう?」

「そりゃな。増えるから」


 魔力を扱う神機はアテルスペスとグランサビオだけではない。

 同型機のアルブスペスもそうだし、他にもいるかもしれない。

 戦っていない神機は分からないが、可能性はあるのだ。


 人里や神機が流れないよう注意は必要だが、次はより広範囲の除塩ができる。


「なぁカズマ」

「なんだ?」

「反逆、手伝わせて貰う。早く終わらせて、白い土地をすべてなくしたい」

「ああ。そうだな」


 一真はディマオの正面に回り込んで、右手を差し出した。

 ディマオは微笑み、頷いて一真の右手を握る。


「よろしく、ディマオ」

「こちらこそ」


 一真とディマオは右手を離した。


 

 グオオオオォォォォォンッ……!

 


 何かとてつもない吠え声が辺りに響く。

 一真とディマオは周囲を見渡し、直ぐに音の元を見つけた。


 遠く離れた海の方向だ。

 太陽の光をきらきら反射する、何か白い物が動いていた。

 距離があるのにしっかりと形が分かるほど、大きい。


 一真の知識で一番形が近い物が一つある。

 それは、ドラゴンだ。

 巨大な体躯と翼を持ち、太い脚で大地を踏みしめ、硬い鱗で身を覆う。

 そんなドラゴンに、海から上がってきた何かは似ていた。


「なあカズマ」


 ぽつりと、ディマオが一真に声を掛ける。


「なに?」


 一真は視線をドラゴンに向けたまま返事をした。


「あれが何か分かるか?」


 ディマオは一真に問う。


「いやいやいやいや知らん知らん知らん。お前が知らんなら知らんよ!?」


 一真は首を横に何度も振って答えた。

 ディマオが知っている物とばかり思っていたことも、驚愕に拍車を掛ける。


「そうか」

「ディマオは分かるか?」

「分からん……」


 二人は少しの間無為な時間を過ごした。


「光った?」


 一真が遠目にドラゴンの様子を伺っていると、ドラゴンの内側から光があふれ出す。

 やがでドラゴンが身をもだえながら大きな顎を下に向けると、光を吐き出した。


 地面に光が当たると、そこから白い何かがドラゴンの周りに広がる。


「あ、あれは一体何だ!? 何をしている!?」


 ディマオが走り出した。


「うわ待て!」


 一真はディマオを追いかけ、腕を掴んで引き留めた。

 ディマオの走りが遅くて助かったと一真は内心安堵する。


「なにをするカズマ!」

「いやこっちの台詞だ。何をしに行く気だ?」

「あれを止めないといけない。

 何をしているか分からんが、このまま放置してはいけない、気がする」


 ディマオの焦燥に、一真は迷った。

 放置してはいけない気がするのは一真も同じだ。

 だが正体も分からず、闇雲に近づくのは危険だろう。

 アレに近づけばどうなるか待ったくの不明でもある。


「分かった。止めるのは賛成だ。だが、このまま行くのは反対だ」

「だが!」


 ディマオが慌てて口を挟むので、一真は声を大きくするしかない。


「だから神機に乗っていこうって!」


 怒鳴りにも近い一真の言葉に、ディマオは力を抜く。


「あっ」


 今思い出したのか、一真は少し呆れ、ディマオの腕を離した。


「とにかく、アレを止めに行くぞ」


 一真は振り返り、アテルスペスに走る。

 アテルスペスに乗り込み、ドラゴンを見やると、白くなった地面が更に広がっていた。


「まさかとは思うが、塩、じゃないよな」

「可能性はある」


 一真が推測を口にすると、ディマオが肯定する。


「神の奇跡が歪みを生み、歪みが塩をセコンダリアに広げているなら、だ。

 急激に塩を排除したことで更に歪みが力を強めた、かもしれない」

「なんて?」


 ディマオの声は震えていた。

 だがグランサビオに乗ったディマオの表情は一真には分からない。

 ディマオが語る推測に一真は驚愕を隠せない。


「それじゃ、なんだ。あれを止めても次が来るのか?」

「可能性はある。だが、今はとにかく止めない選択肢はない!」


 グランサビオが走り出す。

 海までは距離があるが、神機なら走ればすぐだ。

 一真も少し遅れて走り出す。


「策は!?」

「ない!!」


 走りながら一真がディマオに訊ねると、一蹴された。


「どういう攻撃をするか分からない。ある程度離れて魔法で攻撃するしかない」


 続いての補足に、一真は頷くしかない。

 ドラゴンぽい見た目で地面を白い何かで覆うブレスをする。

 あと神機より大きい。

 これだけしか分かってないのだ。

 危険かもしれないが、ぶつかって考えるしかない。


 近づくにつれ、ドラゴンは見上げるほどの大きさになる。

 その異様も更に増した。

 向こう側が透けそうなほど白く綺麗な結晶が、ドラゴンの形をなして動いているのだ。

 足下にブレスを吐いて大地を白くすると、少し動いてまたブレスを吐く。


 白いものの正体は分からない。

 塩だとしたら、苦労は水の泡だ。

 そうでなくても、放置して人里で暴れられたら被害は大きくなる。


 魔法が届く場所に二機は到達した。

 ドラゴンは浜から上がり、陸に上がってきてブレスを吐いている。

 巨大さ故か、ブレスによる白化の範囲も広い。

 アテルスペスとグランサビオの一歩先までブレスによる白が迫っていた。


「やはり塩、のようだ」


 探査魔法を使ったのか、ディマオが白い物の正体を断定する。


「なら、直ぐにでも止めないとな」


 頷き、一真はアテルスペスの腕を正面のドラゴンに向けた。


「「《はぜるひのや》!」」


 アテルスペスとグランサビオが同時に魔法の火を放つ。

 魔法は何事もなくドラゴンの体表に着弾し、爆発した。


「効いてないな」


 ディマオの言うとおりだ。

 一真とディマオが放った魔法はドラゴンに焦げ目すら付けていない。


「ディマオので無理なら、俺はこの距離では有効打がなさそうだ」


 一真は首を振って構え直す。

 単一の魔法で無理なら、魔法拳によって直接たたき込めばいい。

 単純なことだ。


 ディマオは頷くと、グランサビオの腕に着いたローラを回す。


「なら私は炎以外を――」


 次の魔法を用意していたディマオはドラゴンに顔を向けられ、行動を中断した。


「くッ! 《ちらすかべ》ッ!」「《ちらすかべ》!」


 代わってとっさに防御障壁を展開し、遅れて一真も同じ魔法を使う。

 直後アテルスペスとグランサビオにドラゴンからのブレスが噴き付けられた。


「ぐ、うっ、わああああああ!!」


 障壁によって減ぜられてもなお勢いのある光線に見えるブレスがアテルスペスを襲う。


 一真は体正面にものすごい熱さと痛みを感じ、耐えるしかできない。

 魔術を解けばドラゴンのブレスをそのまま浴びてしまうからだ。


「ああああああああああ!!」

「カズマ!?」


 ディマオがカズマの様子に声を掛けるが、ディマオも動けない。

 グランサビオにブレスは届いていないが、魔法を解けばやられてしまうのは同じだ。


 叫んで痛みを堪え、どれほど経ったか。

 実時間にすれば短いだろうが、一真にとっては永遠に等しい時間、ブレスは続いた。


 ドラゴンがブレスをやめ、光線が収まる。


 光が収まったとき、アテルスペスの前面には白い結晶がびっしりとこびりついていた。


「があああああ!!」


 一真は堪らず地面に転がり出す。

 熱い何かがアテルスペスに吹き付けられたのだ。

 刺さるような酷い痛みと、熱。

 その二つが一真に苦痛を与えていた。


「カズマ! くっ! 神機と感覚を共有しているのか。ならば!

 《はばむかべ・ふたえ》!!」


 ディマオはドラゴンの正面に二重の魔術障壁を貼る。


 ドラゴンが正面に現れた透明な壁に腕を振り上げ、たたきつけた。


「よし、一旦退く。《たけきつよきしし》」


 ディマオはグランサビオにアテルスペスを抱えさせ、ドラゴンに背を向ける。

 肉体強化により自身を強化し、自身の運動能力を上げたのだ。


 体勢を立て直すべく、ディマオは走り出した。

 

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