6話
始まった。殺し合いが。
しかし、意外と実感がそこまで湧かない。
パッと辺りを見渡すと、殺し合いはあまり起きていなかった。どうしたら良いのかうろついている人が多い。そもそも、異能力を普段使うことがほとんどない為、使い方が分からない人が多いのかもしれない。
いきなり集められ、殺し合いをしろと言われ、そう直ぐには動けない。人間はロボットでは無いのだ。臨機応変に対応出来ないことだってある。
それにしても、この仮装世界はよく出来ていると一輝は思った。
体の感覚、さっき迄の状態、その全てが何もかも一緒だった。一体異能力のからくりは何なのだろう。狼狽えている周りを見て、呑気にそう思う。
「とりあえず、移動でもする…? 」
「…彩ちゃんが言うなら…」
周りを見渡し、人が多いところからは離れた方が良いだろうと考えた彩。殺しをするならうってつけの今だが、とりあえずは4人で話し合う事の方が重要だろう。
彩の言葉に咲夜は頷き、釣られる様に男2人も頷いた。
「じゃぁ、こっち」と彩が先頭切り歩き出す。圭の後ろに咲夜、一輝、圭と続く形で歩き始めた。
そんな時だった。
「キャァァァァァァ!!! 」
背中越しに甲高い悲鳴が聞こえた。
「ヒッ……」
後ろを向いた圭は思わず口を抑える。
人だかりの中心部で僅かだが血のような、赤黒い何かが飛び散っているのが見える。
(仮装訓練状態でも、こんなリアルなのかよ……趣味悪ぃ……)
チッと内心舌打ちする。
あまりにも、この仮想世界はよく出来過ぎている。死んだと思われる人はいない。泡になって消えていった。矢張り、この世界は仮想だ。仮想だが、現実。その境目が全くもってない。
「圭、さっきの悲鳴は何? 」
「後ろを向くな!! 逃げるぞ! 」
彩の言葉の「悲」に被せて圭は叫んだ。
焦ってた為、前にいた一輝の背中をドンと押してしまう。
「早くしろ!! 細かい話は後!! 早く!! 」
「え、え、わかったぁぁあ!! 」
普段あまり焦らない圭の必死な声を聞いて、何事かと思ったが、咲夜の手を握り一目散に走る。
「え、え、? 」
突然の走りに、咲夜は困惑。キョロキョロし出した。
「咲夜、前向け」
「えぇ? 」
なんで!? と後ろを向こうとしたら、一輝に無理やり首を抑えられ前に固定された。流石に、一輝の力で抑えられたら後ろなんて向けない。彼は力がとても強い。何せ握力が60近くあるのだから。
その為、気になったが前を向いて走ることしかできなかった。手がキリキリと痛い。チラリと見ると、少し赤くなっている。
「もう、意味わかんない……! 」
わけも分からなく走った。
足の速い彩について行ける様に、精一杯走った。