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4話__一筋の光明

絶望の朝。

荷造りは済んでいる。

荷物は纏めてあるし、歯ブラシと着替えは持った。

あぁ…めんどい。

あの自己中勇者に付いていくなんて。

正直、実力はあるんだとしても、性格があれじゃあ冒険なんて流石に無理。

女共の口実と勇者の実像がかけ離れていてどうにも何か種があるようにしか見えない。

家族のあの笑顔の一件もそうだ。

歓喜に飛び跳ねるならもっと感情がこもっていてもいい筈なんだ。

まだみんなで釣りをしてドリルカジキ釣った時の方が顔は凄かったぞ?いろんな意味で。

きっと、精神支配。

私が勇者の野郎と会話している時もそうだった。

妙に視界がふらつくし、頭に何かが入ってくるような錯覚も憶えた。

気のせいだと思っていたかったが、色々とおかしい。

いつか、私もあぁなってしまうのかな?

そんなことを考えていると、ふと手が震えていることに気がついた。

涙も溢れていて、ポタポタと床を濡らしている。


「怖いよ…お父さん、お母さん…フレア…」


もうすぐ集合時間、あぁ、もう二度とここに帰ってこれないかもしれない。

怖い、怖い…きっと彼女らの中にもこんな思いをして壊されてきた者もいるのだろう。

持っていこうと思った祖母の形見を握りしめて声を出さずに泣く。

…すると


「おばさん、おじさん!ロレアいる!?」


「あっ、デルタくん!今ロレアは勇者様のパーティに…」


そこまで聞こえて来たのが分かると、急いで服を着替え始める。

いや、でも寝巻きなんて何度か見られてるし…いやダメだ。

あの勇者のせいでいろいろと男性不信になり始めてる。


私が着替えを済ませるのと、デルタが部屋の戸を叩くのはほぼ同時だった。


「はいるぞ」


「うん」


戸を開けて入ってきた赤髪の青年。

また隣町の不良共とやんちゃしたのか、顔が傷だらけだ。

デルタ=オーヴェル、今年で15歳。

結構仲良くしてくれた、唯一の幼馴染。

まだ私より少しだけ年下なせいで、まだ儀式を受けられていない。

もう数月待てば職を貰える。


「デルタ…おひさー」


「あんま無理すんなよ、行きたくないなら断ればいいだろ」


精一杯の笑顔で手を振ったが、デルタには見透かされていたようだ。

やっぱりデルタにはバレちゃうかーと頭を掻いていると、おもむろにデルタが歩み寄ってくる。

そして


バン!


え…今時壁ドンですか。


「なぁ、なんでそこまで強がるんだ?そんなにあの勇者に惚れ込んだか!?」


「ふ、ふざけんな!あんな野郎死んでも好きになれるかっつうの!」


そう言うと、デルタは拍子抜けした顔で私を見つめる。

なんでかは分からないけど、何かあるんだろうね。


「…精神支配だろ?」


その言葉に私はドキッとする。

スキルや職業に関する知識を得られるのは15歳からという決まりがある。

なぜデルタが知っているの?と聞くと、彼は教えてくれた。

昨夜、私が断った夜の会合で行われた全てを。

正直、吐きそうだった。

そりゃそうだ。

私もいつかその中に入ってしまうのだから。


「…俺は、あいつらが嫌いだ」


「…うん、私も」


じゃあ、と言葉を紡ぎ、押し黙るデルタ。

時々見せるその表情、目をキラキラと輝かせながらも、話していいのか逡巡している。

何か作戦を立てている顔だ。


「今度は何を企んでるの?話してごらん」


「実はな…」


一通りの話を済ませた時、丁度いいタイミングで母から呼び出しがかかる。


「うん、今行くね」


そう言うと、開け放たれた窓を見遣り、薄らと笑う。


「上手くやってね、デルタ」


私は階下に降りると、朝食をササッと平らげる。

髪をとかし、歯を磨き、顔を洗う。


「気合い入ってるわね、勇者様に気に入られたいのね」


「うん!」


そんなわけがない。

そんなはずが無い。

それでも、今はそう言うしかない。

目一杯の笑顔で、元気で。

そして私は家を出た。


◆◆◆


勇者達は目の前。

何やら馬車を手配しているようだ。

馬車の運転士と相談しているのは緑い魔術師。

白い弓使いは地図を確認しているし、

青い短剣使いは各々の武器を手入れしている。

勇者は、寝っ転がって空を見ている。


「青いな…」


知らねぇよ。

そんな訳の分からない一言に皆感動していた。

気持ち悪い。

訳がわからない。

なぜそこまで勇者に魅入っているのか。

いや、分かっている。

勇者の精神支配。

あれをどうにかしないと。

多分、あれは1度掛かってしまうと、勇者以外の者は絶対に解けないタイプの物だ。

キーワードロックというものがあり、それによって鍵をかけている為、例え勇者を殺してもその支配は終わらない。

厄介なスキルだ。


やがて私達、勇者パーティはピュトロア村を出発した。

揺れる馬車の中で私はため息をつく。


勇者の精神支配から逃れるためにも、二人っきりになる事は避けたい。

あと、支配済みの女性陣も信用出来ない。

精神支配にも様々な掛け方があり、体から思念波を発するものや、言葉に乗せるもの、最も強力なのは、相手に直接触れ、呪文で強引に引き込むもの。

公の目がない場合、3つ目をされるとゲームオーバー。

まぁ、つまり、わたしは勇者を延々避け続けるパーティメンバーということだ。


あ、どうやって寝よう…

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