何故・・・。-告白2-
あの彼女の飛び降りがあって3年。
俺はもう成人したし、仕事も毎日頑張っている。
当時の事はその時は思い出したくもないくらいだったのに、今となってはあんまりそうとは思わなくなっていた。
当時はまだ子供だったし、ましてや初恋だったし。
まだまだあの頃は自分も未熟者だった。
今、好きな人はいますか?と聞かれたら。いる、と答えるだろう。
何故だろう、今になって彼女のことが好きになった。
彼女に何があって、あんなことをしようと思ったのか今となっては分からないけれど。もう会うことはできないけれど。もし、もう一度会えたのならちゃんと話を聞いて支えになってやろうと思っている。
俺はあの一件以降、変われたと思う。だから、お礼を言いたい。
だが、もう彼女はこの世にいない。
あの一件の後日に行われた葬式には出なかったし、1週間くらい不登校になっていた。
なぜそこから復帰できたのか今ではもう覚えていない。
しかし、あの日から今日まで脳裏に焼き付いた言葉が一つあった。
バカヤロウ
という言葉だ。
あの言葉は本当に印象的だった。
普段の彼女なら絶対に言わないであろう言葉だ。
きっと、あの時は精神が本当に病んでいたのだろう。
ま、思い出に浸るのはここまでにしておいて。
今日は、彼女の命日。
今日で三回忌。
あの頃は死ぬほど憎んでいたのに、今では毎年墓参りに行っている。
不思議なものだ。
そんなことを思いながら俺は電車に乗りある場所へ向かう。
俺の家から約2時間。
ガタガタと揺れる電車にも今ではだいぶ慣れた。
2時間後。ついた場所は我が母校。
彼女の墓はない。
墓を作ってしまうと終止符が打たれた感じがして嫌だったから、学校の屋上を墓代わりにしている。
俺は昇降口から学校に入り、事情を先生に説明し、歩を進める。
ゆっくりと階段を上る。
屋上が近づくにつれ、一段一段、力強く。
この学校は五階建てなので屋上まで行くのに時間がかかる。
3年前はこの長い階段を毎日上って、彼女と屋上で弁当を食べたものだ。
あの頃は全く苦だとは思っていなかった。が、今になってこの苦しさを知る。
階段を上る苦しさもあるが、一番大きいのは自分の心への苦しみである。
あの時、俺は止められたのではないだろうか。
何故、止めなかった?
彼女の意思が強かったからか?
違うだろう。お前が臆病なだけだ。
毎年、この階段を上っていると、心の中の自分が語りかけてくる。
俺はこれが起こるたびにうるさい、うるさい。と自分に言い聞かせていた。
長々とした階段を登り切り、屋上へと続く扉の前に立った。
俺は何も考えず、扉を開いた。
目の前には一回忌の時からずっと変わらない屋上の姿があった。
「今年も来たぞ・・・」
俺はそう言いながらあの柵まで近寄る。
「今年で三回忌だな・・・。早いよなぁ」
そんなことをぶつぶつと彼女が超えた柵の前でつぶやく。
「今言うのも遅いけどさ、俺は今ね、君のことが好きだ」
俺は力強い声で言った。
その時だった。
カツ―ン、カツ―ン。
何か杖を突くような音が後ろから聞こえる。
俺は恐れず、振り向こうとした瞬間。
「久しぶりだね、元君」
俺はその声に聞き覚えがあった。
俺は振り返った。
なんと、そこに立っていたのは。
3年前、この柵を超えて、俺に「バカヤロウ」と言って飛び降りて死んだはずの彼女だった。
俺は一瞬唖然としたがすぐに正気に戻り、彼女に問うた。
「なんで君は生きているんだ?」
彼女は、左手に松葉杖を持ち、右手は折れていて
左足も少し折れているようだった。
痛々しい姿をしている。
彼女は少し上を向いて答えた。
「あの時、偶然ね。 木がクッションになってくれたんだよ」
それでは少し矛盾がある。
「じゃあ何故葬式が行われた?」
俺はまた質問した。
彼女は即答した。
「私はこの3年間、昏睡状態だったのさ。だからまだ全然体が回復していない」
成程。と言って俺は納得した。
「実はね、元君」
彼女は何かを言いかけた。
俺は少し身構えた。
「言いたいことがあるの」
彼女はそう言った後、こう言った。
「あの時は、嘘だって言ったけど。 本当に好きだったんだ。元君の事」
彼女は少し赤面した。
俺は躊躇わずこう返した。
「俺も好きだったんだ」
お互いして赤面する。
「・・・・・・・・・・・・」
少しの間沈黙が続いた。
俺はこのままじゃ何も言えないなと思った。
俺は少し前に出て、静かに彼女に近づき、キスをした。