6話__レネストラの街
小石を蹴り飛ばし、草を挽き潰しながら勇者パーティ一行の馬車は、大陸中央近くの街、レネストラに辿り着いた。
レネストラは、中央の王都と並ぶほどに商売が盛んで、様々な武器や道具を取り扱っている。
ポーション等の揃えが悪いのが難点だが、それが気にならないほどに素晴らしい街だ。
だが、
「いい街だな、活気で溢れかえってる」
「はい!勇者様!」
「その通りですね!」
「あぁ、ここは素晴らしい」
表情もある抑揚もあるのに無機質な会話をする勇者御一行。
私はこんなにはなりたくない。
というか、さっきからザワザワ周りがうるさい。
勇者御一行も気まずそうにこっち見てくるし、街の人たちもこっち来るし…って、ウボ=サスラしまうの忘れてたぁ!!
まぁ、アブホースは人型だし、小さいから良しとしよう。
「ウボ=サスラ…!縮んで…!」
小声で訴えかけると、ウボ=サスラは小さくな…ってない!
色黒で筋肉の塊みたいなジジイになった。
長いヒゲや、筋肉に刻まれた傷跡が野蛮な感じで好きな人は好きそう。
「もう少し人間らしく!」
慌ててそう告げると筋肉は少しだけ萎んだ。
細マッチョ。
そんな表現が似合う姿になったが、服を着ていない。
「早速だが宿屋を探そうと思う。リーシャは魔王や、周辺の魔物の情報を探してきてくれ。それと、エリンとセレンで買出しに行ってきてくれ。ロレアは僕と一緒に宿を」
「服屋行きたい」
「…あ、そうか」
強引に勇者の誘いをぶった斬ると、ひとり街を散策する。
本屋、食事処、観光案内所、などなどさ迷っていると衛兵に話しかけられた。
「後ろのご老人は知り合いか?」
「え、いえ、知りません」
そう言った時もウボ=サスラはポーカーフェイスを崩さない。
衛兵にちょっとこっち来てと言われて腕を掴まれた直後、衛兵は痙攣して卒倒する。
そりゃそうだ。
ウボ=サスラは今も膨張し続ける魔力をその体内に封印している。
人間を遥かに超越した…魔王級を越えたそれを前にして立っていられるだけで、それは素晴らしいことと言える。
そして服屋にてワイルドな革服を購入し、床屋でぼうぼうの髪を整えた。
ウボ=サスラのために金貨2枚を使った。
残り8枚。
次は…そんなことを考えていると、目の前に変なものが映った。
ボロ布で全身を覆い隠した姿。
薄らと見えるその表情は憔悴しきっていて、瞳は曇っている。
人事でないと思いアブホースに確保させる。
フードを取ると、僅か10歳程の幼い少年がそこにはいた。
「君は?ここがどこか分かる?」
「…魔王」
「は?」
「魔王メトゼクセル」
「ま、魔王!?」
分からず聞き返したが、気がつくと少年は眠っていた。
「…これから私の服を買いたいんだけど…」
周りを見渡し、保護者らしき人物はいないことを悟る。
少年に引き取り手を訪ねようにも眠ってしまっているし、疲れきっているようなので起こすのも忍びない。
仕方ないので宿まで連れて帰りたい。
「アブホース、この子持ってて」
ぱっと腕を差し出したかと思うと既に私の腕にはかの少年はおらず、アブホースの腕の中に大切に抱えれられている。
「そのまましばらくお願い」
「…」
無言で頷くアブホース。
渋々という感じではなく、深く頭を下げて最敬礼1歩手前みたいなお辞儀。
やだなぁ恥ずかしい…そんな呑気なことを考えていると、その少年は突然消失する。
「はぁ!?」
民衆の目線が一気に集まる。
中には少年が消失したのを間近で見ていた者もいたようで、ザワザワと話が広がっていく。
まずい、咄嗟にそう感じた私はアブホースに早急に指示を出す。
「アブホース、少年を出して」
「…」
すると少年はアブホースの腕の中に再び舞い降りた。
ふざけんなよアブホース…人前でそんな事したらダメに決まってるだろ?
けど、これから野次馬が集るかと思ってたが、ゾロゾロと人だかりは散っていった。
あれあれ?と考えていると、ウボ=サスラが口を挟んでくる。
「主様。恐らく、空間魔法の一種と思われたのでしょう。ですが、彼奴はその程度の魔法を使うほど落ちぶれてはおりませぬ」
「へ、へぇ、そう」
どうやら、彼ら古き神々は、零式魔法というものを使うみたい。
零式魔法は、現代の魔法と違って、その力が馬鹿にならないほどに強い。
それこそ、零式魔法のファイアと、現代魔法のチャージマグマボールは同じ、いや、それ以上かもしれない…とのこと。
ただ、零式魔法は燃費が悪い。
今の魔法になれた者がファイアを撃とうとすると体内の魔力を半分近く持っていかれるという。
しかし、彼らに魔力の限界というものは酷く稀有な存在。
ほぼ無制限に乱射できる上に、その威力は桁違い。
私はまた彼らの強さの秘訣を知ってしまったのだ。
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