第16話っ!肉食女子!
山フィールドに到着した花凛は、手頃なモンスターを探していた。幸い、周りに人は居ない。
「...あっ!あの牛型!おいしそう」
勾配が急な山道を登りながら〈スキル:望遠〉を使っていると、頂上に牛のようなモンスターの群れを発見した。頭からツノが生えているため、突進して攻撃してくるタイプなのだろう、と予想がつく。
軸足に体重を乗せ大地を蹴り、一気に加速。
「〈蜈蚣ノ短剣〉装備っ!」
花凛の右手の平が妖しく光り、黒に染まった短剣が持たれる。
牛の群れまで後30メートル程。
「よしっ!〈百足連撃〉!!」
試したかったユニークスキルの名を口にする。
花凛が刃を突き出すと同時に、無数の斬撃が現れる。
赤く染まったその斬撃全ては、凄まじい速さを保ちながら一匹のモンスターを貫いた。
バッファローと表示されたモンスターのHPバーが急激に減少していく。
「グォ?」
振り向き様に花凛の出現に気付いた時にはもう、
「いただきまーす!」
朝食の主菜になっていた。
「まずはレア肩ロースからいきましょう。がぶり。うーん!おいしい!!よく売れない女子アナとかが『口の中でとろける〜!』とか言いながらめっちゃ『噛みまくってる』肉とは違ってホントに口の中でとろけてしまうんだ!!食べてる感じがしない!!続いてはぁ!ヒレ!私が一番好きな.....ってどしたの??」
皮肉を混ぜながら牛肉の食レポをしていると、他のバッファロー達が花凛と亡骸を取り囲むように、にじり寄って来ていた。
一同、何やら険しい表情をしているが。
花凛は困惑しながら問う。
「えっと...一緒に、食べる??」
「「「キシャアアアッッ!!」」」
当然、仲間の仇討ちだ。
皆同様に頭を下げ、ツノをこちらに差し出して突進を開始。
囲まれている上に突如として襲われ始めた花凛は、僅かに思案する。
(耐久、HPが共に紙同然の私は、一発食らったら多分死ぬ...速さ的には余裕で一旦逃げられるけど、逃げ道が無いな...)
所狭しと円状に追い詰められている為、離脱できる隙が見当たらない。
(毒塗で強引に道を作るか...いや!ここはっ!)
花凛はとあるアイデアを閃いた。取り敢えず肉をありったけ頬張り、
「〈百足連撃〉っ!!!」
先程一匹のみしか倒せなかったスキルと同様の名を唱える。
剣先を上空に向けて。
刹那。
空高くに再び現れた百近くの斬撃は、位置エネルギーを運動エネルギーへと変換し、目にも止まらぬ速度で降りかかる。
「グギャアッ!!」
「ギギィャッ!!」
背に刃を受けた全てのバッファローが突進を中断し、痛みでのたうち回る。
だが、捕食は発動しない。
「ありゃ?倒せてないのか」
窮地は脱せたものの、HPは平均して4分の3程残っているらしい。
「そっか、そういや私、STRほとんど無いんだった」
以前倒したポイズンスネイクは〈毒塗〉の効果の猛毒属性によるものだったし、先程まで食らっていた一匹のバッファローは一度のスキル発動で出現した斬撃を全て、命中させる事によって可能になった討伐だった。
〈百足連撃〉は武器に猛毒属性を付与する〈蜈蚣ノ毒塗〉とは異なり、威力はSTRに依存する。自身のSTRである1プラス〈蜈蚣ノ短剣〉の武器としてのSTR、25の計26、斬撃1つ分の威力など大したものでは無い。
痛みが引いたのか、再度バッファローが襲い掛からんと足を踏み込む。
「あっ!それなら!!」
再び何か思い付いたらしい花凛はまたもや剣先を曇り空に向け、叫ぶ。
「いけるかな...〈百足連撃〉〈蜈蚣ノ毒塗〉同時発動!!!」
再三現れた刃はまたもや姿を見せる。
赤い数多の斬撃は、毒によって紫へと変色する。
バッファロー達の上空のみ、禍々しい色。
「いけぇぇぇええ!!」
毒を含んだ斬撃の雨が降り注ぐ。
「「「グガアアアアアアアッッッ!!」」」
一つ分の斬撃が直撃したのみで、次々に倒れていく哀れなバッファロー達。猛毒は強力だ。
「も、もう食べれないよおおお!」
こちらは次々に倒れていくバッファローに、次々食らいついていく哀れな花凛だ。先程の様に、食レポする余裕など無い。いくら美味だからといって、大量に食べれば飽きがくるのは当然。
「「ギガアアアアアアアアアッッ!!」」
「うわああああああああん!!」
泣き叫ぶバッファローとプレイヤー、降るのは毒の雨。
山頂では地獄絵図が広がっていた。
〈レベルが32になりました。1ポイント獲得〉
〈複合スキル: 猛毒ノ雨を獲得〉