第4話っ!さよならムカデさん!
「やっぱり効かない....」
花凛は力なく膝をついた。
STRが皆無。当然なのだが、STRの意味も分かっていない花凛はどうやったらダメージが入るかなんて知らない。
「...小娘、もしかしてSTRが0であるか?」
自分が爆散すると思っていたので困惑していた伝説ノ蜈蚣であったが、攻撃が入らない花凛の原因の核心を突いた。
「...えすてぃー、あーる?...あっ。ステータスのやつ?」
花凛は教えを請うために伝説ノ蜈蚣に近づいて、右手を振ってステータス画面を表示させる。
カリン Lv.6
STR 0
VIT 0
AGI 100(+1274)
DEX 0
INT 0
(未振り分けのポイントが5あります)
装備
【武器(右手)】無し
【武器(左手)】無し
【頭】韋駄天のバンダナ
【体】韋駄天のジャケット
【脚】韋駄天のレギンス
【靴】韋駄天のスニーカー
【アクセサリ】無し
スキル
〈韋駄天〉〈落下耐性I〉
「......っ!何これ!?私、こんなスキルと装備知らない!」
自分の身に覚えのないスキルと装備に驚く花凛。
初心者シリーズと呼ばれる装備と色かたちは変わらない韋駄天シリーズのため、今まで気づいていなかったのだ。
ちなみにこのシリーズ、AGIを初期100以上でゲームを始めると初心者シリーズの代わりに装備される。
あまり知られていないが、それが極振りへの唯一の救済措置だった。
スキル〈韋駄天〉は、プレイヤーレベルが1のとき、AGIが装備分含めて500以上のプレイヤーが獲得できるスキルだ。韋駄天シリーズ装備は1つにつき200、AGIにプラスされるため、合計AGIは500をゆうに超えていた。
「で...〈スキル:韋駄天〉の効果は、『2分全速力で走る度に、AGIが1アップする。又、上限は無し』ね...」
それはぶっ壊れスキルなのだが。
「よく分かんないや!」
よく分からないようだった。
「いや小娘!それちょー強いぞ!?」
変態ムカデは衝撃を受けている様子で花凛に言う。
「だって、永遠に足が速くなるんだぞ?」
と続けるムカデ。
前にステータス画面を開いた時よりもAGIが増えているのは、先程まで花凛は走り続けていたからである。
花凛は、AGIのことが「素早さ」であることを知らなかったので、
「AGIって足が速くなるの!?」
と驚いた様子だ。
「分かってないで極振りしたのかい...」
辟易しているムカデは「ほら、STR上げてみ?」と諭す。
そしたら攻撃は入るようになるだろう。
だが花凛は、先程のスパイダーを倒した際のレベルアップで獲得したポイントをSTRに1だけ振り分け、残りのポイントは全てAGIに振り分けてしまった。
先程の性悪おじさん(お兄さん)のアドバイスをまだ信じているというのもあったが、陸上部である花凛に、足が速くなるというAGIは何よりも魅力的に見えたのだった。
ムカデは、振り分けられた後のステータスを見て、
「我のドロップアイテムで..化けるか...。いや、流石に強すぎるんじゃ...」
と、意味深に呟いているが、花凛は気にもせず。
「色々ありがと!」
と言って、攻撃が入るようになった拳を再び構える。
「ちょい待て早い早い。最後に2つ。お願いとアドバイスがある」
改まった様子でムカデは遺言を紡ぐ。
「このままAGIを上げ続けるがいい。そしたら、強くなれるぞい」
「分かった!で、お願いの方は?」
頷く花凛。そしてお願いを言うように促す。
色々教えてもらったので、できる限り叶えてあげたいと思っていた。
「できればっ!我を殺す時『死ね!ド変態ムカデ!』と罵ってくだ....
「じゃあね!!ムカデさん!」
バチン(花凛の拳がムカデにHIT!)
パァァッ(青白いエフェクトと共にムカデが消える)
〈隠しクエスト : 伝説ムカデの最後を見届けろ!をクリアしました〉
〈レベルが31になりました。24ポイント獲得〉
〈クエストクリアにより、ユニークスキル : 蜈蚣ノ毒塗、蜈蚣ノ捕食を獲得〉
〈レベルアップにより、スキル : HP自動回復ⅠⅠⅠⅠ、MP自動回復ⅠⅠⅠ、剛力ⅠⅠ、加速ⅠⅠ、望遠ⅠⅠ、聞き耳ⅠⅠ、魔力操作ⅠⅠを獲得〉
〈『スキル : 魔力操作』の獲得により、『炎魔法』、『水魔法』、『樹魔法』、『光魔法』、『闇魔法』が、魔法リストに追加されました。ステータスから確認出来ます〉
一方その頃。
NEW LIFE ONLINE開発チームはというと。
「おい!大変だ!あのムカデが倒されたぞ!!」
「....えっ!?俺達の全力の技術とおふざけの集大成、伝説ノ蜈蚣をか!?」
「やばい!あのぶっ壊れスキルが人の手に渡ってしまう!!」
と、大騒ぎだったことは誰も知らない。