第2話っ!隠しくえすと?
「おー!きれいー!」
初心者ギルド出て周りを見渡す花凛は、暫くこの街の風景に魅了されていた。
レンガの建物が所狭しとならび、RPGでおなじみ武器屋や質屋、防具屋鍛冶屋に挟まれた道には露商も景気の良い声を上げている。そして歩く、荘厳な鎧等に身を包んだプレイヤーたち。
「よし....町の外に出てみよう..!」
見惚れていた花凛だったが、フィールドに出ることを決意する。
町をゆっくり観光してみたい気持ちもあったが、身体を自由に動かしたい気持ちの方が勝っていたようだ。
運動が好きな花凛にとっての大怪我は、死ぬより辛いらしい。
看板に沿って歩いたので、花凛は迷わず草原のフィールドに辿り着くことができた。
見渡す限りの、緑、緑、緑。
このご時世、花凛の住む東京で、広大な草原など存在しない。改めてゲームと技術の進歩を実感する。
「んー!いい匂い!よしっ、走ろぉ!」
草と太陽の匂いを目一杯堪能した花凛は全速力で走り出す。
「...って速っ!」
少し走って、自分の異常なスピードに気づき立ち止まった。
周りでモンスターと戦っていた人や歩いていた人達も驚いた様子で、
「あいつ、速過ぎない?」
といったことを思ったり、実際に口にしていた。
それもそのはず、初心者が蔓延るこのフィールドでは不似合い過ぎる速度である。
「....まあ、いっか!」
大雑把にも程がある性格の花凛は細かいことは気にせず、満足するまで走ろうと心に決めた。
・ ・ ・
少し経った後。
花凛は、というと。
沢山のモンスターを引き連れて走っていた。
しかも、ほとんどがクモ型のモンスターである。
しかも気づけば草原のフィールドを抜けて、背の高い樹々が生い茂った森林フィールドに入っていた。湿度が高く、熱帯地域みたいな感じだ。
森林の奥に行けば行くほど人の気配が少なくなっていく。
「どうしてこうなったのおおお!?!?」
原因は約1時間前。
遡ってみよう。
それは花凛が草原のフィールドを走り回っていた時。
周りのプレイヤー達がモンスターを攻撃しているのを見て花凛も倒してみよう、という考えに至った。
武器をもたない超初心者や、武闘家のような戦闘スタイルのプレイヤーは基本素手を攻撃手段としている。
「よしっ!パァーンチ!」
対峙したのはスパイダーというクモ型のモンスター。
AGIだけが異常に高いが、STRやVITは1、2で、しかも自らプレイヤーに向かってくるので初心者にはうってつけのモンスターである。
花凛は掛け声と共に拳を繰り出した。
それはクモの黒い身体に見事命中したが。
「....あれ?ダメージはいってない?」
クモの上に表示されているHPバーは1ミリも減っていなかった。
花凛のSTRは0である。
「グァッ.....」
花凛が動揺している隙に、とクモは前足を上げ、攻撃モーションに入る。
はっ、と我にかえった花凛は凄まじい速度で後ろに跳ぶ。
スパイダーの攻撃は空を切った。
「ははっ..まさか、ね..」
花凛は乾いた笑みを浮かべながら再度攻撃を試みたが。
拳はクリーン命中。しかし、当たり前のようにHPバーは減っていない。
「えっ....あっ。そう...」
クルッ。(花凛がスパイダーに背を向ける)
ダッ。(花凛が全速力で走り出す)
「なんでだー!?!?」
暫く逃げて、後ろを見てみると沢山のクモがいた。普通スパイダーに追いかけられて逃げられる人はほとんどいないのだが、AGIがトップレベルの花凛はそれが可能だったのだ。
そして逃げ続け、現在に至る。
「さすがに疲れた....」
走りに走って1時間弱。身体的な疲れは無いが、精神的な疲労が溜まってきていた。いくら陸上部とはいえ、結構長い時間のランはキツイらしい。
花凛はもうダメか、と思い立ち止まろうとしたその時である。
ヒュッ。
と、花凛の姿が消えた。
まるで神隠しに遭ったかのように、沢山のスパイダーの姿も同様、消えていく。
「うわぁぁぁぁあああ!」
花凛と数多のスパイダーは、仲良く自由落下。真っ暗闇の深い落とし穴だ。
〈隠しクエスト :「伝説ムカデの最後を見届けろ! 」を受注しますか?〉
落ちていく花凛の目の前にヴォッと半透明に表示されるシステムメッセージ。
無心で「はい」を押した。
一方その頃。
NEW LIFE ONLINE内で、ボブカットの可愛い少女がスパイダーから逃げ回る動画がTwitterに上げられ、軽くバズっていたことを花凛は知る由もない。