2話
「彩ちゃーん! だいじょーぶだっだぁ~?」
「咲夜~大丈夫でっせ」
走りよって来る親友に、手を広げて包み込む。見上げて来る不安そうな瞳に、パチリとウインクして親友の問いに答えた。
ズビッと鼻を啜り、泣きながら彩を叩く親友――一宮咲夜。頭に付けている大きな赤いリボンを揺らし、そのオレンジの瞳からは大粒の涙を流し、咲夜の大切な半袖パーカーとスカートの所々にしみを作っている。
「ぼ、ぼうだべがどっ……!」
「うんごめん。何語?」
「もうダメかと思った。そう言いたいんだろう、咲夜は」
はぁ…と呆れた様に笑い、咲夜の頭をくしゃくしゃ撫でる男子生徒――佐久間一輝。咲夜の幼なじみで、黒髪を赤に染め、生まれつき鋭い眼光とその大きな体格な為、彼をよく知らない人からは怖がられることがしばしある可哀想な人間。しかし、その見た目とは裏腹に、何かとオカン力が高く料理、家事、裁縫などなど家庭科5の成績を舐めるでない。
「彩、ホント馬鹿だろ。何やってんだよ……お前…………」
「あらあらぁ? 圭くん。死にそうな顔で、必死に手を伸ばしていたと言うのに、ツンデレちゃんですかぁーい?」
安心した…と胸をなで下ろした圭を、これでもかと煽り始める彩。ニヤニヤと笑い、圭の頬をつつく。それにプラスして、咲夜もツンデレだぁー! とはしゃぎ始め、とうとう圭はムスッと頬を膨らませ、彩のつついて来る指を握った。
「い゛!? ちょ、ま、お、おいっ! 離せ、待って。ねぇ、ほんと、指、指がぁぁぁ! 私の指ぃぃぃぃ!!」
握ったと言うよりは、握り潰したの方が正しいのだろうが。
さすがにアラレもない形の指にはなっていないが、明らかに爪を立てた後がある。抉り過ぎたのか、所々に血が出ていた。
よくこれで涙を流さないでいられるなぁ、と一輝は思った。
「それより、そろそろ行かないとじゃないか?」
彩の脛を軽く蹴りながら、気にもせず圭は言う。
「それより……? 圭くん……意外と馬鹿力なんだね……」
若干引き気味で一輝の後ろに隠れる咲夜。
「あぁ、そうだな。中心部に集まろう。
俺達が着いたころには既に何十人か居たが、やはりどいつも中心にあるモニター辺りにいたぞ」
そんな咲夜をナチュラルに撫でつつ、遠目で大聖堂の中心を見る。
「なら、早く向かった方がいいねっ! 」
笑顔で圭に殴り返し、爽やかに一輝と咲夜に言う。
「彩ちゃんまで……」
「仲良いな、ほんと」
「皮肉か? お? やるか?」
「何がどうしてそうなったっ!!」
彩のひねくれ度合いに驚愕した一輝は置いといて、彩は咲夜と手を取り中心に歩いていく。
「あ、あの~後ろの2人は~~」
「勝手にくるっしょ」
「うわ」
興味無さげに言い放ったその言葉通り、一輝も圭もちゃんと二人の後を追って歩いて行った。ある一人に至っては、全速力で二人を追い、その後彩に向かって飛び蹴りをお見舞いしたらしいが。それは宛ら、今までの溜まりに溜まった憎悪が爆発した様だったと、後に後ろでのんびり歩いていた男は語る。