5話__外なる神/よく分からんけど/基本タコ
「済まない、馬車の中は4人が限界でね…その、出来れば荷台に乗ってほしいのだが」
「構いませんよ…」
むしろ願ったり叶ったりだし。
っていうか、この気持ち悪いタコ共なんだけど。
馬車が走り出すと共に、空が陰る。
巨大な地鳴りが発生し、馬車を追随するように巨大な影は追ってくる。
ヨグ=ソトース。
最初に召喚したヤバいタコだ。
なんか、魔王級の強さを持っているらしい。
その魔王級というのがどれほどのものかは分からないが、とにかく邪魔だった。
洗濯物は乾かない、村の者達は重武装してこっち来るし、なんか見ただけで錯乱状態に陥ったり、数人まだ目覚めていない奴等もいるらしい。
勇者も、コイツとは命をかけた戦いになる…と思った、とか呟いていた。
このタコ、もしかしたらヤバいのかもしれない。
最悪はこいつで実力行使することにしよう。
2匹目はウボ=サスラ。
魔王級とまでは行かないが、相当上位の魔族程の力を持っているらしい。
そして、何よりも恐ろしいのが、こいつの魔力は呼んだ直後から膨張し続けている。
とのこと。
これは何も知らない私でもおかしいと気付く。
魔力というのは、最大値に限界があり、そこから使用すると時間と共に回復していくのだ。
つまり、ウボ=サスラはその魔力に上限を持たない存在。
ということになる。
しかも、おっぱいが言うには、今やその魔力量は旧魔王を遥かに凌駕しているそうだ。
そして3匹目、アブホース。
比較的人間に近い姿をしているが、その全貌は大きく異なっている。
亜人種のマーマンが近いかもしれない。
水かきやヒレを持っていて、気味悪いコバルトブルーの肌で、あと、顔面から触手が生えてる。
今こいつは馬車と同じ速度で歩いている。
もちろん、その大きさは我々人間と同じ。
なのに、散歩するかのような動きで、時間と空間を無視して歩いている。
目をこすっても変わらない事実。
イタズラ好きなのか、窓を眺めていて、瞬きをすると突然目の前に現れたりする。
本当怖いよ、その特技。
まぁ、こいつらは実際私の命令に忠実だし、対勇者決戦兵器として温存しておく。
今馬車を覆う入道雲の如しヨグ=ソトースさんは、縮んでもらいたいが、どうだろうか?
そう思念を飛ばすと、その巨躯は発光し、みるみる小さくなっていく。
その光は私の膝元に集結し、そして…小さな女の子の形になった。
人の姿に慣れていないのか、不機嫌そうに指の爪を噛んでいる。
灰色をベースにした髪色だが、光が当たると虹色に輝いている。
無機質な瞳は美しく儚げでもある。
…可愛い。
急激に母性本能を刺激される可愛らしい容姿。
王国貴族でもなく、平民でもない、変わった服装だが、別段違和感も感じない。
しかし、その中身は別物。
渦を巻く宇宙的なまでの魔力。
その渦中には暗黒の空白が胎動している。
おぞましい。
すると突然方を叩かれる。
この指紋と体臭は、勇者!お前だな!
「なにか?」
「いやぁ、何でもないんだ。えっと…その子供さんは?それと、さっきまでいた召喚獣は?」
「あぁ、それ、コイツ」
といって目の前のヨグ=ソトースを指さす。
勇者は目を見開くと、一瞬醜悪な笑みを浮かべて舌なめずりをする。
「そうか、ロレアはこんなことも出来るのか!すごいな」
何を言っているのか分からない。
まぁ、ほぼほぼ襲うつもりなんだろうけど、ヨグ=ソトース怒らせても知らないよ。
なんたって魔王級の魔力なんだからね。
そんな目で内心ニヤついていると、勇者はまた女性陣を引き連れて馬車の前の方へ歩いていった。
しばらく進んでいると、何体か魔物の群れに出逢う…はずだった。
確かにここ、ノリッチ高原にはかなり強めのモンスターが現れることがえある。
運が悪いと、Cランクのクリムゾンスパイダーなんかが出てくる時もある。
そしてこの旅路は、最悪運。
それほどなのに魔物との遭遇はなかったのか?
いいや、正確にはあった。
ゴブリンやスライムは何体も、クリムゾンスパイダーは2体も出た。
だが恐ろしいことに、車線上にモンスターが入った瞬間、アブホースかウボ=サスラによって存在自体が抹消されていて、なんと、勇者御一行はその事実に気付いていない。
ヨグ=ソトースは私の膝の上で横になっている。
膝枕って気持ちいいよね。
でもこいつあのタコだぜ?
正体不明の人形をした何かが私の上で横になっているんだぜ?
いくら忠実だとしてもこれはないわ。
ん?正体不明?
そうだ、魔王級なんて言うぐらいだから一定の知能はあるんじゃないの?
早速意思疎通を図る。
「君たちって、なんて言うの?どこから来たの?」
まぁ流石にモンスターと人間だし…
「ヨグ=ソトース…太古の戦争で朽ちた外なる神」
うぇうぇ!?
君って喋れたのか。
にしてもいい声してんな…cv誰よ…。
「外なる神?」
「虚無時代を生き抜いた強き者の総称」
「へ、へぇ」
その時、私たちの会話を街が見えたという運転士の怒号に掻き消された。
今から街に入るんだ…あれ、なんか忘れてるような。
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