第8話っ!ミレイユちゃん!
「美味しかった!...でも、なんかお腹痛い...」
御満悦な様子でポイズンスネイクを完食した花凛が、腹部を押さえながら美優のところに戻ってくる。
ちなみに蜈蚣ノ捕食の発動しているときは花凛の自分の意思に関係なく身体が動き、倒したモンスターを丸呑みにするのだ。その時間、約1秒くらいなので、捕食中は隙ができてしまう。とんだ厄介スキルである。
「ちょっと!毒状態になってるよ!」
どうやら花凛はポイズンスネイクを食べたせいで、毒状態になっている様子だった。HPを時間に比例して蝕む状態異常。花凛のHPは元より少なく命を脅かす。
美優は急いで木の杖を装備し、
「ヒール!」
状態異常を回復する魔法を唱えた。
「...あ!なおった!ありがとう!」
腹痛が無くなった花凛は、美優にお礼を言う。
ヒールは光魔法で、キュアーの次に覚えられる。ちなみに花凛が使えるようになったキュアーは、HP回復の魔法だ。
毒状態の効果で減ったHPを回復しようとした、花凛の目の前にシステムメッセージが。
〈スキル : 毒耐性Ⅲを獲得〉
「毒耐性っていうスキルゲットしたよ〜」
毒耐性は、毒状態になると獲得できる。
「おめでと。ちな、私は毒無効になってるけど」
自慢げにきめ細やかな黒髪をかきあげる美優。
耐性系のスキルは、ある一定のレベルになると完全に状態異常系の攻撃が効かない「無効」スキルとなる。
サービス開始当初からプレイしている美優は、状態異常攻撃の常套手段ともいえる毒攻撃を何回も受けていた。
したがって、もう「毒無効」を獲得していたのだ。
「無効!?いいなぁ〜。捕食持ってる私には必須スキルだよね..。あ、『キュアー』!」
毒によって減ったHPの回復を試みた花凛だったが、緑色のバーは少しも動かない。
「杖を装備しないと、魔法は使えないんだけど...」
見兼ねた美優が、代わりにキュアーを唱えた。
「そーなんだぁ..。杖、持ってないや...」
魔法を覚えられるレベルの人は普通、もう杖を持っているのだが、一気にレベルアップした花凛は例外だ。
「後で買えばいいよ。じゃ、取り敢えず、町に戻る?」
街の武器屋で杖を買うことを提案する美優。
実のところ彼女もほとんど魔法を使わず、回復はもっぱらポーション頼みだったので、杖は自分用の一本しか持っていなかった。何かのクエストで獲得しても、売ってゴールドにしていたのである。
「その前にさ!美優ちゃんの戦うとこ、見たい!」
花凛は、親友の戦う姿を見てみたいらしいのだ。
ゲーム内と学校とでは、全然違う雰囲気がある美優の戦い方に、興味をそそられている。
黒髪ロングは腰までストレートに伸びている。
高身長を覆う上衣と袴。
全身黒ずくめの厳かな、それでいて綺麗な、女忍者みたい。
花凛が初めて美優を見たときの第一印象だ。
学校での雰囲気はというと、気だるそうで、いつも眠そうにしているだらしない雰囲気。成績はトップなのだが。
「...ま、いいよ。じゃあまず、ステ見る?」
花凛のも見させてもらったし、と。
「うん!みるみる!」
頷く花凛の隣に座り、ステータス画面を表示させる。
みれいゆ♡ Lv.52
STR 30
VIT 50
AGI 66(+100)
DEX 5
INT 5
装備
【武器(右手)】木の杖
【武器(左手)】無し
【頭】黒蝶の頭巾
【体】黒蝶の上衣
【脚】黒蝶の袴
【靴】黒蝶の草鞋
【アクセサリ】黒蝶の手甲
スキル
〈HP自動回復Ⅵ〉〈MP自動回復Ⅵ〉〈剛力Ⅴ〉〈加速Ⅶ〉〈望遠Ⅴ〉〈聞き耳Ⅵ〉〈魔力操作Ⅳ〉〈毒無効〉〈麻痺無効〉〈睡眠耐性Ⅳ〉〈混乱耐性Ⅲ〉〈毒攻撃〉〈麻痺攻撃〉〈眠り唄〉〈回転斬〉〈スラッシュ〉〈ダブルスラッシュ〉〈五連斬〉〈カバー〉〈防御〉〈堅牢防御〉〈水遁の術〉〈火遁の術〉〈分身の術〉〈暗殺術〉
魔法
炎 : 〈ファイヤーボール〉〈ヒートクライム〉
水 : 〈スプラッシュ〉〈ウォータージェット〉
樹 : 〈プラント〉〈ウッドバレット〉
闇 : 〈シャドウ〉〈黒光玉〉
光 : 〈キュアー〉〈ヒール〉
「へー。たくさんあってよく分かんないけど、凄そうだね!みれいゆ♡ちゃん?」
「名前のこと忘れてたぁぁぁああ!」
美優がらしからぬ大声で叫ぶ。そして赤面。
絶対友達に見られたくなかったプレイヤー名を、まさか親友に見せてしまうとは、と後悔する。
ゲーム内でステータスを見せ合う機会がほとんどないから、油断していたのだ。
「違う!これ!あの!弟がやったやつだから!!」
薄っぺらい嘘をついた。
実のところ、みんなにチヤホヤされる自分の姿を想像しながら、自らゲーム開始時につけた名前である。
容姿は悪くない方だと自負しているのだが、学校では全くモテないので、少しこのVRMMOに夢を抱いていたのだった。
いやまあゲーム内でも結局チヤホヤはされていないのだが、パーティも組まず一匹狼でトップレベルのプレイヤーに仲間入りした彼女を、カッコいい、近寄りがたいがお近づきになりたい、と崇拝しているプレイヤーは大勢いる。
ともあれ、チヤホヤという彼女の望む形では無かったのだが。
「ふうん。まあいいよ」
花凛は一応はその言葉を信じることにして、引き下がる。
1つ美優のことをからかうことができるネタができた!
花凛は内心ほくそ笑んだ。
「ま、ひとまず名前のことはおいといて。..あ!あそこにヘビさんいるよ!!」
名前のことでいじるよりも、美優のステータスをみてもよく分からなかったのだ。取り敢えず戦闘を見てみたい気持ちが強かったらしい花凛。スネイクを指差す。
「そのことは忘れて..。じゃ、気が進まないけど戦ってくるよ」
ポイズンスネイクの戦い方は卑しく、美優は苦手としていたのだが、勝てないというわけではない。
ただ彼女にとって、少し面倒くさいというだけだ。
五層で基本活動している美優にとって、一層のモンスターは敵では無い。
「花凛ほどじゃないけどね。私の戦い方も、結構普通じゃないんだよ」
そう言って美優が木の杖から持ち替えた短剣は、漆黒に染まっていた。