8話
「子供だなぁ~圭は」
極稀に見る餓鬼のよう圭を、彩はケタケタと笑う。そして二人が立っているのを見て、自分も立つことにした。
「よっ……と! 」
掛け声に合わせて、足を上げ振り下ろす反動で起き上がる。
「咲夜は? 」
「疲れてるから無理ですぅー」
「はーい」
いじけた様に言う彼女が面白可笑しくて、つい笑ってしまう。
そのせいでまた咲夜がいじけるのを見ると、笑いがこらえられなかった。
数秒笑った後、彩はとある犯人を見る。
――ここまで走らせた、犯人くんを。
「……んだよ」
「嫌ぁ~何、いきなり走れなんてさぁ~ねぇ? 理由教えてくれないと、もーこれ重罪だよ? 」
「そうだよ、ちょっと唐突過ぎると思うな! 」
「後ろで何かあったらしいが、それとこれに何か関係でもあるのか? 」
3人にジッと見られ、犯人君__圭は口を開いた。
「ちゃんと理由があんだよ」
すこし遠くの惨状を見ながら、圭は説明し始めた。
「さっき、女性の悲鳴が聞こえただろ。
俺は振り返ったんだよ。やっと殺し合い始まったか……ってな。
実際予想通りで、人混みの中心部で誰かが泡となって消えていた。殺された人だと思う。ルールからして、現実世界に戻ったんだろう。
……でな、別にここまでは良いんだよ。
少し輪の乱れから離れて、いい感じにこう、グサッと。な?
殺れば良かったんだけど……
俺がここまで走って、逃げて言いたいことは、この仮装訓練状態は、余りにも出来すぎているって事。
本当に死んだ人は現実世界に返ってるのだと思うけど、それ以前にこの世界が余りにも現実的過ぎるんだよ」
「つまり……どういう事? 」
仮装世界だから、それなりに近いのは当たり前だと咲夜は思っている。だから、圭の言うことがよく分からなかった。
「要は、全てが現実世界と一緒にしているって事。
人を殺せば血は出るし、殺したと言う感覚も残る。
走って息が上がるなら、きっと痛覚も作動しているハズだし、死への判定もシビアだろう。
ただの刺傷ならば、物凄い痛いだけ。
その後大量出血で死ぬかもしれないし、死なないかもしれない。
完全に殺すなら心臓一突きか、胴体と首を離すか、脳をスライスするかのどれかしか無い。
それに、もし、本当に現実世界と同じならば。
“殺された”と言う感覚もあるハズだ。
人は急所を殺られても、直ぐに死ぬわけでは無い。
少しの痛みを感じてから、死ぬんだ。
だからきっと、心臓を刺されたなら、刺された感触を。脳をスライスされたなら、された感触を。きっと、受けるハズなんだ。
これって、凄く怖いことだから。
人によっては、トラウマになることだから。
……だから俺は、必死に逃げろって言ったんだ。
この俺の……あくまで仮定だけれど、答えに近い真実を伝えて起きたかったから」
「……は何、それ……」
語尾が震える。周りに目配せして、無意識に彩は固く手を握る。
3人は息を飲んだ。言葉を失った。
再現がよく出来ていると言うことは、同時に恐ろしいことなのだ。
殺し合いをする。
“死なない”殺し合いをする。
その恐ろしさを、漸く、理解した。