第7話っ!やっとまともな戦闘!
花凛の悲劇の少し前のこと。
「花凛のやつ...どうやったら初心者であのスピードになるんだろ..」
石井美優は花凛を探していた。キョロキョロ、と見渡す度に流れるような黒髪がふわり。
彼女は花凛のクラスメイトであり、親友でもある。
だが、性格真逆。
クラス内でも対極にいるような2人だ。
花凛は陸上部という体育会系なのに対し、美優は部活に入っておらず、まあ俗にいう「陰キャ」であると自負していた。
そんなコミュニケーションを不得手とする彼女が何故花凛とこんなにも親密になったのかは、本人も不思議に思っている。いつのまにか、毎日一緒に行動するようになっていた。
「森林のフィールドか。スネイクがウザかった覚えしかない...」
待ち合わせ場所に生息するモンスター、ポイズンスネイクの戦闘スタイルを思い出し、嫌な顔をする美優。ちなみに名前の通り、毒攻撃をして長期戦に持ち込むというスタイル。
このポイズンスネイクがいるので、余程のことがない限りこの森林フィールドにプレイヤーは訪れない。
トッププレイヤーの1人として名を連ねている美優も既に五層に到達している為、第一層であるこの森林フィールドには久しく訪れていなかった。
「どこにいるんだろ?ここら辺でログアウトしたみたいだし...。危な過ぎるなぁ」
意外にも広い森林で、親友の姿を探す。
フィールドでログアウトすると、次にログインしたときにそのままいきなりフィールドから始まる。丁度モンスターの目の前にいる可能性が存在する。
つまり、急な奇襲の危険があるのだ。
時刻は8時54分。花凛を心配し、少し早めに待ち合わせ場所に来ていた。
すると。
美優の後方100メートルくらいで、プレイヤーがログインする、パァァッという音が聞こえた。
花凛かな?と思い、振り返ると。
案の定花凛はいたのだが。
スパイダーを食べていた。
???????
美優の脳内には疑問符が沢山。
自分の目の前で何が起こっているか頭で処理しきれない、といった様子で呆然と花凛を見つめていた。
「みないでぇぇぇぇぇぇぇえええ!」
花凛の絶叫が森林に響く。
「大体の事情は分かったけど...。そんなユニークスキルがあるんなんて聞いたことないなぁ」
しばらくして。
花凛はステータスを見せたりして、何とかスパイダーを食してした理由の説明に成功した。
ムカデの件は、長くなるので話さなかったが。
ちなみに、まだ美優はユニークスキルを習得していない。そんな簡単に手に入る訳ではなく、花凛の運が良すぎただけなのだ。
「私も驚いたよ!それで、今日はそのスキル達を試してみようと思ってたんだけど」
美優ちゃんもこのゲームやってたんだ、と花凛は続けた。
美優のレベルは52。今、最高レベルのプレイヤーが65なので、結構トッププレイヤーに近いといっても過言ではない。
「分かった。付き合うよ。じゃ、パーティ登録しよ」
花凛と一緒にゲームがしたい、という気持ちもあったが何より純粋に花凛のユニークスキルに興味をもっていた。
美優は『蜈蚣ノ毒塗』とかいう言葉が大好物な、中二病気質の女子高生である。
「ありがとー!...パーティ?美優ちゃん誕生日?」
パーティは2人以上、10人以下で登録できる。
そのパーティ内の誰かがモンスターを倒したら、パーティメンバー全員が倒したことになるというおトクな機能だ。
その説明を美優から受けた花凛は、
「なるほど!じゃあ、やろ!パーティ!」
2人はパーティ登録をした。
昨日試せなかったスキルを早速試してみようと思った花凛は、短剣を素振りしながら、
「毒塗使ってヘビ倒してくるね!」
と、笑顔でポイズンスネイクに向かっさて走ろうとする。
「いやいやちょっと待て。あれ、蜈蚣ノ捕食、発動すんじゃないの?」
その通りである。倒した瞬間に人の丈程あるポイズンスネイクは、花凛の胃袋の中にゴールインすることになるのだ。
だが花凛は、アブナイ趣味に目覚めていた。
「うん。でも大丈夫!スパイダー食べてから、なんか抵抗無くなったんだよね...。スパイダーも割とイケたし!」
.....花凛にとっては不味さの中に旨味がある、くさやとかみたいな感じらしい。いや、やばいだろ。
そして、呆れた表情の美優を横目に、スネイクに向かって目で追えない程の速度で走り去る。
「〈蜈蚣ノ毒塗〉!!!」
黒い短剣が赤紫色に妖しく光った。
走った勢いでそのまま左足で踏み込み、右手に持った蜈蚣短剣で斬りつける。
「よし!」
初めてまともな攻撃ができたことに束の間喜ぶと、すぐさまポイズンスネイクの反撃を予知し、異常なスピードで距離を取る。
だが、その心配は杞憂だったことを『ユニークスキル : 蜈蚣ノ捕食』が教えてくれた。
「....やばい友達を持ったな....」
ポイズンスネイクを一撃で仕留め、すぐさま齧り付いている花凛をみて、美優は独りごちた。