7話
「走った……今期最大に走ったぞぉ~~私はぁぁぁぁ……」
人混みから随分と走り数分。
ここで良いかなと周りを見渡し、彩は止まった。
遠くの方で殺しあっている人達を、頑張ってるなぁーとずいぶん呑気に思いながら、コロッセオ形の大聖堂の壁に寄りかかるように、ズルズルと座り込む。
そして、頑張った自分の足を「流石だっ! 」と褒め称え、労りながら太腿を揉む。
「気持ち~」
はぁぁっ……と腹の奥底から、めいいっぱい息を吐いて脱力。肩の力が抜けて、いい感じにリラックス出来る。
そんな1人楽しくこの場をリラックスしている彩。
しかし、忘れてはいけない。今、この瞬間、この場では、“殺し合い”が行われていると言うことを。そしてそれを彼女は十分に理解している。彼女は、遠くで飛び交う血を眺め、慣れない殺しに戸惑う人を見ていた。
そして時たまに「頑張れ~」と応援し、爽やかに笑う。
「死ぬ……死ぬ。足痛い。もう、無理」
地面に寝そべり、瀕死状態で息するのは咲夜である。
悲しいことに、お気に入りのリボンが取れかけ、髪も頬に張り付き、汗でベタベタしている。本来であれば気にして大変なことになっていたのかもしれないが、そうも言ってられない。
普段あまり走ることの無い彼女の筋肉は、既に悲鳴をあげていた。動くことも怠く、咲夜はパタリと床に倒れている。
いきなり走れと言われ、即座に彩に手首を掴まれた。そして彼女の足の速さに置いて行かれないように、全力疾走。いい加減怒ってもいいと思う。それでも、咲夜は絶対に怒らないのだが。
「大丈夫か? 」
背中にドスッと衝撃が来て、一輝は振り返りざまに衝撃の主に聞く。
「大丈夫に見えると思うのかー。
そーかーならば一輝、お前は一度眼科行ってこい」
走り終えた瞬間、なだれるように倒れたのは圭も一緒だった。カクッと膝が曲がり、そのままバタン。
普段から鍛えている一輝は、全力疾走なんてまだまだ序の口。
寧ろ普段のアップよりも全然軽いだろう。そのため顔が赤くなるどころか、息すらも上がっていない。涼しげな顔で、倒れ込んで来た圭を受け止めている。
しかし、圭と言う人間はあまり人に助けられるのを嫌う。
一輝を押し退け、震える膝を何とか誤魔化して立った。
それは、圭の男としてのプライドが、許さなかったからだ。
圭自身、あまり表情筋は動く方ではないが、今ではゼェハァゼェハァと肩で息をし、締めていた首元を開け、パタパタと動かしている。となりの一輝は汗一つもかいていないというのに。圭は、なんだか少し悔しくなって一輝の硬い腹筋を叩いた。