7話__ヨグ=ソトースが最強だった
アブホースにろる空間魔法騒ぎが落ち着き、平静を取り戻した市場。
町中で魔法の類を使わないようにアブホースにきつく戒めたあと、鞄から地図を取り出した。
現在地を探し、目的の場所まで指で線を引く。
「そろそろ本屋か図書館に行こう」
召喚術師についての勉強もしたいし、外なる神や虚無時代についても知っておかないといけない事がある。
なんとしても、ウサギに囲まれたもふもふライフをせねば。
それに、ウサギを呼ぶだけでなく、勇者パーティの召喚術師として技術を磨く必要がある。
出したヤツは消せない…というか、命令を拒否するので、どうにか戻す方法か、別のものを呼ぶ方法を探さないといけない。
それと、背負っている少年が起きるまでに勇者と合流したい。
まぁ、背負ってるのはアブホースだけど。
「どけ!切り殺すぞ!!」
街をブラブラしていると、盗人が現れた。
小物店から宝石の類いを盗み出したらしい。
まぁ、卓越した神の力によって瞬時に裁かれた訳だが。
「ヨグ=ソトース。スキル、魔法を一切使用せずに犯人を確保」
「承知」
そして一瞬。
ヨグ=ソトースが消えたかと思ったら、犯人がぐったりとした様子で倒れている。
頭の位置に仁王立ちをするヨグ=ソトース。
「完了」
ヨグ=ソトースは犯人親指と人差し指でつまみ上げると、私の元に投げる。
「満足でしょうか」
私は何も言えない。
スキル、魔法の一切を使用しない。
命令に忠実なヨグ=ソトースがこれに背くとは思えないし、事実、誰も魔法の気配を感じていなかった。
私が表情を曇らせているのに気づいたのか、ウボ=サスラが小声で告げる。
「ヨグ=ソトース様は我々を凌駕する屈指の存在。
あのお方と我々では比較にもなりませぬ」
そんな大事を聞き流しながら図書館へ向かう。
彼らを還す方法、召喚術師として腕を上げる方法、そして何よりも、彼らは何者なのか?
いや、分かっている。
彼らは旧神。
古の戦争にて朽ちた神々。
図書館でありったけの本を読み漁る。
歴史書、文献、歴史の教導書など。
召喚術師の技術よりも、むしろそっちの方に熱が入ってしまったのは言うまでもない。
そう言えば、日が落ち始めている。
早く勇者が見つけた宿屋を探さないと。
勇者と魔法連絡とかを使うと、一気に精神が蝕まれるとウボ=サスラが教えてくれたので、今回ばかりは使わないことにする。
勇者スキルとは、普通とは大きく異なる補正がかかるというスキルで、より簡単に、より強制力のあるものに変化する。
恐ろしいスキルだが、それだけ。
補正は掛かるが、それは技量とスキルの質に大きく影響される。
これが、ルゼリアスが歴代最強の勇者と揶揄されている理由である。
だが、ヨグ=ソトースはあのクズ勇者のスキル群を見抜いている。
勇者スキルに、精神干渉スキル、剣術と格闘術、元素魔法と聖魔法。
主にこのスキルだった。
だが、この程度で歴代最強と言われるには流石に無理がある。
これは恐らく隠蔽系のスキルを使っているのだろう。
卓越した能力を持つヨグ=ソトースも、隠蔽スキルを解析するのには時間が掛かる。
もしかしたら無理ってこともあるっぽい。
流石に勇者ともあろうお方ならばその辺きっちりしてそうなので、隠蔽先を解析するのは無理そう。
じゃあどうやって勇者を探せば…まてよ、ヨグ=ソトースなら魔法通話でも精神を保護できるのでは?
魔法に対する極度の耐性を持っていると言っていたし、勇者も、こいつとは命懸けの戦いになると言っていた。
こいつなら勇者と魔法で通話できるはず。
「そう思うんだけど、どう?」
「可能」
「じゃあ、よろしく」
そう言うと、ヨグ=ソトースの視線は空に向き、意識が途切れる。
魔法通話…いや、その下準備だ。
魔法防御、魔法無効、精神保護などの耐性系魔法の究極を零式魔法で使用する。
いや、ウボ=サスラすらも驚愕の表情を見せているあたり、それは現代魔法や零式魔法などではなく、魔法の域を超越した、なにかとんでもないものなのだろう。
ウボ=サスラは強い、アブホースも同等に強い。
2体とも種族なんてものの枠を超え、神々を名乗る資格すら得ている。
だが、ヨグ=ソトース。
やつはそれらとも違う。
外なる神?
虚無時代を生き抜いた?
図書館で、最も昔の文献から見てきたが、外なる神も、虚無時代なんてものもこれっぽっちも書いていなかった。
ならば、ハッタリか?
答えはNo
ヨグ=ソトースはそう言わしめるだけの力を見せてくれる。
彼らは、何者なのだ?
そんな答えも無いような自問自答をしていると、ヨグ=ソトースがこっちを向いて頷いた。
「…ルゼリアスとの思念の接続を確認、通話開始」
そして私の目の前で、過去1度もない大規模な魔法通話が人知れず行われた。
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