11話
やっぱ凄いなと、心の中で圭は思った。
目の前に広がる、非日常な光景。幾ら作戦だからと言っても、ここまで柔軟に迅速に動ける人は居るのだろうか。少なくとも、高校1年生ではそうそういないだろう。耳に微かに入って来る、身体を強張らせる音、息を呑む音、何かが風を斬る音。全部、目の前の光景から聞こえてくるものだった。
本来であれば、自分も何か行動を起こした方がいいのだろう。そうは思うが、彼女――彩のその冷めた極寒の目と暖かく微笑みかけてくる口が、足を止まらせる。
――何もしない方がいい
――下手に動いたら、俺もあぶねぇ
頭だけが嫌に冷静で、今の状況を分析して静かに佇んでいた。
敵の中で最もキレが鋭い、日本刀を持った男子生徒が彩に向かって一直線に斬りかかる。男の少し長い前髪が風に揺れ、ギラりと光る目が見えた。
見た目60cm程度の刀が、彩の首めがけて突進する。
足を踏み込み、腰を低くし、下から上へと突き上げる様に。
彩は何も武器を持たない。負ける。だれもが思った。
――――しかし、その考えはすぐに覆されることとなる。
「なっ!? 」
彩が消えていた。少し前まで、切っ先の直ぐ先にいたと言うのに。
――何処だ
――こいつの異能か!?
――何処に行った!!
虚しく振り下ろした刀をゆっくり鞘に戻す。深く息を吸い、吐いた。焦りは禁物だ。気持ちを切り替える為に、一度退こうと後ろを向いた瞬間
「やっほ」
二コリと効果音が付きそうなくらい、仮面の様な笑みをした彩が男の後ろに立っていた。
「いつの間に……?」
「隙ありっ!! 」
動揺した瞬間、彩は右足を振り上げる。反応が遅れた男は瞬時に手をクロスに構え、その打撃を受けた。
手に響く鈍い痛み。ジンジンと打撲した場所から広がっていき、手から腕、肩へと痙攣して行く。
「日本刀使う君がさ、手をダメにするって、それこそダメなんじゃない? 」
片眉上げてニヤニヤ笑う彩。
「……別に、慣れてる」
何度か握り直し、その感触を手に馴染ませる。
異能として鍛刀された、自分の愛刀。唯一無二の相棒。
頭の中に、多くの死闘を繰り広げた自身の兄の顔が浮かぶ。
――あの、兄の様になりたい。
力強く、刀を握った。