中級ダンジョン
お金が無くなった ヤバい……。
変なお姉さんのパンツを売ったお金で贅沢な食事をしていたらあっと言う間に底を尽きてしまった。
(初級ダンジョンで手に入る宝はたかが知れているな……)
「へへ♪ 旦那の事待ってたんだよ?」
そして僕は仕方なく、仕方なく中級ダンジョンの入口へとやってきた。どう言う訳か知らないけど、前回居た変なお姉さんが待ち伏せていた。ちょっと怖い。
「ささ、サクッとクリアしちゃおうよ♪」
柔やかにグイグイと僕の背中を押すお姉さん。何故楽しそうなのかは不明だ。初級ダンジョンより血の気が濃い地下への階段を降りると、そこはカビ臭く湿った空気が澱んでいた。
「はい♪」
唐突に手渡されたシルバーアックス。純銀のメッキが施された戦斧はアンデットへの浄化作用がある。因みにお値段はかなり高めだ。
「確かに前回頼んだけど、こんな高価な物は……」
「お金の話は後々! それより来たよ旦那?」
通路の奥にうっすらと見える髑髏。弓を携えカタカタと震える顎で僕に狙いを澄ませた!!
―――ゴスッ!!
僕の顔を矢が掠め後ろの石段へと突き刺さる……僕は頬を伝う血を見てそのまま意識が遠退いた―――
「あれ? 旦那、早くしないと次が来るよ?」
―――ビュュン!!
―――キンッ!
「そう急かすな」
矢をシルバーアックスで軽々と弾くと、勢い良く狙撃手へと駆ける! 矢に手をかけた狙撃手へと飛び掛かりシルバーアックスを振り下ろす!!
「二の矢は引かせねぇ!!」
―――グシャァァ!!
一撃で狙撃手である骸骨を砕き殺し、念の為弓を折る。どうせ二束三文の弓、壊れたところで差し支えは無い。
「おい女!」
「へへ、なぁに旦那?」
「今日は替えのパンツはたんまりと持ってきてるんだろうな!?」
「へへへ♪ その辺は抜かりなく……」
戦闘音を聞き付けて他の魔物が来る前にその場を立ち去る二人。中級ダンジョンは死亡率が飛び抜けて高く、慢心で引き際を間違える冒険者が跡を絶たない。それ故に遺品も多く残されており、それを目当てに潜る冒険者が増え、更に死亡率が高くなっている。
「おほほ! 遺品がいっぱいいっぱい♡」
玄室の片隅に落ちている遺品を拾い集め片っ端からリュックへと詰め込んでいくカズハ。その顔はとても楽しそうだ。
「おい女早くしろ。何やら臭うぞ……」
「あ、ごめん私かも」
と、玄室を覗き込む一つの目。
「……来やがったな」
一つ目の巨人サイクロプスがずっしりと大きい巨大を震わせながら玄室へと入り込んできた!!
「旦那!? 私犯されちゃうよ!? あんな大きいの無理だよ!!」
「いちいちウルサイ女だな……大丈夫だ」
「……なにが?」
「アイツより俺の方が大きい」
サイクロプスは右手を大きく開きカナタを鷲掴みにしようと迫る!
「おっと!」
―――ザンッ!!
カナタは大きくジャンプすると、それを躱しサイクロプスの首をシルバーアックスで盛大に刎ね飛ばした!!
「ひえっ!」
倒れたサイクロプスのクビからはドス黒い血がドロドロと流れ落ちていく…………。
「ふん! 他愛も無い……行くぞ」
「う、うん……」
カズハは倒れたサイクロプスを横目にカナタの後ろをついていく。
「……中級ダンジョンの死亡率が何故高いか、知っているか?」
「知らないけど……」
「その答えがコレだ」
「……あっ! お宝!!」
カナタが指差した先に見えたのはキラキラと輝く銀の宝箱だった。見るからに高価な物が期待できる造りをしており、カズハは宝箱の周りを犬のようにクルクルと走っている。
「旦那旦那♪」
「まあ待て」
―――コンコン
カナタは宝箱の上部を軽く指で小突いた。そして宝箱に背を向け歩き出した。
「えっ!? 開けないの!?」
「帰りに寄るぞ」
カナタはそれ以上は説明せずにダンジョンの最奥へと向かった。
無事踏破の証であるバッヂを回収し、再び銀の宝箱のあった部屋へと立ち寄った。
「―――な?」
「……うへぇ…………」
二人が目にしたのはバラバラになった冒険者達と蓋の開いた宝箱であった。宝箱から部屋の入口に向かって激しく飛び散った肉片と、むせ返るような血の臭いが凄惨な光景をより強く引き立てる。
「魔物はそこまで強くはない。しかしこのダンジョンは宝箱の罠の難易度が異様に高い。だから開けようとすると大抵は死ぬ。……コイツらの様にな」
カズハは辛うじて血で濡れていない地面を歩き、宝箱の中身を覗き込む。
「……へへ、すみませんね」
カズハは宝箱の中から金貨と兜を取り出すと、そそくさと部屋を抜け出した。
「……旦那は中級ダンジョンは初めてでしょ? どうして知ってたの……?」
カナタは遠い目をしながら背中で答えた。
「昔……オヤジが言ってたんだよ。ココの宝箱は絶対に開けるなってな……」
「ふぅん……」
カナタが握るシルバーアックスは血に塗れ、帰る頃にはその輝きは失われていた……。
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