5話
「……そろそろ、良いですか? 」
数分生徒を眺めていた平川が、ようやく口を開いた。
藤の様に高圧的な態度では無く、生徒に語りかける様な、物腰柔らかい、聞いてるこっちがリラックスする様な声で。
生徒と近い立場でいたい。平川が教師になってからずっと思っていることだ。だから、教師と言う立場を示しつつも、決して彼らを支配するような態度は取らないと心に決めていた。
周りが自分の声で気づき、騒ぎが静まるのを確認するとまた口を開く。
「静かになってくれて、僕は嬉しいです。ありがとう。
それでは、詳しくこの、“殺し合い”のルールについて説明してきたいと思います。僕も一度しか言いません。集中して聞くように」
殺し合いにルールなんてあるんだぁ……と、結構顔が好みな平川を見つめながら咲夜は思った。そもそも、“殺し”と言うものをした事がないし、よく分からない。よく分からないけどやらなきゃいけない。
「凄いなぁ……ここ。私良くスカウトされたよ……ほんと」
小学生の終わり、いきなり声をかけられて泣いたあの日を思い出す。異能力科のみ、完全スカウト制のこの学園で、あの日は自分がスカウトされていた。
過去を思い出し、しみじみとしながら平川の話しに耳を傾けた。
「まず、ルールその1――――」
生徒を見渡しながら説明を始める。
要約するとこうだ。
①時間制限が存在する 制限時間は30分間
②異能力を使うこと
③死んだ者は自動的に現実世界へと戻る
「ルールは以上です」
そう言って口を閉じた。何故か台から降りることはせずに、またさっきと同じように生徒を見る。淡々と、1人1人観察している。
「少ね……」
「すっごく分かる!! 」
圭の言葉に咲夜が即座に反応した。うんうんと何度も首を振っている。そろそろ頭のリボンが取れそうだ。
それを見た一輝が、無言で彼女のリボンと髪型を綺麗に直し、俺もだ。と言う意味を込めて頷く。
確かに、ルールと言うにはどこか少ない気がする。敢えて言わずに「なにか」を見ているのかも知れないし、単にないのかも知れない。どちらかは分からないが。
「さて、ルール説明はこれで終わりです。質問は受け付けません。自分達で考えてください。“殺し合い”開始は9時から。それまでは各々が好きな様に過ごしてくたさい」
そう言ってようやくく台から降りた。
この建物は、コロッセオの様な形をしているが、平川と藤はその観客席に座り眺めている。
「9時って、そろそろか……」腕時計を確認した一輝が言う。
「そうだね。“殺す”って怖いし、何か分からないけど…頑張らなくちゃ!」
「殺すねぇ……咲夜、実際には死なないんだしそう気負うなよ」
「うんうん、圭の言う通りだね!
別に、死なないんだから。好きにしちゃえばいいんじゃない? 」
ニコリとわらう彩。その姿を冷めた目で見る圭。
「好きに……? よく分かんない」
「咲夜はそれでいい」
首を傾げる彼女に微笑んだ一輝。
時は一刻一刻と迫っている。
そろそろだ。時間は。
いつの間にか時計の針は、9と12を指そうとしている。
1つアナウンスが流れた。――これは、藤の声。
「これより、“殺し合い”を始める。
皆、頑張って人を殺すように……なぁ? 」
そして、けたたましいサイレンが鳴る。
「始まったか……」
「そうだね、圭くん」
現在時刻 9時
“殺し合い”開始