第13話っ!最初のイベント!
「絶対もう行かない...」
リニューアル前は、かの胡散臭い中年じゃなくて普通のお姉さんだったのに、と美優は嘆く。
「ダイジョブだよ、美優ちゃんは可愛いってゆーより綺麗系だから」
「そーかな」
「そーだよ」
慰めるつもりのお世辞ではなく、本心で花凛はそう思っている。実は美優、学校では密かに人気があるのだ。クールビューティーな美少女。まあ本人が知る由もないのだが。
「...いや、綺麗可愛いの話じゃなくて!胸のことだよ!あの店主め...」
花凛の励ましで一瞬怒りの矛先を忘れかけていた美優は、我に帰る。
自分の胸を見つめると、何かすごく物悲しい気持ちになるのだ。
「私は美優ちゃんの胸、好きだな。...学校での美優ちゃんの性格みたいで」
「馬鹿にしてるでしょ」
冗談だとしてもひどすぎる!
とはいえ、美優も胸と性格が控えめなのは自覚している。
「はぁ...」
花凛の豊満な胸を横目でチラチラと見て、ため息をついた。
「ん?私の胸に何かついてる?」
視線に気づいたのか、斜め前を歩いていた花凛が振り返る。
「ついてますよ。大きなメロンが2つ...」
神さまは不平等だ。
・ ・ ・
「...で、気付いたらここに戻ってきた、と」
数分後。
美優と花凛が立ち止まったのは、先程のスターバックスの入り口前である。
雑談を交わしながらあてもなく歩いていたら、いつのまにか引き寄せられていたらしい。
「スタバ、恐るべし...!一体いくら私達のお金を搾取するんだ!この外道!」
花凛は戦慄していた。
「おいしいから仕方ないね」
圧倒的な人気も頷けるというもの。今も、現実世界と同様に女性を中心とした客層が賑わいを見せていた。
花凛も「同意」とでも言いたげにうんうんと頷き、芝居掛かった口調で、
「ありゃあ美味すぎるよ!..スタバに住みたいレベルだぜ...!」
「じゃあ住めば?」
「えっ」
美優がさっきの仕返しのつもりで雑な返答をしたおかげで、花凛は困惑していた。
そんな花凛が間抜けな顔をしていて、美優は少し笑いがこみ上げてきた。
「あはは。...そいやさ」
それはそうと、と話題の転換を図る。
「魔法、使ってみたかったんじゃなかったの?」
「...忘れてた!」
花凛は元気よく返事をした。
美優をからかうのが楽しくて、頭から抜け落ちていたらしい。
「アホか!まあ私も忘れてたんだけど」
美優もツッコミながらも、一応は自分の非を認める。
「じゃあ、今から草原行く?」
草原とは、例のスパイダーうじゃうじゃの第一層フィールドのことである。
美優が問うと、花凛は遠慮がちに、
「行きたいのは山々なんだけど、時間が...」
花凛が開いたパネルの時計は、もう後1分そこらで19時になろうかという時間を表示していた。
「うわっ。もうこんな時間なのか」
美優も驚く。
彼女はトッププレイヤーだが、他の人とは違って徹夜プレイなどは決してしないことにしているのだ。その分朝早くから潜っているらしい。
屈託の無い笑みを浮かべて花凛が「美優ちゃんといると時間が早く過ぎるよ」と言うので、彼女は少しむず痒くなって「そーだね」と返した。
「じゃあ、アウトしようか。...街の中でね」
また今朝のようにはならないように、と美優は続ける。
「あれのおかげで捕食に抵抗が無くなったんだけどね!...まあ、気をつけるに越したことはないよ」
ホントに長く、楽しい1日。
花凛はこのゲームを買って良かった、と心底思えた。
「「じゃあまた明日」」
と、2人がログアウトボタンに手を伸ばしたその時である。
『お前らぁぁぁぁぁあああ!!!ニューライフしてるかぁぁぁああああ!?!?』
「「「うおおおおおおおおおおおおおっ!!!」」」
上空に突如として現れた、近未来的な円盤に優雅に立つ銀髪美少女。
彼女の高貴な雰囲気には似つかわしくない掛け声に、屈強なプレイヤー達が呼応する。
「なにこれっ!?...って美優ちゃんも!?」
狼狽する花凛の横では、美優も咆哮する集団に加勢して叫んでいた。
「花凛!!イベントが来るんだよ!イベントが!!」
興奮した様子の美優。
「それは分かったけど!私、この雰囲気ついていけなさそうなんだけど!」
そんな心配をよそに、上空に立つ銀髪美少女は続けた。
『初めて会った人にはこんにちは!!一層担当ゲームマスターのリラです!!お馴染みの人には....また会えて嬉しいぜっ!!』
「「「うおおおおおおおおおおおっ!!!!」」」
パチキューンとウインクをする彼女に向かって、狂ったように叫ぶ彼女のファン達。
ちなみに、彼女は一層担当のゲームマスター。各層ごとにそれぞれのゲームマスター(美少女)が存在する。その中でも取り分け人気を集めているのが彼女だ。
『今日はっ!皆様にお知らせがあるんだ!!それはぁ....!』
「「「おおおおおおおおおっ???」」」
騒ぎに騒ぐ、冒険者の街。
『イベントの告知だああああああああっ!!!』
「「「うおおおおおおおおおおおおお!!!!」」」
段々と花凛も周りの雰囲気に飲まれ、美優の隣で右手を突き出して大声をあげていた。
『開催時期は3日後の正午からだ!!イベントに関する情報は、随時掲示板に張り出していくぜ!要チェックだ!!』
「「「はぁぁぁぁあああいっ!!」」」
大の大人達が、聞き分けのいい子供のような良い返事をしていた。
『告知は以上!!...じゃあ最後にいつものアレ、やっちゃいますかあ!』
と言って、突如始まるコール&レスポンス。
『リラちゃんはぁぁぁあああっ!?』
「「「ぐうかわあああいいいいいいいっ!!」」」
『リラちゃんはああぁぁぁぁああっ!?!?』
「「「最高だぜええええええっ!!!!」」」
『じゃあ、NEW LIFE ONLINEはぁぁぁっ!?!?』
「「「「サイコーだぜぇぇぇぇええっ!!!」」」」
この街一帯が最高潮に達していた。熱気も凄く、花凛は首元から服の中に扇いで空気を送っている。
そしてまたもや、突如として始まる大人数ウェーブ。
リラはウンウンと頷き、くるりと反転した。
『みんなありがとー!!..じゃあ、さらばだ!!』
「「「行かないでぇぇぇぇぇえええっ!」」」
彼女の姿が夜の空に消えて見えなくなるまで、皆は嘆き続けた。
『行かないでええ!』までがワンセット。様式美である。中には、ホントに泣いてるヤツもいたのだが。
それからはもう、混沌としていたっていう表現じゃ足りない程カオスでお祭り騒ぎであった。
「オラァっ!その程度かよ!お前の胃袋は!?」
道中で急に行われる、親父たちによる大食い対決や酒豪による一気飲み。
「おねーさんたちと踊ろーよぉ」
純粋無垢な少年を誘う妖艶な美人も多く。
「...フフッ。1枚5000ゴールド....」
如何にも闇商売やってますって格好をした男(先程のリラの盗撮写真を売ってるだけ)も取引に勤しんでいた。
「この町すごすぎる!」
興奮した様子で、花凛が叫んだ。
これこそまさに冒険者の街といった風貌に感動していた。
活気に当てられたのか、頰も紅潮している。
「私もイベント発表の瞬間に立ち会うのは2回目だよ。最初はびっくりしたなぁぁ...」
よく、学校で過ごしている時間に発表されたりしているので、Twitterで事後報告を見るだけである。
前々回のイベント告知では、初めて立ち会うことができたものの、美優は全然コールに参加できずにつまらない思いをしたのだ。それから必死に、コールを覚えた。
「そっかぁ。それにしても、楽しみだ、イベント!」
何か、楽しいコトが、始まる。
花凛は元から膨らんでいる胸を更に期待に膨らませ、小躍りしたいくらいであった。
こんな町に行きたいものです。