04 セコンダリア~塩原の不機嫌な王
セコンダリアの王城は、よく見えなかった。
おそらく荘厳で、尖塔もあって、そびえ立つ立派なお城、だと一真は思う。
が、全貌が見えなくては、分からない。
城の前に、庁舎が建っていたのだ。
それこそ城のように立派で、白い外壁が優美な庁舎が、である。
「この庁舎が政治の場だ。俺の職場でもある」
キンシィが庁舎の前で言った。
「庁舎が城を隠すように建てられている理由はあるらしいが、俺は教えて貰ってない」
「どういうことだ……」
一真は疑問でいっぱいになりながらも、キンシィとセレンの後ろをついて行くことしか出来ない。
庁舎の中に入り、エントランスをそのまままっすぐ通り抜ける。
様々な役所に案内されるであろう受付の前を通り過ぎて、建物の反対側に。
黒い石のタイルを並べたような床は足音がよく響いた。
庁舎内を通り抜ける間、多くの人がエントランスを横切り、ドアから別のドアに入る。
人の気配が絶えることはなかった。
「いつ来ても不思議だ」
しみじみとセレンが言う。
「態々庁舎が王城の前に建っているのも不思議だ。
だが、通り抜けなければならないのがとても不思議だ」
「え、知らないのか?」
一真は驚き、反射的に訊ねた。
セレンがこの建物に来たのは2回目のはずだからだ。
協力を取り付けたときに来ているはずなのだ。
「いや、聞こうとは思っていたんだが」
「大の大人二人に泣きながら喜ばれたんだ。
何か聞こうという気にはならなかったんだろう?」
セレンが答える前にキンシィが疑問形で言った。
「まぁ、そうなんだが」
「泣いて? 喜ばれ? どういう?」
通じ合うセレンとキンシィの二人とは違い、一真は腑に落ちない。
「いや、我が国はこんなだろ?
呪いが一気に消えるアテが奇跡以外に出来た、というのは俺より上の世代には泣くほどのことらしい」
「キンシィはどうなんだ?」
自分も不思議だという顔で言うので、一真はキンシィはどうなのかと訊ねた。
「カズマに見せたとおり、人が暮らせる程度にはなってきているからな。
ただ親父と王はセコンダリアに緑が多かった時期を知っている世代なんだ」
そう3人は話しながら歩き、セコンダリア庁舎を通り抜る。
庁舎の開け放たれたドアを出ると、広大なホールが見えた。
神機も通れそうなほど巨大なドアが開け放たれ、内部が見えるようになっているのだ。
「おぉ……」
一真は感嘆のため息を吐く。
王城のエントランスホールは畏怖すら感じそうなほど、荘厳だった。
天井は高く、奥に行くにつれ太く白い柱が等間隔で立ち並んでいる。
床は大理石を切ってタイルにしたような物が並べられていた。
タイルの配置は幾何学的な模様で、目を飽きさせない。
灯りはない。
だがそれでも明るく見えるのだ。
理由は明白である。
左右の壁に配されたステンドグラスが色とりどりの光を差し込ませていた。
庁舎内部が明かりを抑えていただけに、色ガラスを通した光がより神秘性を高めている。
「すごい」
「どうも、ありがとう」
口から感動を溢すように一真が出した言葉に、誰かが声を掛けた。
正面、城の奥、七色の光に紛れて一真には見えにくかったが、誰かがいる。
それも二人だ。
「父上! 何故ここに」
キンシィが声を張り上げた。
正面の二人のうち、一人は玉座に座っており、もう一人は傍らに立っている。
王城に入って直ぐが玉座のある謁見の間ということに、一真は不思議な印象を抱いた。
「政治に関わることだ私がいなくてどうする」
キンシィに対する返事は、先ほど一真に礼を言った声とは違う声だ。
立っている方が、キンシィの父、なのだろうと一真はアタリを付ける。
遠目ではあるが、がたいの良さがキンシィによく似ているように見えた。
反対に玉座の男はかなりの痩せ型、に見える。
「セレン王子、久方ぶりだな」
「入り口近くでは話しにくいでしょう。さ、こちらに来てください」
キンシィの父に続いて、玉座に座る男が立ち上がりながら言った。
薄手のローブが揺れ、裾が玉座から流れ落ちる。
セコンダリアの王は、細くてなで肩で、線の薄い印象を一真は受けた。
「いくぞ」
セレンは短く言うと、一真の前を奥に向けて歩き出す。
一真は一呼吸置いて、歩いてセレンの背を追った。
更にキンシィが一真の後をついてくる。
一真が謁見の間をあちこち見ながら歩くと、直ぐに奥の王たちの前に着いた。
「お久しぶりです、セレン王子。そして初めましてゼクセリアの奏者」
王の声はとても優しく、慈愛に満ちた口調だ。
だが一真にはどこかとげとげしく、焦っているように聞こえた。
一真は頭を下げてから名乗る。
「初めまして。金城一真です」
頭を上げると、セコンダリアの王が仮面のような堅い笑みを一真に向けていた。
「ああ、初めまして。こちらはセコンダリア王トゥーワ陛下。
そして私は大公家当主、ではあるがここには政治代理長という立場でいる。
セージック・ディマドゥス。
キンシィとディマオの父、と言った方が君には分かりやすいか」
厳つい顔をしたキンシィの父は、柔和な笑顔を浮かべ、余裕を持った口調で言う。
「お久しぶりです」
一拍おいてセレンが言い、丁寧で優雅な一礼をした。
「再びお時間を取って頂いてありがとうございます。
前回の会談では良い返事をいただけましたが、セコンダリア王につきましてはお変わりないようですね。
ディマドゥス閣下も、変わらずご壮健なようでなによりです」
「ええ、幸いに我が国は安定していますから。
セレン王子も旅が続いて大変でしょうが、前と変わらず、いえ。
前にも増して力強い印象を受けます。実に頼もしく、心強いです」
セレンのはきはきとした口上に、落ち着いた印象のセコンダリア王が返す。
柔和で優しい口調と表情なのに、一真は何故か苛ついている空気を感じた。
やはり、勝った自分を恨んでいるのかと一真は考えてしまう。
マイナスには考えない、と決意したのはつい先日のことだ。
一真は表情に出さないよう、歯を食いしばって耐える。
「早速だが」
とキンシィの父、セージックが切り出した。
「前回はこちらへの援助の対価として、奏者と神機の貸し出し、そういう条件でしたな」
この内容は一真も聞いている。
移民受け入れや食料や木材などの供与が援助の中身だ。
詳細を詰めるのにはセレンも苦労した、という話である。
「ああ、その通りだ。覚えています。ディマドゥス殿と詳細を詰めましたね。
神機による使用できない期間も含めて算出しました。
その上でかなりの好条件を提示させて頂いたはずですね」
戦儀後の神機は使い道が多彩だ。
フィーアは極端な例だが、神機によっては治水や開拓などの工事に使えるものもある。
武装を利用して人間では被害がでそうな魔獣を事前に駆除しておくこともあるのだ。
「が、難しくなった」
セレンの確認に、セージックは一言で返した。
「どういうことです?」
セレンが眉をひそめ、抑えた声で訊ねる。
セコンダリアの王が目をつむって目頭を押さえた。
歯を剥いて今にも怒り出しそうなほどだ。
表情をゆがめ、ため息を一つついてからセージックが口を開いた。
「どうもこうもない。あのバカ息子が嫌だと言い張ったのだ」
「なんだって!?」
セージックの回答に真っ先に驚きの声を上げたのはキンシィだ。
遅れて一真とセレンが「え?」と同時に声を漏らした。
「ディマオの説得、終わっていないのですか!?」
ディマオ・ディマドゥス。セコンダリアの奏者。
一真の印象では真面目で研究熱心で、優しく、そして手強い男だった。
祖国を思って一真とは全身全霊で戦いあった、はずだ。
だが。
「そうだ。ディマオが嫌だと、研究所に引きこもっている。
反逆などに参加したくない、と言い張るのだ」
ディマオに何があったんだと、一真は思わすにはいられなかった。
誤字報告ありがとうございました




