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07 セコンダリア~ディマオの理由


 ディマオの研究所に入ってすぐの広間になったフロアは、片付いていなかった。


「片付いてないのは恥ずかしいが、客を通せるの部屋がここくらいでね。

 少し待っててくれないか?

 テーブルの周りを片付ける」


 部屋の真ん中には大きな、ベッドに出来そうなほどのテーブルが鎮座している。

 テーブルの上には持つのに苦労しそうなサイズの本や、スクロールが幾つも載っていた。


 古い物から新しい物まで様々だ。


 部屋の隅に目をやれば、鉢やプランター等の栽培地が並び、土が中に入れられている。

 土に乗せられた粒は塩だろうか。

 それらの脇には麻袋が何個も積まれ、タグ付けされている。

 壁は書棚や棚が並び、一角にはキッチンのような設備もあった。


 明かり取りであろう天窓からは太陽光がさんさんと降り注いでいる。

 だが書棚やテーブルの上には板が吊られ、日光を遮っていた。

 日光が直接あたらないような工夫だろうか。

 一真はディマオがテーブルの上から本を退かしているの眺めながら、思った。


 ディマオは本を書棚近くのローテーブルに置き、スクロールを棚にしまっている。

 量があるから、もう少しかかりそうだ。


「おっと、適当な椅子にでも座っていてくれたまえ。お茶も入れなくてはな」


 ディマオが運ぶのは大きく重い本だ。

 一冊ずつ抱えなくては運べない。

 この世界の魔術書にありがちなサイズである。

 一真も、一時期同じようなサイズの本を使って魔術を習得したものだ。

 最も、初心者向けの小さい本が主であったが。


 一真とセレンは言われたとおり、テーブルに近い椅子に座った。

 テーブルには大きな椅子が一つと小さい椅子がいくつか、周囲に並んでいる。

 テーブルに並べた本やスクロールの、気になったところの正面に座るため、だろう。


 二人が座ったのは入ってきた扉から近い、脚と座面だけの小さい椅子だ。

 小さいが座面は固めのクッションになっており、座り心地は悪くない。


 しばらく待つと、テーブルの上はすっかり片付いた。

 ディマオはキッチン台でお湯を沸かし、ポットに入れる。

 ポットとティーセットをお盆に載せ、運んできた。


「庭で採れたハーブティーだ。いずれセコンダリア中で飲まれるものになる」


 ディマオがテーブルに置いたカップにポットの中身を注ぎながら言う。

 カップにお湯が満ちるにつれ、湯気と共に豊かな香りが漂いだした。

 甘く、ふわりとした香りだ。

 お湯の色は薄く、青みがかっている。


「気分が落ち着く。私もよく飲んでいる。

 はは、この香りはもしかしたらこれからする話にはそぐわないかも知れないな」


 注ぎ終わったカップをディマオはセレンと一真の前に差し出した。

 自分でも一口啜りながら、二人から近い椅子に座る。


「うん。いい味だ」


 一真はディマオに倣い、カップからハーブティーを啜った。

 口の中で甘い香りが広がり、ふわりと鼻腔を抜けていく。

 舌にちょっと渋みを残し喉を通り抜けた。

 残り香が舌に甘みを伝え、一呼吸で消える。


「おお……」

「これは、美味いな」


 一真が感嘆のため息をして、セレンが賞賛した。


「はは、それはよかった。おそらく文献にあったシシル、というハーブだと思う。

 種が残っていて、育ててみたら特徴がよく似ていた」


 ディマオが嬉しそうに笑い、目を閉じてハーブティーを飲む。

 一真も倣い、静かな時が流れた。


「さて」


 一真とディマオより速いペースでハーブティーを飲んでいたセレンが切り出す。


「協力を拒んだ理由を聞こうか」


 セレンの口調は堅く、うつむきがちに、ディマオを睨むように目尻が上がっていた。

 テーブルに肘をついて汲んだ両手で口元を隠すようにしている。


「もちろん構わない」


 対してディマオは余裕たっぷりの柔和な表情だ。

 微笑みすら浮かべている。

 ディマオはカップをテーブルに置き、セレンと一真に向け、右手の指を立てて見せた。


「理由は二つある」

「二つ?」

「ああそうだ」


 一真の聞き返しに頷いて、ディマオは立てた指を戻して腕を組む。


「まず一つ目は、私が行く必要がないからだ。

 セコンダリアの協力というなら、私以外でも問題ないだろう?」

「え?」

「いや、それは違うだろう」


 言っている意味が分からず声を漏らした一真と違い、セレンは直ぐに言い返した。


「神機と奏者の派遣。これは絶対だ」


 神域の島に十二カ国の神機を派遣する。

 これが反逆の概要だ。


 戦力はあったほうがいい。何が待っているか分からないからだ。

 人員は少なく、出来れば優れた者が良い。何が起こるか分からないからだ。


 だから、12の神機と奏者、そして何人かのサポートメンバー。

 以上が神に歯向かうメンツとして必須である。


「ああ、知っている」


 セレンの言ったことに、ディマオは頷いた。


「だがそれでも、私が行く必要はない。グランサビオは誰でも乗れるからだ」

「なんだと!?」


 大声でセレンは驚き立ち上がる。

 一真も遅れて意味を理解し、目を見開いた。


「え、嘘、だろ!?」

「本当だ。グランサビオは奏者を指定されていない」

「あれだけあつらえたように使いこなしておいて、非指定、だと!?」


 セレンはディマオをにらみ続け、気が抜けたのかに椅子に落ちるように座った。


 神機は大別して2種類ある。

 即ち、神から与えられた時に奏者が指定されているか否かだ。


 アテルスペスは一真を指定していた。

 だから一真が乗っているのだ。

 おそらくレイギとアルブスペスもそうだろうと一真は思っている。

 他の神機ではハルファスもヘマを指定していた。

 だから貴族に買われたスラム出のヘマが奏者になれたのだ。


 一方、指定していないタイプではニーネのライト・グリフィンが該当する。

 一真はアジャンと雑談したときに聞き出していた。

 志願者全員が一通り乗って、適性があると思われる者が選ばれたという。


 つまり、ディマオは実力で奏者の座を勝ち取り、戦儀に挑んだのだ。


「それは、すごいな」


 一真は心の底から思った。

 志願者が何人いたかは分からないが、それらの中からただ一人、選ばれたのだから。


「はは、実のところ、魔法力がある程度ないと動かすだけで精一杯らしい。

 だから動かした上で魔法をいくつも使って戦うとなると、途端に候補が少なくなる。

 私以外だと、4人ほどだったか?

 だからまぁ、私の次に使いこなしたバニンテという女性に頼めば問題ないだろうよ」

「う、それは」


 それでもいいのでは、と一真は思いかけ、頭を横に振る。

 ディマオ以外では、だめだ。


「ダメだ」


 まっすぐと、一真は言い放つ。


「他の奴じゃ、ダメなんだ」

「何故だ?」


 セレンが不思議そうに首を傾げながら聞き返してきた。


「俺と戦ったのが、ディマオ、君だからだ」


 きょとん、とでも聞こえてきそうなほど、ディマオの表情が抜ける。

 瞬き数回の後、ディマオの頬が少し赤らんだ。


「そ、そうか。それはまぁ、嬉しいが」

「よし、一真、もっと押せ! いけるぞ!」


 照れるディマオを横に、セレンが小声でささやく。

 呆れながら一にらみで一真はセレンのささやきをスルーした。


「それに! だな」


 ディマオが照れを振り払うように声を大きくして言う。


「私にはもう一つの方が大事だ。理由がある!」


 腕を組み胸を張っての宣言だ。


「その理由とは――」

「研究か」


 先んじてセレンが言い、ディマオは口をぱくぱくと開け閉めした。


「うん。まぁ、そうなんだが」


 ディマオはそれから歯切れが悪い言葉を出して口を閉じる。

 それから膝に手をついて体が少し小さく見えるように縮こまった。


「セレン、ちょっと今のは」


 一真はあんまりなセレンを半目で睨む。


「焦れったくて、つい」


 後ろ頭をかきながら、罰の悪そうな顔でセレンは目を逸らした。


「ともかく、除塩の研究を続けたいんだ」


 ため息を一つして、気を取り直したディマオが言う。


「神に反逆したところで、塩が直ぐになくなるとは思えないからな」


 そう言って、ディマオは寂しそうに微笑んだ。

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