おかえり-告白・続=終-
彼女が俺にプロポーズしてきた次の日。
俺たちは婚姻届を出しに行って、正式に結婚した。
お互いの両親にも挨拶をしに行った。
結婚式は挙げなかった。
住まいとかはすぐに確保できた。俺の貯金もだいぶあったしね。
新生活がスタートした。
これからの事を妻と話し、子供はいいから二人で幸せに暮らそうという話になった。
結婚して2年。
幸せに変わりはない。
毎日が充実している。しかし、俺たち二人には引っかかる事が一つあった。
そう、2年前に嫁がやった復讐の事だ。
いまだにバレていない。けれど、いつかバレてしまうのではないかと二人で少し怯えている。
俺はあの事件がどれだけのものだったのか知らないけど、日本の警察をなめてはいけない。
いずれは嫁と離れる時が来てしまうのだ。
しかし、事件から既に2年だ。
お蔵入りということもあり得るはずだ。
それを信じよう。
毎日毎日怯えて生きている。
捕まる恐怖に。
嫁が離れて行ってしまう恐怖に。
数か月後。
ピーンポーン。
家のチャイムが鳴る。
「はーい」
俺が玄関先まで行く。
ガチャっ
開いたドアの先にはスーツを着た男が二人立っていた。
「夜分遅くにすみません。私たちこういう者です」
そう言いながらその男たちは何かの手帳を見せてくる。
け、警察!?
ついに来てしまった。
この日が。
「奥様はご在宅ですか?少し2年前に埠頭で起きた事件についてお話を聞きたいのですが・・・」
「今呼んできます」
俺は従うしかなかった。
警察に抵抗なんてしても意味はない。
そして嫁を呼んだ。
「木下春さん。貴女に逮捕状が出ています」
そう言って、一枚の書類を見せる刑事。
春は少しも動揺することなく、刑事の方へ行こうとする。
「春!」
俺はそれを止めようと叫ぶ。
その声を聞いて、春は振り返り、こう言った。
「元君、行ってきます。待っててね」
春は笑顔だった。
「分かった。待ってる。行ってらっしゃい」
俺はそう返した。
お互いに笑顔で。
そして春は逮捕された。
何年になるのだろうか。
何年でも待ってやる。帰る場所を作ってやる。
ニュースで逮捕の事が流れた。
懲役10年。
とてつもない数字だ。
いいだろう、待ってみせよう。
__
久しぶりの街の景色。
やはりいろいろなものが変わっていた。
私の知っていた時よりビルは増えて、馴染みの場所は無くなっていた。
私の知る街ではなかった。
でも、ひとつ確かなものがあった。
彼は服役中に一度も面会には来てくれなかったけど。
きっと待ってくれている。
私の最愛の人が。
私は走った。
あの場所へ。
走って、走って。
私たちの家に。
玄関の前に誰かいる・・・。
人影があった。
私は立ち止った。
「元・・・君」
そこにいたのは元君だった。
私の知っていた元君とは少し違っていた。
髭を伸ばし、目の下に少しばかりの小さなシワがあった。
元君はこっちを見て笑顔で、「おかえり、春」
私の涙腺は緩んだ。 涙が溢れ出た。 十年分の涙が。
「ただいま、元」
泣きながらそう言うと。
「おいで、春」
私は元君に抱きついた。
本当にただいま。
あとがき
どうも厭砅奏です。 短編としての告白シリーズはここまでですが、気分が向いたら続編書くかもしれません。 だから完結にはしておりません。 これからもよろしくお願いします。