表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
11/115

08 神機授与の儀


「陛下!?」


 王の姿を認めた一真はすぐに跪いて頭を下げる。

 ソーラに習った礼儀だ。


「よい」


 次いで挨拶の言葉を続けようとした一真に、王は一言で止めた。


「ここでは俗世の身分など意味がないのだよ。面を上げよ」


 言われても行動に移せず尻込みするカズマに、ソーラが声を投げかける。


「カズマさん、神域では身分差による振る舞いは許されていないのです。

 ですから立ち上がって下さいな。

 皆もそうしていますよ」


 一真が顔を上げると、王以外の人々も目に入った。

 衛兵や侍従たちがいつもの服装で、王の後ろにいる。

 整列もしていない。

 ただ無秩序にばらばらにそこにいるだけだ。


「ここでは神官かそれ以外かの違いしかない。

 神官として敬意は受けるがね。

 王に対する態度は、逆に失礼なのだよ」


 王のその言葉に、迷いながらも一真は立ち上がる。


「しかし、ソーラよ。彼に何も説明していないのかね」


 王の言葉に、ソーラは顔を背けた。


「私は」

「いや、いい」


 王はソーラの言葉を止めて、首を大きく横に振る。


「すまない。私の考えが足らなかった」

「そんなことは」

「問答している時ではない」


 王は会話を打ち切り、神域の奥に体を向けた。


「早々に授与の儀をすませてしまおう。

 期待も、失望も、それからでよい」


 杖を握りしめて体を震わせるソーラを置いて、王は奥に向け歩いて行く。


 一真が声を掛けようとすると、ソーラは一真にいつもの微笑みを見せた。


「さ、行きましょうカズマさん」


 ソーラが神域に向けて歩き出す。

 一真も追って神域に入った。


 同時、一真は光に包まれる。


 神域は広く、天井も高く、そして両側が真っ直ぐな柱が等間隔で並ぶだけだ。

 採光を遮る物はない。にも関わらず、外の風景は見えず、太陽光も入ってこない。

 柱の向こうは真っ白に光り輝いている。


 それだけではない。


 空気、いや空間そのものが発光しているかのように、一真には思えた。


 そして、真っ直ぐ正面。

 奥に向け神域が無限に続くかのように、遙か遠くに向かって続いていた。


「ここが神域……」


 思わずの、誰にも伝わらない独り言だ。

 だが一真の呟きは、何かに響くように残った。


「神にもっとも近づける場所。

 そして、ここで神と交流をすることができる、その国で唯一の存在、それが王です」


 見知った侍女が横から抑えた声で一真に言う。

 彼女の言葉もエコーを残して消えていった。


「こういう場所です。

 授与が終わるまであまり声を出さぬよう」


 ひそり、と補足をしてその侍女は離れていく。

 人の多さに比べ、歓談雑談会話が聞こえないのは、誰もが言葉を慎んでいるのだ。


 一真は場にいる人々をぐるりと見渡した。

 顔見知りも、そうでないものも。

 それぞれが不安そうだったり、期待に満ちあふれていたり。

 好き勝手に神域の奥を見つめている。


 一真は人々の中にエルミスも見つけた。

 彼女は一人離れたところでミトンをした手を胸に抱え、いつもの表情で奥を見ている。

 いや違う。

 歯を食いしばり、睨み付けるように王の向こうを見ていた。


 他にも様々な人が思い思いの表情をしていた。


「では始めよう」


 王が体をこちらに向け、首を巡らす。


「我が国は危機的状況にあり、可能ならば強い神機を授かりたいところだが……」


 王が体を神域の奥に向けた。


「こればかりは神の思し召し。

 何が来ても悔やむことなく、事を為そう」


 言いながら、王は両腕を広げ、手のひらを上に向ける。

 すると王の正面に光が集まっていくように、何かが起こりはじめた。

 どういう現象か、一真には分からないが、光が集まるように光が強くなっていく。

 そこ以外の空間全てがそれに同調するように光量を落とした。

 強く眩しく光る何かがあるのに、神域は暗く闇の帳を降ろしたようになっていく。

 柱間の向こうにみえる光る風景も真っ暗な闇だ。


 王の正面に集まった光があるとき急に小さくなり、爆発するように辺り一面に広がった。

 あまりの眩しさに一真は目を閉じる。

 だが強い光を見たあとのような痛みはない。


 不思議に思った一真はゆっくりと目を開ける。

 通常強い光を見た後に残る残像はなかった。

 普通に見える。


 周囲は王の正面に光が集まっていく前と同じように、空間そのものが光に満ちていた。

 柱の向こうも同じ。


「あれは」


 光が集まっていた場所。

 そこに、黒い大きな何かがあった。


 まず一真が気付いたのは顔だ。

 二つ並んだ目らしき部位は黄色いガラス質な窓のようだ。瞳のような模様も見える。

 目の下、顔の下半分はマスクのような黒い何かに覆われていた。

 顔の上からは二股の帽子のような角が突き出ている。


 顔を認識すれば、あとはそれが巨大な人型の何かだということを理解するのに時間は掛からなかった。

 鎧のような、金属の装甲を身に纏った巨大な黒い人型。

 腰にマントのような何かを纏い、手首から先だけが白く人の手にも似てつるりとしている。


「ロボット……?」


 一真の呟きは神域に反響した。

 だがそれをかき消すように、皆のため息が神域を満たした。


「神機です。

 神より賜った、戦うための鎧です」


 顔見知りの侍女が横から一真に言う。

 これが神機授与の儀式というか、と一真は理解した。


「ですが……無手ですか」


 侍女の呟きが響き渡る。

 と、それに呼応するようにすすり泣きや、落胆の嘆きがそこかしこから響いてきた。


「皆よ、そう落胆するものではない」


 その場に集まった全員に向き直り、王は言う。

 王の表情も、心なしか残念そうに、一真には見えた。


「過去には無手でも強力な神機はあったと聞く」


 王の励ますような言葉にもかかわらず、何人かが神域を出て行く。


 すすり泣く侍女、気むずかしい顔の侍従、見るからに落ち込んだ衛兵。


 そしてソーラも、神機に背を向け杖を荒々しく突いた。

 立ち去ろうとしたのかよろめき、近くにいた侍女に支えられた。


「ソーラ姫」

「来ないで下さい」


 一真が名を呼ぶと、ソーラは顔を向けないままに拒む。


「殿方に今の顔を見られたくありません」


 それだけ言うと、ソーラは侍女に支えられて歩き出した。


 ソーラに向け挙げた手のやりどころを無くした一真。

 そのまま手を下ろし、黒い神機に振り返った。


 ふと。

 一真が気付くと神域の様子は変わっている。


「え!?」


 気付いた一真が声を上げた。


 神域が神域でなくなっていたのだ。


 建物こそは同じなのだろう。

 だが周囲を満たす光はなくなっていた。

 柱の向こうに見える景色も宮殿の周りにある森や山の風景になっている。

 奥は黒い神機の向こうに無限に続くかと思っていた神域が途切れ、屋外に続いていた。


「なんだって?」


 声も、反響しない。


 ここは確かに先ほどまでいたのと同じ神域だ。

 そのはずだ。

 何らかの超常の力だろうか。


 一真には判断が付かなかった。


 不思議に思いながらも一真は神機を見ると、神機が動き出す。

 立っていた神機がゆっくりと動き、跪いた。


 一真が見続けていると、神機の胸の辺りが開く。

 ますます一真が子供の頃にみたロボットみたいだった。

 戦うための鎧、とは先ほど侍女には聞いた。

 だが大きさを考えるに着込むより、乗り込むと言った方が正しいだろう。

 そう一真は考えた。


 やがて胸の開口部にローブを着た男が入り、中から紙の束を持って出てくる。


「説明書か?」


 ふと思ったことを一真は呟いた。


 紙束を持った男はぱらぱらと中を見ると、首を振りながら天を仰ぐようにした。


 王は紙束を受け取り、表紙を見ると、一真の方を見る。


「カズマくん」

「は、はいっ」


 突然の名指しに、カズマは慌てて返事をした。


「こちらに来てくれないかね」


 カズマは早歩きで王に近づく。

 王は近寄るカズマに紙束を差し出した。


「どうやら我らが神は君をご指名らしい」

「お、いや私ですか?」


 カズマがどもりながら表紙を見る。

 そこには学んだばかりの文字と、見慣れた文字が書かれていた。

 その内容は、これも見慣れた文字列。


 即ち、日本語とゼクセリアの言葉で「金城 一真」、彼自身の名だった。


「これは」

「たまにあるのだよ。

 神から神機に乗る者を指名されていることが。

 かく言う私も、20年ほど前に指名で神前戦儀に参加したよ。

 まあ、上には行けなかったがね」


 王は目を閉じて中空に顔を向ける。


「あれは良い経験だった。

 ほら。受け取りなさい」

「は、はぁ」


 一真は困惑しながら紙束を受け取った。


「それで、この神機、というのは一体何なんですか?」

「ああ、説明せねばな。とはいえ、どこから言ったものか」


 王は腕を組み、目を閉じて首をぐるりと回し、目を開ける。


「簡単に言うとだな。

 神に願いを叶えて貰うために、国同士が代表を出して戦い合う儀式、なのだよ」


やっとロボが出せました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ